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解答編

どうしてこうなった!

「犯人は―――、工藤先生、あなたです!」


僕は、先程の西田みたいに、工藤先生の眉間に向かって指さししました。そう言った瞬間、先生の近くにいた奏が少し距離をとります。一方先生はというと、言われた瞬間に目を見開き、何か反論しようとしてか口をパクパクと開きます。先生の顔から汗が一滴垂れ、視線は泳ぎまくり。オリンピック選手も顔負けなぐらいに泳いでいますよ。

少し静かな時間を経てから、背景が騒ぎ始めます。勿論、騒ぎ始めたのは背景は背景でも山や土ではなく、野次馬の人達です。秋月さんは、先生の事をじっと見つめて動きません。他の数人も同じ反応です。

先生は目を一度瞑り、大きく息をつくと多少震えた声で抗議してきました。


「ハ、ハハハ、何を言っているんですか?何で僕が犯人なんて事になるんですか?」


先生は冷静になろうと努めているようですが、いかんせん、そんなに声が震えていらっしゃると、どんな人間(赤ちゃんは無理だけど)でも焦っている事が分かってしまいます。


「ど、どういう事だ!」

「そ、そうだ。どうして先生が犯人なんて事になる!」


西田はともかくとして奏。あなたまで、先生をかばうのですか?

奏、お前もか!

賽を投げた人の名言のパロは、置いておいてきちんと説明しないといけないようですね。秋月さんも、ついでに大河内警部もまだ理解していないようですし。

僕は、言葉を捜します。いかに先生を追いつめるか、絶望の境地に追い込むか―――考えただけでもゾクゾクしますね~。

今僕の事をドSだと思った方、撤回していただきたい。僕はSではありません。しかし、人を悲しませるような事を、ましてや殺人なんてした人を許せないだけです。そもそも僕はM、ゲフンゲフン、話がそれました。


 「―――工藤先生、僕が職員室に血相を変えて入って来た時の事を覚えていますか?」

 「あ、ああ。それがどうしたんだい?」

 「その時、僕は植物園で人が死んでいる、と告げ、そして、あなたは鍵を持っている秋月さんのところへ行こう、と言いました。間違いありませんね?」

 「だから!それが何だって言うんだ?」


 先生は、口調を強めて反論してきました。教師が生徒にこんな口調を使っていいのでしょうか?この事が知れたら学校から追い出されるかもしれませんよ?僕の母、モンスターペアレントですから。嘘です。

 しかし、未だこの発言のおかしいところに気づかないとは………。愉快すぎて、笑いがこみあげてきますよ。


 「僕は、植物園で死体が見つかった事だけを告げたのですよ?


 鍵がかかってたなんて、一言も言ってません」

 周りの人達(面倒くさいから以後脇役)はいっそうざわめきを強めました。秋月さん、奏、大河内さん、西………ニッシー(名前を忘れた訳ではありません、決して)は先生の方を思いっきり振り返りました。

 対して先生はと言うと「あッ!」と言った後、しまったとばかりに両手で口を閉じ明後日の方向に視線をやります。何か言い訳を考えているようですね~。出来る訳ありませんが。

 それにしても、こういう怯えている姿をみると非常に愉快で鳥肌がたちますよ。ククク!ハッ、いけない、いけない。


 「そ、それは、言葉のアヤって言うものですよ。揚げ足をとらないでください」

 「揚げ足をとったつもりはありませんよ。正当な主張ですし。アヤでもありません」


 先生は下唇を噛みました。いやいや、良い気分。


 「だ、だが、南京錠の件はどう説明する?あの時間帯、南京錠を開けられたのはここに居る秋月さんだけなんだぞ!」


 先生が指差す先に居る秋月さんは、そう言われて居心地が悪くなったようで、先生宜しく明後日の方向を向きます。明後日君、君はモテモテだね。

 そう言えば、思い出した!先生のせいで、秋月さんは困っているのでした。高揚感に浸っている暇はありません。彼女を助けなければ!


