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水縹に咲く二ロトパラ  作者: 山野悠太
第1部 4章『水縹色の空の下』
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15話 帰ろう、地球に

 自分でも、理解しているのだ。今必要なのは、怒りをぶつけるための相手。この湧き上がるばかりの憎悪を叩きつけるだけの、(サンドバッグ)だ。仮に―海咲が時間稼ぎを図っていたり、何とか矛先を自分に向けようと腐心していたとしても―構うものか。この力を、この怒りを振るえるなら、相手は誰だっていい。お前を壊して、その後に全部壊すだけだ。この―全てを無に返す、強大な力で。


 「死ねーッ!」


  尾を腰に回し、その先端―銃口を海咲に向ける。収束した霊子は、彼女の体内で生成される膨大な電力を纏い、青白い光を伴って放出された。


  『ヘイロー』とは。悪魔を討ち滅ぼす光の輪にして、月の邪神『ムノムクア』が用いた技の再現である。


  膨大なエネルギーの波涛に、海咲の姿が飲み込まれていく。彼女はそれを、真正面から受け止めたのだ。


 「…はは」


  雷撃に吹き飛ばされ、少女の体はその半分が抉り取られた。下半身だけになった海咲の体は、ぐしゃりと潰れて地面に落ちる。渡里は、自身の手が震えていることに気がついた。初めて他人に『殺意』を向けた。そのおぞましさ、恐ろしさ。そして喝采と共にそれを肯定する、心の中の『何か』。臓腑の中を掻き回される思いに、渡里は嘔吐いた。


 「…何度でも聞くよ」


  そんな彼女に。海咲が声をかける。


  カタチは溶けているはずだ。彼女は死んでいるはずだ。否、あの『化け物』が、『()()()()』が、このくらいで死ぬものか。


  渡里の心に、別の思考が流れ込んでくる。


 「こんなことが、貴女のしたいこと?」


 「そうとも。これが、私の願望だ」


  心の声に突き動かされるまま。少女はそう答えた。心から這い出てきた『何か』は、渡里の脳に達し、意思決定の手網に指を掛けた。それに伴い、夢沢渡里の体はカビが生えるようにして深緑色の鱗に覆われていく。少女の殺意に濁った視線の先。赤い炎が、燃え上がる。


 「お前じゃない。貴女に聞いているんだよ、『渡里』」


 炎に包まれ再生した海咲の体は、煌々と輝いていた。それは、星の灯火。今はまだ、再生の相。放射状に展開した八基のアハト・アハト―日輪を背負い、鋼色の翼で鮮やかに羽ばたくその姿は、宛ら孔雀のよう。焼け付くような光と共に、彼女は夜明け前の空の色(水縹色)を纏っていた。緋色の瞳に射抜かれて、一瞬―渡里の呼吸が止まる。


 「私の友達を返してもらうよ、ムノムクア」


  気圧されたのだ。その、冷たい視線に。


  否。


  渡里は月の大地を強く蹴った。虚仮脅しに、怯んでどうする。私は、力を手に入れたのだ。何もかもを圧壊させる、無慈悲な力を。一切合切を溶かし尽くす、耽美な赤色を。


  大地を凹ませながら、飛び上がる。篭手の中心から撃ち出した強酸性の血は―果たして海咲に届かなかった。


 陽光のように向けられた、アハト・アハトの砲身。そこから放たれる魔術弾に、渡里は叩き落とされたのだ。


 「がはっ…」


  地面に打ち付けられ、渡里の肺は空気を全て吐き出してしまった。彼女は尻尾を使って強引に立ち上がると、自身に向かって放たれた魔術弾を回避する。


 「偉そうに…!私を見下すな!」


  篭手から放たれた閃光を、海咲は紙一重で回避した。お返しとばかりに、海咲は手にしたライフルからビームを照射した。渡里は野性的な挙動で、ビームの射線から逃れると、翼を広げて飛翔した。そして、篭手から青白い雷撃を撒き散らし、海咲に向けて突進する。


