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水縹に咲く二ロトパラ  作者: 山野悠太
第1部 1章『夢を渡る少女』
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17話 偉大なる神の息子

 「次」


  ノックもせずに入ってきたのは、部屋着にゴーグルの少年。履歴書には、アメリカ人とあった。白人(コーカソイド)系の風貌で、まだ歳も若い。彼はガムを噛みながら、椅子を引いて席に着いた。彼の態度を特に気にすることなく、海咲たちは面接を始めた。『何が出来ますか』と聞いた天使に対して、彼は一言。


「全てを破壊するビームが出せるぜ」


  自信満々な一言。それを聞いて、海咲は笑った。


「出してみて」


  猿叫と共に、少年はゴーグルを外した。即座に青いビームが発射され、壁に穴を開ける。海咲は結界術で壁を塞ぎ、二次災害を防止した。撃ち出された光線はコンクリートを破壊するほどの力を有していたが、隣の部屋まで破壊し尽くすことはなかったようだ。


「うーん、私とキャラ被ってるんだよな」


  などと宣いつつ、海咲は彼の履歴書に『不採用』の判子を押した。破壊された壁は、善子がくどくどと文句を言いながら修復した。


  その後は、マスク姿の細身の男が来たり。


「口から何でも溶かす溶解液<ゲロ>を出せます」


「ゴミ収集車に巻き込まれても吐かない自信ある?はい次」


  挙動の怪しい無職の中年男性が現れたりした。


「これ何の面接なんですか?」


「やる気があってよろしい。次」


  ノータイムで合格の判子を押し、海咲は退出を促した。小太りの白人男性に『着ぐるみ』というコードネームを付け、海咲は履歴書を机に置いた。


  続いて現れたのは、筋骨隆々の黒人男性。身長は、三メートル近いだろうか。少なくとも、二メートル半以上はあるだろう。はち切れそうなほど張り詰めた派手な特注スーツに、目立つ色のファー。金色のアクセサリを纏い、ギラギラとした金歯を差していた。まるで、バスケットボールのスター選手のような風貌であった。半グレと並んで、海咲が嫌いなタイプである。


  しかし、地雷女ジラジョの偏見に満ちた予想に反して、彼は礼儀正しく一礼すると、椅子の横に立った。


「私、『天空教』日本支部代表を務めさせていただいております、ハイペリオンと申します」


  天空教、そう聞こえたということは、彼は態々そう発音したことになる。翻訳魔術式は、固有名詞を翻訳しない。つまり魔術式により機械的に翻訳されていないということは、日本語も堪能であることの証左となるだろう。見た目によらず、理知的な人物のようだ。


「結構インテリな人っぽい」


「そうか〜?」


  海咲の耳打ちに、天使は眉を顰めた。言わんとしているところは、海咲にも理解出来た。外見からくる粗暴さの懸念が消えた途端、別の疑念が溢れ出てくる。この男、胡散臭いのである。とはいえ、宗教家全般、胡散臭いところまで含めて『職業技能』だろう。そこで減点するのも野暮というものだ。


「ところで、お嬢様方。席に着いてもよろしいでしょうか」


  男は、指示があるまで姿勢よく立っていた。日式の面接作法を弁えているのだろう。その辺は好感が持てた。


「待て」


  海咲が席を勧めかけると、天使がガタリと席を立った。パーカーワンピースの裾には既に手がかかっている。つまりはそういうことである。陰茎の開示待ったナシの緊迫した状態だ。


「お前僕のこと―」


  『お嬢様』、で括ろうとしたな。そう言った少年は、今まさにパンツを下ろそうとした。


  また陰茎開示の時間か。どうせ黒塗りになるのだから、さっさと済ませて欲しい。あとさっきのシーンは、善子さんのせいで地上波に乗せられないから、全カットだ。残念ながら。


「お待ちください、戦士よ」


  彼は、事に及ぼうとする天使<露出魔>を制止した。 そして、天使に歩み寄ると、言葉を続ける。


「貴公は雄々しき陰茎をお持ちのようだ。無闇に晒すべきではない」


  刹那。天使は雷に打たれたような顔をした。


「雄々しき―陰茎…」


  馬鹿馬鹿しい感じになってきたな。もう判子を押したくなってきたが、面白いので暫く見守りたい。


「初めて言われた…」


  目に見えて嬉しそうに照れながら、彼はそう呟いた。それほど、男性器の大きさを気にしていたらしい。地雷探知機(泥田善子)が頻りに『ちいちゃい』を連呼していたので、間違いないだろう。


  男って、そういうとこあるよね。海咲はそう思った。


「私たちの『天空教―SoS<Sons of the sky>』では、男根の強化は修行の第一歩です。戦士よ、貴方の男根は『練り上げられている』。今すぐに司教の座も射止められる―いえ『射精められる』でしょう。どうです、天空教に挿入しませんか?」


  練り上げられるってなんだろう。射精<びゅる>められるってなんだろう。男の人には通じるのだろうか。私はおちん〇んには慣れてるけど、持ってはいないのでよく分からないのだ。あと『入信』のこと『挿入』っていうの、胡散臭い通り越してキモいな。