 「そうだぞ!先生が犯人だって言うんなら、そのトリックを説明してもらおうじゃないか!さあ!」


 ニッシー、かませ犬の出番は終わりですよ?そろそろ、あなたは犬小屋に帰ってなさい。

 犬君、御免!こんな奴と比べてしまって!

 しょうもない事はさてき


 「トリックという程ではありません。ちょっとしたパズルです」

 「ど、どういう事だ!」


 ニッシー、さっきもその台詞、言ってましたよ?少しは表現を変えてください。語彙力不足です。あれ、今僕自身の首を絞めたような気が………。


 「何でしたら、今から実践してあげますよ」

 「え、お前出来るのか?」


 奏が心配そうな眼をして尋ねてきました。大丈夫です、あなたではありませんから。

 僕は安心させるためにも、大きく頷きました。


 「ええ、出来ますよ。先生?」

 「な、何ですか?」


 先生は、まだ多少の余裕があるのか焦りつつも、顔に笑みを浮かべています。しかし


 「あなたの管理している予備の南京錠、持ってきてくれませんか?」


 この言葉を言った途端、彼の顔には明らかな変化が見れました。絶望………それが顕著に表れています。すると、大河内警部が尋ねてきました。


 「予備の南京錠?」

 「もう一つ、学校側が南京錠の予備を持っているんです」

 「それが何だってんだ?」


 ニッシー、骨をあげますから口を挟まないで。


 「密室トリックに必要なんですよ」

 「ど、どういう事だ!」


 はい三度目。犬ですから、語彙力は本当に乏しいようです。


 「それを今から見せてあげますよ、大河内警部、お手数ですが先生と一緒に南京錠を取りに行っていただけませんか?勿論、先生に手袋をさせていただいて、指紋が付かないように。それと、何か怪しい行動を取らないように」

 「ああ、分かった」

 「お、おい、刑事さん!こんな奴の推理を真に受けるんですか?」


 いや、あなたも先程推理をしましたよね?猿が爆笑するぐらい的外れでしたけど。


 「何言ってんだ?楽できるならそれが一番に決まってるだろ」


 ニッシーが唖然とします。こういう人なのです、大河内警部は。

 警部は、先生の腰に手を置いて「行きましょう」と呟き、職員室に向けて歩を進めました。先生は既に希望を失ったように、力無く上半身を垂れています。なんだか、既に逮捕された人みたいですね。

 警部が帰ってくるまで、待つことになりましたが、脇役がざわめいてうるさいったらありゃしません。すると、不意にブレザーの袖をクイクイと引っ張られます。思わず自分の腕の方を見ましたが、僕は唖然としました。唖然とするのはニッシーの仕事なのに。

 そこには、秋月さんが上目づかいで寄り添っていたのです。


 美人+上目づかい+袖クイクイ=死


 世の中にはこういう方程式があるようですが、それが今の状況に置かれてようやく理解できました。これはやばい。いや、何がやばいかって僕の理性がやばい。

 心配そうに僕を見つめる彼女の瞳は先程の奏の比ではありません!百万ボルト!


 「本当に、分かるの?」


 “痺れるぅぅぅぅ!”と心で叫んでいると、秋月さんがそう言ってきました。何がですか?僕は、袖クイクイをされただけで人の寿命が分かるなんて能力は持ち合わせておりません。その為には、寿命を半分削って以下略。


 「トリック」


 トリック?あ、ああ、密室トリックですか?それは確かに気になるでしょうね。彼女が疑われる一番の理由ですから。


 「ええ。でも、貴女ほど頭が良ければ分かりませんか?」


 噂によると秋月さんは校内でも一、二の学力を持っているようですし。僕ですか?下から数えた方が早いです。


 「こういうのは勉強と違うから」


 成程、愚問をしてしまったようです、オゥシット。しかし、先程からニッシーの視線が痛いです。貴方、もう振られたでしょう!なんで「俺の女に触んな」みたいな目で見てるんですか。

 あ、大事な事を忘れてました。


 「そう言えば、貴女のお名前は?」


 僕は出来るだけ、下心があるように思われないよう、紳士を装い尋ねました。この文の裏には下心がある事が示されています。


 「秋月葵、あなたは?」


 何の警戒心もなくそう答える彼女はあまりに無防備です。


 「河合晃と申します、よろしくお願いします」

 「よろしく」


 彼女はそう言って、今日初めて僕に笑顔を見せました。その笑顔はとても素敵で

 こうして、自己紹介を終えると同時に、警部達が戻ってきました。良い雰囲気だったのに、ナンテコッタイ!