  公爵ら『月の狂気派』は、人工的な『神』の再現を目指していた。彼らは手始めに、ムノムクアの『雷撃』の模倣を試みた。試作品にして準成功例であるレプハーンらが、何れも電気に関する異能を有していたのはその為である。しかし、彼らは短絡的であったが為に、完全再現には至らなかった。公爵らは知らない。ムノムクアの雷撃があくまでも『副産物』であることを。


  掌から噴き出した、渡里の赤黒い血液。筋肉により圧縮されたそれは、レーザーのように月の夜空を裂いて飛ぶ。霊子による干渉は、簡易な魔術で防ぐことができる。しかし、物理的或いは化学的な反応を相殺するには、また別の魔術が必要になる。


  強酸。渡里の血液により穿たれた海咲の肩は、着弾箇所から煙を上げて溶けていく。即座に反応した海咲だったが、雷に打たれて痺れているかのように、その動きは鈍い。


  酸、そして電気とくれば。海咲は化学の授業を思い出す。篭手と、そして骨か何かを構成する金属。その二つに彼女の強酸性の血液が合わさり、電気を生み出しているのだろう。海咲は一基のアハト・アハトにより患部を撃ち捨てると、不死鳥の如く炎を纏って体を再生させた。カタチが元通りになったにも関わらず、切り捨てた筈の腕は、きりきりと幻肢痛を訴える。


 「頭に当てれば、どうなるかなあ!」


  そう叫んだ彼女は、再び篭手を構える。酷い力だ、と海咲は思った。ネタが割れてしまえば、渡里には悪いが対処は容易い。如何に強酸性かつ高圧の血液だろうが、届かなければ意味は無い。海咲は冷静に、翼による風圧で渡里の攻撃を逸らしてみせる。


 「溺れないで、そんな力に」


  骨が溶けているのだ。痛いに決まっている。雷撃を放つ度苦痛に歪む自身の表情を、彼女は知っているのだろうか。止めないといけない。後戻りが出来なくなる前に。


 「お前を殺して、裁きを下す。それを叶える為の力だ!」


  血液の雨を掻い潜り。アハト・アハトを斉射しながら、海咲は旋回した。その姿に追い縋るようにして、渡里も空を駆けていく。


 「本当に、それが貴女のしたいこと?」


 「しつこい…!」


 「小説家、でしょう?その手は、人を殴るためにあるの?」


 「…は?」


  篭手による殴打を避けると、海咲は体を翻した。翼の機動力にものを言わせた、ドロップキック。それは渡里の腹部に吸い込まれるようにして炸裂する。


 「ちっ…!」


  再び地面に体を打ち付けた渡里の背後。海咲はふわりと降り立った。


 「馬鹿げてる。押し付けられた役割<生き方>に、誰よりもうんざりしていた貴女が。どうしてナメクジ共に祭り上げられるまま、配役を全うしようなどと」


  渡里は体を跳ね上げた。よりムノムクアに近づいていく彼女の体は、徐々に原始的な骨格へと姿を変えていた。怪物となっていく姿に怖気付き、渡里は嗚咽の混じった声で応えた。


 「知った風な口をきく、恵まれた配役に安堵している癖に。その地位を、手放す気もない癖に」


  彼女は四本指になった拳を握ると、海咲を詰った。


 「自由を生きる主人公(プリマドンナ)が―私に説教をするな!」


  激昂と共に。渡里は拳を振り上げた。彼女の内に潜む『悪意』の思うがまま、戦闘用に作り替えられていた渡里の膂力は、海咲の機動力に追いついた。頬を殴り飛ばされ、海咲は血を吐いた。素人の打撃だが、重機並の力で振るわれれば、彼女の防御魔術では不十分だ。しかし海咲は怯むことなく、猛禽の如く渡里に襲いかかる。


