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水縹に咲く二ロトパラ  作者: 山野悠太
第1部 4章『水縹色の空の下』
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16話 五ツ星

 海咲の視線の先には、逆さ吊りにされたガレオン船。均衡は、崩れなかった。ガーイェグから飛び出した市民や、敵味方関係なく生き残っていた兵士。そして巨大な岩の腕で援護した泥田善子の働きもあり、ハイペリオンはその仕事を全うした。そしてガレオン船は、彼らの手を離れ幽閉機関の戦艦によって、引き上げられていく。レヴィアタンは、戦艦に寄り添うようにして星空の海を泳いでいた。そんな、幻想的な光景を、切り裂くように光が走る。


  ガレオン船の群れ。その数、八隻。他のドームからの増援だろうか。初撃のターボレーザーはレヴィアタンが防いだようだが、あの数に襲いかかられては、幾ら幽閉機関の戦艦と言えど一溜りもない。


「…善子さん、状況は?」


  腰に着いていた通信装置をタップして、海咲は善子と通信を試みた。しかし、腰から上を吹き飛ばされた際に、装置は壊れてしまったらしい。単簡なものなら体と一緒に再生できるが、精密機器の類は難しい。


  ガレオン船なら、落とせるか。そう思って再び空を見上げた海咲の瞳に映ったのは、幽閉機関の大艦隊。ガレオン船団の反対側から現れたそれは、何れもステム級対地攻撃艦と同等かそれ以上の威容を誇っていた。あの規模の艦隊と争う戦力は、もう残っていない。どうする、刺し違えてでも―何隻か落とすか。接近さえできれば、裂衝(アグニの火)に巻き込める。


「…ん?」


  動揺する彼女を嘲笑うかのように。ポケットの中の携帯電話が、安っぽい着信音を響かせる。その音楽には、海咲も聞き覚えがあった。ハンバーガーショップの、ポテトが揚がった音である。こんな間抜けな着信音は設定していないはずだ、と思った海咲であったが、聡い彼女は直ぐ違和感に気がついた。


「あれ、私のスマホ、ここにないじゃん」


  じゃあ誰のだよ、と独り言を吐くと、彼女は自身の懐を漁った。ポケットから出てきたのは、型の古いガラパゴス携帯。いつの間にか入っていたそれを不審に思いつつ、海咲は電話に出ることにした。


「もしもし、ハンバーガーショップ佐藤ですが」


  おどけた様子の、ご機嫌な間違い電話かと思ったが、ここは月面である。名前を確認すると、電話の相手はインターンの上司だった。


  蜘蛛の糸―。海咲は目を見開くと、彼に助けを求めようとした。その瞬間。


  轟音。幽閉機関が発砲したのだ。


  少女は再び、空を見上げる。青い光が、真っ直ぐに伸びていく。それは、地上を狙ったものではない。その標的は―ガレオン船団。ムーンビースト勢力の艦隊である。


「ご注文内容は、強襲艦六隻でお間違えありませんか―なんちゃって。遅くなってすまない。幽閉機関イリス支部の連中、話が通じなくてね。取り敢えず全員粛せ―黙ってもらって、火星の本部とアメリカ支部に声をかけた。そろそろ到着する頃だと思うけど、どうかな?受け取ったら評価をお願いしたいのだけれど」


  言葉を失っていた海咲は、我に返った。彼女はくすりと笑うと、落ちていくガレオン船を目で追った。


「素晴らしいサービスでした。また利用しようと思います。星五」


  花火のように彩られた、月の夜空。一万人以上の戦死者を出した『モスクワの海海戦』は、レン民族解放同盟の勝利で終結した。

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