 「ほら、手袋。それと、これが南京錠とその鍵だ。さて、説明してもらおうか」


 そう言って、ゴム手袋を投げた後、南京錠と鍵を差し出してきました。僕は素早く、手袋を装着すると、その二品を受け取ります。

 先生はといえば、生きる屍という言葉を言えば察しがつくような状態です。生気が感じられません。まあ、僕のせいなんですけどね、テヘッ☆!


 「奏、すみませんが、手伝ってください」

 「何だ?」

 「警部、すみませんがこいつにも手袋を。それと元々の南京錠の鍵を」

 「ほらよ」


 奏が手袋を装着するのを待って、警部は南京錠の鍵を投げました。そして奏はそれをみると「成程」と呟きます。

 その他の方達は何が何だか分からないといったふうに、このやり取りを見つめます。


 「このトリック―――いやパズルに必要な知識は一つ。それは、南京錠は閉める時に鍵がいらない、と言う事です」

 「ど、どういう事だ!」


 ニッシー、今度一緒に国語を勉強しましょう。


 「今から、やってみせますよ。今から僕が犯人の役をします。奏、貴方は秋月さんの役をやってください」

 「了解」


 奏はもう、トリックに気付いたようですね~。彼、IQ高いですから。

 僕は、植物園のドアのそばにより、元々あったほうの南京錠を施錠します。さて、準備は完了しました。


 「秋月さんは昼休み、植物の様子を見る為に、ドアを開け、中に入りました。そうですよね?秋月さん」

 「うん」

 「奏、やってください」

 「あいよ」


 奏は、鍵を使って解錠して、ドアを開け、中に入りました。


 「さて、犯人は秋月さんに気づかれないように、ここで、たった一つの事をしたのです。それは―――」


 僕はドアに近づきました。そして、金具にぶら下がっている南京錠に触れます。


 「―――予備の南京錠とこの南京錠をすり替えた」

 「あっ!」


 僕が、南京錠を入れ替えると同時に、先生を除く(彼だけは腰に力が入らなくなったようでその場にへたり込みました)、その場の全員が声をもらしました。皆やっぱり気づいてなかったのですか?一人ぐらい気付いていそうですが。


 「は?そんなことして何になるのさ?」

 「あなたは、何処まで馬鹿なのですか?」

 「ど、どういう事だ!」


 やっぱり馬鹿です。


 「さて、分からない人の為に続けましょう。

 秋月さんは、一通り見終えた後、外に出ます」


 奏は、ドアを開き、外に出てきます。


 「そして、鍵をかけます。南京錠は鍵をかけるのに鍵がいりませんから、すり替えられている事には気付きません」


 ツルを穴に差し込み施錠した奏に、僕は礼を述べ更に続けた。


 「そして、犯人は彼女がいなくなった後、再びここに戻ってきて、ドアを解錠。予備の南京錠がかかっている訳ですから、鍵は犯人が持っている事になり、解錠はたやすいですね。後は、死体を運びこみ、吊るした後、再び外に出て、南京錠を再び入れ替えて施錠し密室の完成です」


 そこまでの過程をやり終えて、皆の方を見ました。皆、成程、納得という顔でし。どうやら、犬のニッシー君も理解できたようですよ。何よりです。そうだ名前をつけましょう。ニッシーで犬ですから、秋田犬みたく西田犬………何か、今思い出しそうだったんですけど気のせいでしょう。ボクハナニモシラナイ。