 「配役なんてない。私にも、どこの誰にも。私たちはただ―孤独に藻掻いているの、自由に生きられるように!」


  本能に任せた蹴りを避け、血の一射も回避する。


 「認めない、私たちは皆…誰かの操り人形なんだ!」


  しかし、『舌』による拘束は、避けられなかった。渡里の舌は、カメレオンのように伸びると、海咲の足を絡めとる。海咲の体を地面に叩きつけると、放り投げた。空中で錐揉み回転したその身体に、渡里は雷撃を差し向ける。


 「藻掻く力なんてなかった!だからこうなった!連中は私に『価値』を見出した…これだ、この醜悪な姿が私の―『価値』だ!」


  雷撃に撃ち抜かれる直前。海咲は翼―『震電』で体を包み込み、そして即座に震電をパージした。導電性の高い金属製の翼は、海咲に流れるはずだった電気を逃がしきれず、機能停止した。


 「蛞蝓に付けられた値札に満足してるってワケ?貴女が決めなよ、貴女の『価値』は!」


  飛行能力を失い、重力に引かれた海咲。彼女の体を、再起動した『震電』が受け止め、空に連れ戻す。


 「ピーチクパーチクと、よく囀る!」


  そんな彼女に、渡里のドロップキックが炸裂した。


 「自分の生き方を…他人に委ねるな!」


  海咲は吹き飛びながらも、ライフルの銃口を渡里に向けた。閃光が放たれ、渡里の片翼を撃ち抜いた。それを意に介すこともなく、渡里は海咲に向けて吶喊した。


  いつの間にか、二人は祭壇の上空まで来ていた。彼女たちの眼下には、ハイペリオンとレン人、そしてレヴォールの群れに持ち上げられる、ガレオン船。


 「黙れ偉そうに…っ!この凶暴、この怒り、この殺意!」


  渡里は左腕を構えると、霊子を充填した。射線上には、海咲と墜落寸前のガレオン船。海咲諸共、まだ多くのレン人が乗っているガレオン船に、渡里は攻撃を加えるつもりだった。それは彼女にとって、『決別』となる一撃。残った最後の良心を捨て去る、露悪的な行為。


  『撃て』と。心の中の邪神が囃し立てる。それは彼女の体の主導権を握るまで、渡里の理性の蓋を破壊し続けるだろう。それを察していながら、渡里は言われるがまま掌を向けた。


 「剥き出しにされた本性こそが本質だ!『委ねるな』と宣いながら、私を語るというのなら―死んでしまえっ!」


  血の一閃と共に雷撃が放射される。海咲は、避けない。出会って数時間の私を態々助けに来る女が、私より付き合いの長くなったレン人を見捨てられるはずが無い。


  元々赤いランプが乱舞していたガレオン船内に、攻撃の接近を知らせるアラートが鳴り響く。彼らは誰もが、死を覚悟した。しかし、撃ち出された雷撃は、全て船外で破裂した。


 「剥き出しにされたのは、邪神の悪意だ。夢沢渡里の本心じゃない…っ!」


  海咲は、避けなかった。魔力の出力量にものを言わせた防御結界。八基の旭光を花弁のように広げると、少女は雷撃を真正面から受け止めた。


 「本当の私を―知らないくせに!」


 「知らないよ!優しくて不器用で、夢見がちで…『こうなりたい』って言い出せなかった、臆病者ってこと以外は!」


  言い出せなかった。海咲の言葉に、渡里はハッとした。勉強漬けの毎日が嫌で、親の期待から逃げてしまいたかった。公務員なんかより、小説家になりたかった。そして『月世界の神』なんかには、絶対になりたくなかった。全て心の中で、思っていただけ。彼女は何一つとして、自己決定はおろか主張すらしてこなかった。ただ言われるがまま、与えられる『明日』を浪費して生きてきた。


 「へ、減らず口を…!」


  それに気づかされ、渡里は吃った。


 「今更…私は、戻れないの…っ」


  しかし。何もかもが、遅かった。こんな尻尾を付けられて。カメレオンのように舌を伸ばされて。海咲の友人を傷つけた。人肉だって食べさせられた。これでは、『夢沢渡里』に戻れない。元の日常には、帰れない。今更何を主張したところで、それは覆らない。


