精霊の寝所
人に問いかけた。
「十中八九、この坑道の先には『精霊の寝所』がある」
三人は松明を手に取り、薄暗い坑道の中を歩いていた。手元にはビーンから聞いた内部の構造をできるだけ地図に興した羊皮紙がある。しかしビーンたちが知らぬうちにモンスターたちが新しく道を作ったり、自分たちの寝床を作っている可能性もあるため、今一度すべての道をたどりマッピングをしていく必要があった。
案の定、ゴブリンやオークなどのある程度の知能を持ったモンスターが住み着き住処を奪い合いながら、坑道に新しい道や部屋を作ってた。
隊列は今までと同じく。ソウマ、アーニャ、エグゼのままだったが魔物との戦闘や狭い道を引き返す時には前後が逆になり、出くわした魔物の強さによってはエグゼが足手まといになることもあった。
しかし、それなりにレベルアップもしてきたエグゼは十分に戦力になりつつあった。
「ふぅ……」
何回目かもわからないモンスターの襲撃を退けてエグゼが大きくため息を吐く。
「なかなか様になってきたじゃないか」
初めのうちこそ剣に振り回されたり、坑道内の狭さに苦戦していたものの、今は一端にその狭さを利用したり、足元の石や砂利を利用するといった応用も利くようになっていた。
エグゼと出会ったばかりのダメダメな姿を見ていたアーニャもその成長振りに驚いていた。
「あんなに毎晩ヒーヒー言ってたのが噓みたいね」
クスクスと少し前までのエグゼを思い出して笑っている。
「そんなに笑うことないだろう。こうして結果が出てるんだから」
肩をすくめてエグゼもおどけてみせる。少し前までのエグゼからは考えられないような、肩の力の抜けたやり取りだった。
「さて、と」
気を取り直して、ソウマが道の先を見据える。
最後に残った坑道の行き止まり。そこは今までとは異なる雰囲気に包まれていた。
エグゼの言葉が正しいとしたらこの先に『精霊の寝所』があり、この山の守り神たるノームがいるはずだ。
坑道の入口を守っていたのもこのノームの使役する使い魔としてポピュラーなものだ。
「ノームがいるのに魔物が蔓延って、炭鉱夫たちが引かなきゃならない理由がこの先にあるのか」
ソウマやアーニャには皆目見当もつかなかったが、ただ一人エグゼにはこの事件の全貌がうっすらと見えていた。
──幕間──
玉座に座り、水晶玉を見つめる醜い中年男。
その先にはエグゼたち一行が写っている。
「さて、稀代の精霊使いと呼ばれたエグゼ君にこの問題が解決できますかね」
男の名はミハエル。ミハエル・ド・カザド。クーデターを起こしこの国を乗っ取った張本人である。
スミカの町での一連の騒動は単に、魔物に襲われた鉱山を魔物を退治して取り戻すというものではない。
ミハエルが用意した罠が一重二重にも重ねられた人災だった。
「ソウマ君とアーニャ君の乱入は予想外でしたが」
ミハエルの計算では、エグゼ一人ではこの難題は解決できずに息絶えるというものだった。だからこそ想定外の二人の介入がこのクエストをクリアできるほどの鍵となるか、未知数だった。
「だからこそ面白い!」
頭の中でどれほどシミュレートしても予想外の出来事が起こる。先の国盗りの時もそうだった。エグゼという魔法騎士団長がいなければもっと簡単に済んでいた仕事だった。
「さらに藻掻いて私を楽しませて見せてください。エグゼ君」
ミハエルは不敵な笑みを浮かべたまま、三人の行く末を見ていた。