 先生はへたり込んだまま、僕を睨みつけています。そんなに睨まないでください。しかし、僕は気付きました。先生の目に、先程までなかった生気が復活している事に。


 「た、確かに、それだと僕も犯行は可能な事は分かりましたよ。で、でも、それは僕にも可能だってだけで、秋月さんも勿論犯行可能じゃないですか!何一つ、僕が犯人だという証拠がないじゃないか」

 「せ、先生………」


 先生の醜態を見て、秋月さんはそう声をもらしました。今まで世話を見てもらった恩師が、そんな事を言えば、顔を曇らすのも分かります。実際、ここにいる脇役達や奏も先生から徐々に距離を取っています。大河内警部ですら顔をしかめてますよ。なんだか、人間のエゴを見せつけられているみたいで気分が悪いですね。

 こんな状態が一分一秒も延長するのは、苦痛でしかありません。早急に突きつけようじゃありませんか。


 「証拠なら………ありますよ」

 「な…!で、でたらめを言うな!」

 「予備の南京錠についた指紋―――それが証拠です」


 そう言うと、一瞬理解しかねたような顔をした後、先生は気が狂ったかのような笑い声をあげて返してきました。


 「ハハハ!確かに君の言うトリックが使われたのだとしたら、あの南京錠に秋月さんの指紋がついている筈だよな!予備でまだ使われていないのに、秋月さんの指紋がついていたら、そりゃ証拠になる。良いぜ?調べてみろよ、今ここで!」


 もう、喋り方も崩れ地が出てきた先生は、勢いよく立ちあがって自信満々にそう吐き捨てた。そう、僕の聞く限り予備の南京錠はまだ一回も使われていない筈です。そして、それに秋月さんが触れる機会はない筈であるから、指紋がついていればそれが証拠になりますね。

 しかし、それを焦りもせずに、自信満々に言うところをみると、指紋は既に拭き取っているようですね。そこまで馬鹿ではありませんか、ニッシーと違って。


 「警部、指紋を取ってくれませんか?」


 僕はそう言って、警部に自分の持っている予備の南京錠と鍵を警部に渡します。すると、警部は僕に小声で“大丈夫か?”と聞いてきました。どうやら、あの人の自信満々な態度にあてられて自信を喪失しているようです。

 僕は、「大丈夫ですよ」と、これまた小声で返しました。その言葉を聞き警部は僕に一瞥してから、南京錠を鑑識の人に渡しました。

 その場に、緊張が漂います。鑑識の人が、南京錠に何やら白い綿が先についた棒を、ポンポンと当てているのが見えます。

 そして―――


 「誰の指紋も出ません」


 青い帽子を被った中年の男は、そう僕達に告げました。チェックメイトです(チェスはやりませんが)。


 「ホラ、誰の指紋もでないじゃないか!このでたらめ野郎!」


 あらら、まだ気付いていないようですね。この場に居る、ほとんどの人が気付いている様子だというのに。それに、もう、何処かのヤクザみたいな喋り方ですよ。こんな人が、教育者かと思うと、非常に嘆かわしい。


 「分からないんですか?あなたには?貴方が犯人である証拠が、今示されたというのに」

 「ど、どういう事だ!」


 先生、ニッシーみたいな事を言わないでください。


 「指紋が何も出なかった、これが証拠です」

 「ど、どういう事だ!」


 ニッシー!今いいところなんですから、口を挟まない!先生も理解できないようで、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしております。

 ところで、実際に鳩に豆鉄砲を当てた勇者はいるのでしょうか?僕は鳩には出来るかもしれませんが、某ゲーをやったせいか鶏にはできません。ニワトリコワイ………。


 「確かに、秋月さんの指紋は出ませんでした。しかし先生―――貴方の指紋も出ていないのですよ」


 その言葉を言った瞬間、今度こそ彼の眼の生気は崩壊しました。僕は一応、説明を付け加える。


 「なんで、管理者自身の指紋が南京錠についていないのか?そんな事ありえません。拭きとった―――以外にね。何で拭き取ったか、まだ使っておらず、汚れてもいない物をどうして?