 「この憎悪が―悪意だけが、私を肯定してくれる!だから、こうやって―」


  生きるしか。


  その後の言葉は、紡げなかった。渡里は、苦しそうに嘔吐いた。彼女の中の邪神は、大きく膨れ上がっていた。渡里の体は異形と化し、人であった頃の面影は、殆ど失われていた。


  私の心の奥底で騒ぎ立てる邪神の声は、怒号のように頭の中を駆け抜けていた。殺せ、殺せ、殺せ。ずっと、その繰り返しだ。何度も何度も、私の中でその声が反響して。もう、考えるのも嫌になった。私は憎悪に、悪意に酔っているだけだ。本当は、こんなこと―。


 「つまらんな」


  知らない、声がした。 ぱっくりと開いた口の端、私の口を間借りして、何者かが喋っている。


 「もう一度だ。次こそ宇宙船ごと沈める。悪意だけが、貴様を肯定するのだろう?従え、或いは私に体を寄越せ」


  自分の口から出たとは思えない、舐るような声色だった。明確な殺意を込めて、澱んだ瞳は海咲を睨んだ。


 「貴様の体で、あの女を殺してやる」


  体を乗っ取られる恐怖に身を竦ませた渡里とは対照的に、海咲は冷静だった。彼女は渡里と体を共有するムノムクアを、静かに睥睨していた。


 「ご自慢のよく回る舌はどうした。それとも何だ、怖気付いたか?」


  話を振られると、海咲は笑顔で拍手をした。


 「渡里、上手いね。腹話術。でも私は―貴女と話したいの」


  声の主―邪神ムノムクアは、くつくつと笑った。


 「だ、そうだ。何か言い残すことがあるなら早く話せ、小娘」


  脅すような声色。話すことなんて決まっていないのに、勝手に言葉が出ようとする。その癖に、酸欠の魚のように開いたり閉じたりした渡里の口からは、乾いた呼吸音しか出てこない。彼女は、怖いのだ。自身の中に間借りする、悪意の片鱗が。恐怖に押し潰されて、彼女は思考を放棄してただ追従しようとしていた。


  親に従い、教師に従い。追従するばかりの人生の成れ果てが、この醜悪な姿。流されるまま暗澹とした夜闇に取り残されてしまった、哀れな末路。この声に従っていれば、事態は好転するだろうか。


  否、断じて否、だ。


  大きく、深呼吸をした。この世界で生きるには、『夜明け』に向かって踏み出す覚悟が必要。初めて会った時に、海咲は私にそう言った。


  覚悟を、決める。私は、月世界の神なんかじゃない。裁きなんて下したくない。勝手に決められた役割なんて、うんざりだ。


  乾いた呼吸音を、飲み込んだ。事態を好転させるには、一つしかない。これは、他ならない、私の―夢沢渡里の決定。


  今や海咲の太ももより太くなった自身の左腕。その先端に取り付けられた、合金製の篭手。痛いだろうな、苦しいだろうな。でも、これでいいんだ。私は、誰も傷つけたくない。それに―スマートフォンで小説を書くなら、右腕一つで十分だ。


  彼女は、右手を大きく振りかぶった。そして、左の手首に鋭い爪を突き立てた。


 「いだああああああああああっ!」


  出血。それはまるで、『お手本』のようなリストカットであった。そして、内部の配管が壊れた篭手が、強酸性の血液によって溶解していく。渡里は涙を流しながら、海咲に微笑んだ。


 「…こ、これで、残ったのは『尾』のビームだけ」


  そう言って彼女は、ムノムクアに操られるまま尾を腰に回す。


 「私を止めてね、海咲」


  そして、尾に霊子が充填される。周囲の力場を乱しながら、吸い込まれるように霊子が渦を巻く。それは、先程までの規模とは全く異なっていた。身体の主導権をムノムクアに奪われ、渡里の頭は胎内に引きずり込まれた。本来の頭の代わりに、瞳の落窪んだ竜の頭が、膨張した渡里の首を突き破って咆哮した。