「考えとくよ。僕もちんちん鍛えたいし」


  男根は強化するものらしい。アホな中学生の間で流行っている、早漏の民間療法のようなものなのだろうか。先端だけ熱湯に付ける、だとか。聞けば聞くほど面白そうだが、今は時間が惜しい。


  自由の女神像の王冠部分、石造りの白鳥の頭に手を置いて、少女はボールペンをくるくると回した。


「一応、志望動機を伺っても?ハイペリオンさん」


「ええ、レンの民を…」


  くすり、と海咲は笑った。どうせ元より胡散臭いのだ。カマをかけるくらいは、許されるだろう。


「求めてないです、そういうの。見返りは何を?」


  流暢に喋っていた彼は、途端に押し黙った。こういうとき、自身の勘はよく当たるものだ―と海咲は思った。


「…レンの民が抑圧されているのなら。自由の象徴たる大空(ウラノス)を信仰する身としては、黙って見てはいられません。それは、紛れもない本心です」


  腹に一物を抱える―という表現は、今用いたくないのだが。その一物を開示できるか。もし話してくれるのならば―恐らくハイペリオン司教には、それ以上の裏がない。この手の胡散臭い変態には、『イチモツあれどニモツはない』と相場が決まっている(?)。


「…月の重力装置、それを確認したい。あるのでしょう?人工的に―人の体を地に縛り付ける装置が」


  言い草だな、と天使は思った。少し、宗教の教義が見えてきた。恐らく彼らの本懐は―ガイア(地面)からの完全な脱却か。


「確かに、ドーム内は重力あったもんな。ヒライさんに聞いてみよう」


  それを知って、何に使うのかは、聞かないことにしておこう。二人は顔を見合せて、頷いた。


「動機は、分かりました。それで、ハイペリオンさん。貴方の能力(ちょうしょ)をご説明いただいても?」


  面接官ごっこも板に付いてきたな、と彼女は自嘲した。選り好みできる立場でないのは十分承知だが、そこは『スタンフォード監獄実験』と同じである。選ぶ側になれば、自然と態度は大きくなる。今の私を泥田善子が見たら、『器は小さいのに態度は大きいんですね〜』などと言いそうである。腹が立ってきたな。


「仰々しい話し方に、見合うといいですけれど」


  私の心に巣食うイマジナリー善子を『わからせ』つつ、私は敢えて尊大な口調で話した。そうでもしなければ、この堂々とした変態の醸す雰囲気に呑まれてしまいそうだったからだ。


「ええ」


  徐に、彼はスーツのジャケットを脱いだ。とてつもない筋肉量が見て取れる。これなら改造人間とも真っ向からやり合えそうだ―そう二人に納得させるような、力強さが顕になった。


「私たち天空教の信徒が崇め奉っているのは、天空神ウラノス」


  ギリシャ神話においても、地母神と子を成す『父』が存在する。それが、天空神ウラノスである。


「そして、私たち司教の力は、簒奪者にしてその直系<しそん>たる十二柱のティターン神を象徴しています」


  ティターン神。ギリシャの神々の父『ゼウス』の更に父、農耕の神クロノスを筆頭にした巨神の一族である。クロノスはウラノスを追い落とし、新たな王となった。その後彼らはゼウスたちと争い、そして敗北し封印された。


  いつの間にか。ハイペリオンの体は、ふわりと浮いていた。彼を中心として風が吹いており、空気を地面に押し付ける力の反作用で浮かんでいるようだ。


「一つ目の力は、ハイペリオン神の奇跡を再現しています。なんてことはありません。虚空に足場を作れますが―結局のところ、つまらない飛行能力ですよ」


  しかし、と彼は『何か』を握った。そしてそのまま、腰を落としていく。


「二つ目の力は―」


  ずしり、と。海咲と天使、二人の体に重荷がのしかかる。それは際限なく大きくなっていき、魔術師たちは身体強化を発動して対処した。しかし、それでも抗いきれないほどの『何か』が、少女たちの上を覆っていく。


「何が、乗っかって…!」


  肺が圧迫されていく。この部屋全体の空気が重い。海咲は圧力操作魔術を使用したが、重圧には変化がない。


「二つ目の力は、英雄の力です。…これは、内緒話としてくださいね」


  彼が『何か』を離す素振りをすると、瞬く間に海咲たちから『肩の荷が降りた』。


「いきなり空を背負わせないでよー」


  首を鳴らしながら、天使が肩を回した。彼の言葉を聞いて、海咲も合点がいったようだ。


「そうか、アトラスもティターン神か」


  ご明察、と司教は頷いた。彼はジャケットを羽織ると、再び席に着く。


「私はこの力を、『英雄的苦行』と呼んでいます。教義では、浅ましい簒奪者たるティターン神は絶対悪なのですが。私は昔からアトラス神の話が好きでしてね。愛する家族を押し潰さぬよう、空を支える苦役を続ける彼は、正しく英雄でしょう?」