 考えられる理由はただ一つ。貴方が先程言ったトリックを使って、その証拠を消すために南京錠の指紋をふき取ったからに他ならない。

 それに、証拠ならまだあります。犯行現場の倉庫には血が二、三飛び散っていました。と考えると、犯人は殴った時に返り血を浴びたという事になります。それならば、あなたの身の回りにある筈です。返り血の付いた上着か何かが。凶器の金属バットが倉庫の中に遭ったものでありますから、この犯行は衝動的なもの。返り血を防ぐ工夫などできようはずもありませんしね」


 そこまで言うと、先生は再びへたり込みました。どうやら、戦意ももうないようです。てこずらせてくれましたね。


 「先生、何で………?」


 秋月さんが、先生に近づき、尋ねました。それにしても、犯人に仕立て上げられそうになったというのに、語気が全く厳しくないとは。やっぱり優しいんですね。僕なら蹴りの一発―――十発も入れるでしょうに。


 「あいつが、私が我が子のように可愛がっている植物園の植物たちを、乱雑に扱って………挙句の果てに枯らした植物も。その事を謝らせようと彼女を見かけたので、呼びかけたのに!あいつ、謝ろうともしない!それどころか、“あんな植物の何が良い”とかぬかしやがって!あんな奴、死んで当―――」

 「――茶番はそこまでにしてくれませんか?」


 先生が長ったらしく、同情を求めるように語調を弱めて自白し始めましたが、茶番に付き合う気はありません。


 「な、何だと!」

 「確かに、彼女は多少、酷い性格だったかもしれません。ですが、殺人の罪を何の関係もない秋月さんにきせようとしたのは、何故ですか?それは紛れもない、貴方自身の弱さですよね?その弱さを他人のせいにしないで欲しいものです!」


 何故か、自分にしては珍しく語気を強めてしまいました。お恥ずかしい限り。

 先生はそう言うと、俯いたまま、何も喋らなくなりました。返事がない、ただの屍の様だ。

 そうして、先生は警察に連行されました。ちなみに後で分かった事ですが、先生の鞄から、血の付いた上着が見つかったようです。

 もう脇役達やニッシー、それに奏もいなくなり(奏は平行線とドライブだそうです)、この植物園に残っているのは、僕と秋月さん、その他に鑑識の方と警察の方数名だけになりました。

僕達は今、植物園の中をぶらぶらと歩き回っています。僕も早々にその場を去っても良かったのですが、秋月さんの先生が連行される時に見せた悲しげな顔を見て、彼女が心配になってしまい、頼まれてもいないのに、先程から彼女の後ろに無言でついて言っているのです。これで、知り合いじゃなかったらただのストーカーですね。

 すると、死体のあった木のさらに奥にあった何かの野菜が植えられているところに行くと、不意に彼女が立ち止まりました。僕も同じように足を止めます。彼女はしゃがみこみ、植えられている植物を無言で眺め、そしてすくっと立ち上がりました。


 「有り難う」

 「え?」


 急に彼女が発した言葉に、つい間抜けな声を発してしまう。恥ずかしい。もうお婿にいけない。


 「さっきは」

 「あ、ああ。いえ、貴方が犯人ではない事は直ぐ分ったんです。根拠が沢山ありましたから」

 「根拠?」


 彼女は、首を傾げて僕に問う。や、やばいです!可愛すぎです!自分の顔から火が出そうです!このままじゃ、植物園が火事に!

 と、おふざけはおいておいて、彼女の質問に答えますか。


 「まずは、さっきの推理で言いましたが、犯人は返り血を浴びていた筈ですけど、貴方はブレザーにも、カッターシャツにもそのような跡はありませんでした。これが一つ目」


 僕は人差指を立ててそう言いました。僕の答えを真剣に聞く、彼女の表情はとても美しい。つい見惚れそうになります。


 「二つ目は、貴女も質問しましたけど、貴女が犯人だとすると、死体をわざわざここに運ぶ意味がないんですよ。ニッ………あの人は死体を一旦隠すため、と言っていましたが、そうだとすると、死体を木に吊りあげる訳がないんですよ。目立ってしまいますし、実際、そのせいで僕は死体がある事が分かったのですから。隠すのなら、地面に沢山植物がありますから、地面に寝かせておく方が効率的で手軽です」