 「演出家だな、小娘!真っ向勝負という訳か!」


  青い光は、無機質だ。悪意の滾った血液から生じたそれには、憎悪も何も介在していない。成程、純粋なその光は、ムーンビーストの言う『イデア』に通じるものがある。しかし、海咲にはその無垢な光が、渡里の涙のように見えてならなかった。


  『私を止めて』、か。言われなくても―と、海咲は笑った。渡里は、産まれて初めての大きな自己決定で―私に全てを賭けた。その期待に、私は応えるまでだ。


  八基のアハト・アハトを消滅させ、彼女はリソースの全てを両手に握ったライフルに掛ける。反動を殺すため両翼を大きく広げ、銃口を渡里に向ける。そして、周囲の霊子を枯渇させる勢いで、銃身に魔力を集中させる。火属性に強制励起させられた純エーテルが、赤黒いスパークを散らす。その暴力的なエネルギーは、歓喜(解放)の時を待ち侘びていた。


 「止めてみろ、我が怨敵■◾︎■■◾︎■■の落胤よ!」


  半人半竜の神は、収束させたエネルギーを解き放った。


 「『(カノーネ)(デス)雷咆(モントリヒツ)』」


  ムノムクアの尾から放たれた光は、『ヘイロー』に劣らない出力で月の夜空を二分した。青い光は、今なお大地に突き立っているガレオン船に向け、真っ直ぐに伸びていく。


  しかし。ガレオン船が青い光に穿たれることはなかった。その直前で、赤黒い光に阻まれたからだ。『ヘイロー』戦に続き、奇しくも二回戦。飼い慣らされた灼熱が、渦を巻いて青い光に突き刺さる。


 「『裂衝(アグネーアストラ)』!」


  押し合い。スパークが散り、周囲の霊子場が狂乱の渦に飲まれる。そして、均衡が崩れた。『裂衝』は回転と共に『月狂雷咆』の閃光を引き裂くと、ムノムクアの体を包み込む。堅牢な鱗に覆われた体も、灼熱の光の中では形を保てない。五体の殆どが蒸発し、後には頭と―内に取り込まれていた渡里の体だけが残った。仰向けで倒れている渡里は、浅く呼吸をしていた。


 「…馬鹿な小娘だ。連中の描いた宗教画通りに動いていれば、地位も名声も、何もかもが思い通りだったのに」


  首から下が焼け落ちた、竜の頭がそう呟いた。海咲はそれを一瞥すると、渡里の方に駆け寄った。


 「…誰かの描いた似顔絵よりも、盛れた理想の自撮りの方が―素敵に決まってる」


  海咲はそう返すと、渡里の体を助け起こし、回復魔術を行使した。血液に触れないように、最新の注意を払いつつ、取り敢えず止血を行う。その横で、竜―ムノムクアの頭が灰となって崩れていく。


 「ふん…。この体もここまでか。再戦を楽しみにしているぞ、小娘。次は、五割の力で遊んでやろう」


  揶揄うように笑ったムノムクア。海咲は勘弁してくれ、と苦笑しつつ、竜の頭を吹き飛ばした。空間を押し潰すような悪意の重圧は、頭と共に霧散した。


 「…ん」


  浅い呼吸を繰り返していた渡里は、目を覚ました。彼女は、海咲の膝に頭を預けて微笑んだ。


 「…疲れた。何だか、悪い夢を見ていたみたい」


 「飛び切りの悪夢だったでしょう。創作には活かせそう?」


 「…あはは。うん、そうだね。早く帰って、小説が書きたいかな」


  忘れないうちに、と彼女は付け足した。


 「まずは…お母さんを説き伏せて…執筆の時間を…確…保…」


  そう言って、彼女はくたりと寝てしまった。その様子を見届けてから、海咲は空を見上げた。青い地球―幻夢境。雄大で温かい―母なる大地。


 「帰ろう、地球に。月はちょっと、息苦しい」


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