  空を支える巨人、アトラス。アトラス山脈の語源として知られるギリシャ神話の巨神である。多くの場合、彼はヘラクレスを騙そうとする悪い巨人として描かれるのであるが。見方によっては、アトラスは七人の娘たちを空によって押し潰さないように、空を背負うという苦役に耐えているとも解釈できるだろう。それを『英雄』と言わずして、何と言おうか。


  空を翔るハイペリオン神の力と、空を支えるアトラス神の力。それが、ハイペリオン司教の持つ奇跡<ギフト>であった。


「司教、貴方の力を貸して欲しい。月にいるレン民族を救うために」


  天使は、この男の持つ怪しげなカリスマに当てられているようであった。それとも、単に男性器を褒めてもらえるからかもしれない。


「ええ、勿論です―」


  彼は姿勢を正すと、ネクタイを締め直した。微笑みと共に、金歯がきらりと光る。


「―勃起(むしゃぶるい)してきました」


  訳の分からない一言に、海咲はくすりと笑ってしまった。ハイペリオンを控え室に通すと、彼女は大きく伸びをした。欠伸を噛み殺した海咲に、スマートフォンを弄っていた天使は一言呟いた。


「男根らしいよ、天空教の御本尊」


「へえ、ありがた。拝んどこ」


  ペンを咥えて石造りの椅子(おまる)を漕ぎつつ、海咲は天使の下半身に対して両手を合わせた。天使は怪訝な顔をして、海咲を睨んでいた。


  面接は次の候補者で最後、優れた人材が来ることを祈る。さもなければ、着ぐるみ(無能力者)を採用する羽目になってしまう。面白いので。


「次の方、どうぞ」


  軽蔑するような天使の視線を無視して、海咲は扉の向こうに呼びかけた。


「失礼する」


  現れたのは、筋骨隆々の黒いジャガー。四足獣の姿をしているが動作はどこか人間臭く、器用に扉を開けて入室してきた。マスキュリンな枠は、先程のセクハラ司教で間に合っているが、こちらは完全に四足の獣である。力強さも別のベクトルだ。


「お名前は?」


  わくわくしながら、海咲は彼に声をかけた。迂闊に口を開くと、猫なで声になってしまいそうだった。失礼のないように、海咲は冷静を装った。


「イシュバランケ。神の息子だ」


  凛とした声色で、ジャガーはそう名乗った。


  神の子とくれば、高名な神霊あるいは英雄に違いない。ギリシャ神話にも、神々が動物に化けるシーンが幾度も描写されている。


「父の名において、飢えたレンの民を救いたい。宜しく頼む」


  堂々とした物言いに、海咲は好感を抱く。さぞ、高貴な神の子孫なのだろう。恐らくは、メソアメリカ、アステカ神話などに登場するジャガーマンに連なる者か。メソアメリカと言えば、世界的知名度を誇る神霊も多い。身にまとった野性味溢れるアクセサリには、戦装束のエッセンス。戦いと冥界、そしてジャガーの神である『テスカトリポカ』の線が濃厚か。いずれにせよ、ビッグネームには違いない。


  ところで。海咲は気が付かなかったが、彼女の隣に座る少年は、苦笑いしていた。我妻天使は、名前を聞いた段階で彼の父親を看破していた。


「因みに、誰の息子なんでしょう」


  そんなことなど露知らず。期待に胸を膨らませた海咲がそう尋ねると、彼は待ってましたとばかりに頷いた。


  それは、メソアメリカでも高名な、神の中の神。人々に広く愛され、称えられる大いなる神霊である。


「フンアプフー。偉大なるトウモロコシの神だ」


  ひくっ―と。天使の口角が吊り上がる。海咲はと言うと、予想外の返答に惚けた顔をしてしまった。


「因みに…何が出来るの?」


  純粋な興味から、天使はそう尋ねた。イシュバランケは、堂々とした様子で答えた。


「聞いて驚くなよ。―いつでも幾らでも、トウモロコシを出せる」


  どさりと。空間に開いた黄金色のポータルから、何十本ものトウモロコシが落ちてくる。彼の勿体ぶった素振りに、二人は顔を見合わせる。


「採用」


「採用で。面接はお終いです」


「待て、他にも―」


「いや、もう結構です」


「聞いておけ、俺の能力は―」


「あ、もういいんで。採用なんで」


  ぐいぐいとジャガー―イシュバランケを採用者控え室に押し込むと、二人は扉をばたんと閉めた。


「押し寄せてきたね、はちゃめちゃが」


  最高のメンバーだ。端から歌舞伎町地雷系(わたし)陰茎開示(総理大臣の器)、メスガキサキュバス、チ○ポ司教、無限トウモロコシグリッチだ。考えうる限り最強のメンバーだと思う。問題は、善子のことをサキュバス呼ばわりしてしまうと、メンバーのうち過半数が性行為に関連してしまうということである。いや、そんなことはどうでもいい。疲れてるのかな、私。

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