 「確かに」

 「それから三つ目」

 「まだあるの?」


 彼女は僕に一歩近づいて、僕を見てきます。ちょっと待ってください!この至近距離で上目づかいは卑怯です!僕は、恥ずかしくて、彼女から顔をそらして続けました。


 「み、三つ目は、土に残った跡です」

 「跡?」

 「え、ええ。地面には足跡以外に何の痕跡もなかったですよね」

 「それがどうかしたの?」


 ちょっと、顔を近づけないでください!僕の心拍数上昇中。リミッタ―が持たない!緊急離脱!

 僕は、彼女から一歩後ろに後ずさった。すると、彼女は一歩前にでてきた。


 緊急離脱不可!


 「つ、つまりですね、地面に他に痕跡がないという事は、死体は引きずられて、中に運ばれた訳ではないという事です。かといって、女性が同年代の、しかも自分より大きい身長の高い人間を、担いで移動するのは流石に無理です。だから、犯人はきっと大人に違いない、と思ったんです」

 「成程」

 「そして四つ目ですが、被害者の死因は頭頂部強打によるものです。ですが―――ちょっと、この枝で僕の頭を殴るふりをしてください」


 僕は彼女から離れ、地面に落ちていた木の枝を彼女に渡します。彼女は、「うん」と一度頷くと、僕から少し離れ(助かりましたが何やら無念)枝を振りかぶりました。


 「えい」


 ペチッ


 なんとも可愛らしい声を出しながら、枝で僕の前頭部を殴りましたが、全く痛くありません。


 「今、僕の何処を殴っていますか?」

 「前頭部」

 「そうです。あなたは僕より身長が低い訳ですから、バットとか枝の様な多少長いもので、思いっきり頭頂部を殴れないんです(この事は奏を筆箱で殴った時に気付きました)。

 被害者の身長は僕と同じくらいですし、倉庫には段差もありませんから、貴女が犯人なら彼女を頭頂部を殴って殺すのは不可能なんです。この事で、犯人は彼女より幾分か身長の高い人間だと気付きました。先程上げた、大人という人物像にも合致しますし」

 彼女は僕の言葉を聞くと感嘆のため息をもらしました。

 「それと―――」

 「まだあるの?」


 し、しまった!この理由は恥ずかしいから言いたくないのに、勢いで口から出た。しかも、彼女は物凄く好奇心に満ちた目で僕を見ています。これは、誤魔化せない………。

 僕は変態呼ばわりされるのを覚悟で、仕方なく口を開きました。ああ、神様。僕は貴方を怨みます。ところで、神様って貴方?それとも貴女?


 「悪い人でも死んだ事を素直に悲しめて、植物を大事に育てるような人が、犯人だと僕は信じたくなかったんです」


 い、言ってしまった!僕変態決定!このキザ野郎!親のせいだ!あんな親の遺伝子を受け継いだから、こんな事になってしまったんだ!

 と、責任転嫁も程ほどに、恐る恐る彼女を見ると、クールフェイスの表情に多少赤みが差しており、その場で俯きます。アア!空気が重い!だれかHELP!


 「晃~!振られちまったよ~!」


 ナイスです、奏!お礼にパンチをプレゼント!決まるクロスカウンター!何でお前まで僕を殴るのですか?振られたやつ当たりですか?

 

 

 こうして、この事件は幕を閉じました。その後数日学校が休みになったので、僕はパラダイス気分で過ごしていたのですが、土曜日に振り替え授業をやると聞いて地獄の片道切符を受け取った気分になりました。オゥシット!

 そして、その土曜日、出来なかった国語の授業を筆頭に、六時間授業が行われました。ナンテコッタイ!

