精霊ノーム
最奥に向かう三人の行く先が緑色の光が見えた。壁前面に生えた光苔が暗い坑道を、松明がなくても洞窟内を見渡せる程明るくしていた。
「なんか、神秘的……」
アーニャが呟くのも無理はない。こここそが、この山。この土地を守る精霊『ノーム』がいる場所なのだ。
先は行き止まりになっているがかなりの広さがあった。その中央には。
「ノームっ!!」
エグゼが語り掛けるとノームがこちらを向く。しかしその様子はおかしい。目の焦点はあっておらずこちらを認識していないかのようだが、こちらを向いていた。
「っ」
ノームがこちらを見た途端、アーニャが壁際によると、胃の内容物を吐瀉する。
「なに? あれ……」
更なる吐き気を我慢しつつアーニャが立ち上がる。異様なのはエグゼやソウマにも理解できたが、彼女は一体なにを見たのか。
「たす……、けて……」
涙を流しながらノームは助けを求めた。意外、といっていい反応だった。問答無用で攻撃を仕掛けてきてもおかしくない雰囲気だったが。
「うぐっ!」
エグゼはこれ以上アーニャがノームがを見つめないように、ノームの視線からアーニャを守るように立ちふさがる。
「ノーム、どうしたんだい?」
精霊使いであったソウマの声は届くのか。ノームはエグゼを見る。
「エ、ぐぜ……?」
彼らの頂点に立つ『大精霊』と契約していたエグゼを知らない精霊はいない「おね、が、い。ぼくが、ぼくでい、られ……る、うち、に……」
「どういうことだ、エグゼ。敵はどこだ? ノームは一体……?」
唯一事情がよくわかっていないソウマ。それも無理なことだった。魔眼使いと精霊使い。この二人だからこそ気づいた異変。
「魂が……、二つ融合してる」
吐き気を抑えてアーニャが言葉発する。その言葉を受けてノームの表情が一転する。
「殺す。ここに立ち入る者は、すべて殺す」
今までの悲しみが一変。憤怒の表情を浮かべると、三人に向かって手を掲げる。
「?!」
最も早く動いたのはソウマだった。坑道内の通路や壁が敵を穿つ巨大な槍のように隆起し、三人に襲い掛かる。
ソウマは拳を振るい、その巨岩を薙ぎ払う。エグゼはアーニャを庇いながら撤退をした。
「くそ、何だってんだ!」
先ほどの雰囲気からはとても攻撃を仕掛けてくる感じではなかった。それがいきなり敵意を剥き出しにして襲い掛かってきたのだ。ソウマがいち早く察していなければ全滅していたことだろう。
「行くぞ!」
ソウマは迅雷のような速さでノームに攻撃を仕掛ける。しかしそれを止める声が聞こえた。
「だめだ! ソウマ!」
その声にソウマは攻撃を躱しながら飛びのく。自らに迫り来る岩を破壊しながらエグゼたちがいる方へ撤退し、坑道の出口へと走りだした。
「どういうことだ、エグゼ。倒しちゃだめだと!?」
あれほどの殺意を持った者を殺さないという選択肢はソウマの中には無かった。
「ノームはこの一帯の守り神だ。もしノームを倒したらこの山どころか、スミカの村までのすべての大地が死ぬ!!」
森は枯れ、山が崩れ、水が枯渇してあらゆる生き物が死に絶える。
それほどノームはこの土地にとって影響力を持つ上位の精霊なのだ。
この坑道内は、上下左右すべてがノームのテリトリーだ。ここにと留まっていてはじり貧。三人は坑道から出ることを決め、ノームを牽制しながら走り出した。
スミカの村。ビーンは山を見上げながらつぶやく。
「試すような真似をして申し訳ないが、ノームを倒したらここいら全部が死の大地になっちまう」
自分たちには無理だったが、精霊使いの頂点にいるエグゼならなんとかしてくれるかもしれい。
たとえ魔法力を失ったとしてもその信用は地に落ちてはいなかった。




