山崩れ
坑道内から急ぎ脱出し、ソウマは臨戦態勢を。エグゼはアーニャを守る態勢をとっていた。
「ころ……す。殺す?」
ノームが頭を抱えて倒れこむ。
「エグゼ……! 僕を殺して……!!僕がこの大地を破滅させる前に!!」
「ノーム?」
先ほどまでは強力な敵意を剥き出しにしていたノームは一転して自分を殺せと懇願してきた。
「どういうことだ?」
なお止まないノームの攻撃をいなしながらソウマは混乱していた。ただ、エグゼに言われた「ノームを殺すな」という命令を守っているだけだ。
「ノームの……、魂に気持ち悪い魔物の魂が、融合してるの……」
アーニャが振り絞るように言葉を発する。
「魂に魂が融合?」
それなら、二重人格のようにノームの意識が入れ替わっていることも納得がいく。完全に融合しきれてはおらず、二人の意識が代わる代わる出てきているのだろう。
「そんなんどうすればいいんだよっ!」
事ここにおいて、このレベルの戦闘になるとエグゼではなんの役にも立たなかった。
ソウマは二人をかばいながら、ノームの連撃を躱し続けている。
『なかなか粘りますね、ソウマ君』
「っ!!?」
ノームが今までにない声色で話し始めた。
「その声は……っ!!」
聞き間違うはずもない。王を、国を乗っ取った裏切り者。そして今は新たな国を作り恐怖政治を持って民衆を支配する暴君。
「ミハエルっ!!」
エグゼの怒号。それはソウマとアーニャが初めて聞く怒りの声だった。
『まだ生きていてくれたのですね、エグゼ君。楽しみがまだ続くようで嬉しいですよ。そして、初めましておチビさん』
今度はアーニャの方を向き直り飄々と挨拶をする。
『魔眼持ちだとは聞いていましたが、まさかこのノームの魂まで見通せるとは……。確かに、貴女なら黒のカーテンの秘密を解き明かせるかもしれませんね』
それでもミハエルは余裕を崩さない。
『さて、そろそろお相手しましょうか』
言い終わると、ノームはスルリとソウマに近づく。その足運びは熟練した武闘家のそれだった。
「っ!」
先ほどまでは力任せに魔法を使い、大地を操り攻撃を繰り返すだけだった。それが、今は人が変わったように流れる攻撃を仕掛けてきた。
「ソウマ、気をつけろ! ノームの魂に寄生してるのは『造魔』だ! 造魔はミハエルが遠隔で操ることもできるんだ!」
そしてミハエルは格闘技だけはない。武芸百般すべてに精通している。その腕前は全てにおいて達人級だ。
いきなり攻撃方法が変わった相手に対し、若干の戸惑いを見せたソウマだが、すでにその攻撃に対応していた。
流水のような動きで拳、足を振るう。
ミハエルの攻撃は既に見切られすべての技にカウンターを取られていた。後の先で攻撃をいなしていたソウマの動きが更に冴え、先の後、先の先で対応するようになっていた。
ミハエルもエグゼも驚愕の色を隠せない。確かに強いとは思っていたが、ここまでとは!
『さすがですね、ソウマ君……っ!!』
焦りの混ざる声でミハエルが叫ぶ。追い詰められたミハエルは隙をついて刃物ような岩石を自身の首筋に当てた。
戦っているのはミハエルでも、その体と魂はノームのものだ。格闘技でソウマには勝てないと悟ったミハエルは、ノームを人質に取ったのだ。
「ぐっ!」
ソウマの攻撃が止み、その攻撃の矛先はエグゼに向いた。
エグゼは辛うじて身を翻したものの、その岩の槍は確実深いダメージを与えていた。
「エグゼっ!」
エグゼのおかげで攻撃を避けられたアーニャが叫ぶ。
「しまった! アーニャ! エグゼを連れて一旦離脱しろ!」
『させません!』
逃げようとする二人に追撃を仕掛けるミハエル。しかしその攻撃のことごとくはソウマに防がれた。
「させませんはこちらのセリフだ!」
尚もソウマはノームの前に立ちふさがるが、ソウマにも打つ手はない。ただ殺さぬように攻撃をよけ続けることしかできないのだ。
『ここらへんで幕引きにしましょうか、ソウマ君』
ノームの攻撃がぴたりと止んだ。
『もっと遊べると思いましたがあなたは余りにも強すぎた。ここで死んでもらいましょう』
ノームの攻撃がぴたりと止んだ。
『もっと遊べると思いましたがあなたは余りにも強すぎた。ここで死んでもらいましょう』
ノームが手を空に掲げる。強大な魔法力が迸る。
「これは、魔法力……」
黒のカーテンにより使えなくなったと言われる魔法。なぜその魔法をノームが使えるのか。
『ノームは精霊の寝所から離れたら即精霊界に帰されますが、一つだけこの物質世界にとどまる術があるのですよ』
それは禁忌。良識のある人間ならとてもではないが使えない方法。
『ノームの魂を魔法力に変えるのです。それなら、黒のカーテンは関係ないですからね』
掲げた手を振り下ろす。
その瞬間。
山が崩れた。