 ところで、国語は得意なので余裕でしたが、奏が真っ白になっていたのは愉快でしたよ。

 その後、英語はまだ採点中のようでしたが、数学のテストが返ってきました。先生にいらないです、と言って返却しようとしましたが、無理でした。まだ貰ってから八日経ってないからクーリング・オフが使える筈なのですが………。

 ただ、数学の証明問題で“証明できない問題を出す訳ないから、この問題は証明される”と書いたら、半分点数がもらえていたのでよしとしましょう。点数ですか?八十三点です。

あ、二百点中ね?奏は二百点だったらしいです。全く忌々しい。

 こうして、お昼休みになりましたが、今日は土曜日なので給食がありません。なのでお弁当を持参せねばなりません。ところが、僕にはお弁当がありません!早弁したからです!理科の授業に早弁したら、先生に怒られました。人間の大事な生活要因をこなしているというのに、殴られるのは不毛です。

 と言う訳で、僕には今お弁当がないのです。奏が隣で美味しそうに、お弁当を食べているのが、凄く恨めしい。


 「だから、ここは校長室です!」


 また、蹴られて閉めだされました。僕が優しくなければ、校長先生は今頃PTAの会議にかけられていますよ。

 仕方なく、教室に戻っていると、植物園のドアの近くに秋月さんが立っていました。しかも、何やら大事そうに布で包まれた箱を二つ抱えて。


 「秋月さん?何をしているのでしょうか?」


 僕がそう言うと、秋月さんは驚いたようにこちらを振り返りました。それと同時に、先程の箱を背中に隠します。何で隠したんですか?まさか、大麻?植物園って実は大麻を製造していたのですか?この学校、やばいです。


 「え、えと………あの」


 そう言って、モジモジする彼女は非常に可愛らしいですが、手に持ったブツの事を考えると、素直に喜べません。


 「―――エロすぎる」


 奏!あれ程、倉庫の壁を見てはいけないと言ったでしょう!鼻血を出して倒れないでください!


 「お昼………一緒に、食べて、いい?」

 「え?あの―――お誘いは非常に嬉しいのですが、お恥ずかしながらお弁当を忘れてきまして」


 流石に「早弁したんだZE☆」とは言えず、そう言って誤魔化しました。しかし、秋月さんと一緒にお弁当を食べる機会を失ってしまいましたよ。僕の馬鹿!

奏の弁当を奪おうかと真剣に考えていると、彼女が顔を赤くして小声で呟いた。


「だ、大丈夫。むしろ、好都合」

「え?」


何ですか?秋月さん。僕がお弁当を忘れたのが好都合って………。あなたって実は悪い人?

すると、彼女は青い布で包まれた箱を背中から出して、更に顔を赤らめます。


「はい」


そう言って、僕にその箱を渡しました。

って、この中、麻薬ですよね?何故、僕に渡すのですか?僕を麻薬中毒者にして、高く麻薬を売りつけようというのですか?やっぱり貴女は悪女なのですか?


「お弁当、作ってきた、から」

「え、お弁当?って僕に?」


彼女はコクコク頷きます。

済みませんでした!やっぱりあなたは天使です!悪女なんかと間違えて切腹―――せずに心の中で深く反省させていただきます!

さて、この後、何ヶ月かして、僕と秋月さんは正式に付き合う事になったのですが、その話をしている暇はないので、ここで終わりにさせていただきます。


「秋月さん」

「何?」

「美味しいですよ」

「………有り難う」

「―――エロすぎる!」


何時までやってるんですか?奏!


どうしてこうなった!何故ニッシー?何故に最後ラブコメ?しかもとても下手!何故こうなった?何故こうなった?何故こうなった?以下略

まあ、早い話!なんだかスイマセン。意味不明になりました。

推理等で矛盾がありましたらお申し付けください!20分で考えたものだからすごく不安です。しかし、このトリック、絶対どこかの小説が先に使っているだろうなー。

ってか、これ、後に続く、みたいな終わり方になってますけど、続編って書くべき?書くとしたら、完全にラブコメになってしまいます、オゥシット!しかも、ラブコメの実力は最後の部分でわかるように皆無、ナンテコッタイ!

ってな訳で、完結。

涼たちのシリーズ2早く書かなきゃ………

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