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問題編

まだ、前回のユニークアクセスが1111超えてませんが投稿。というのも最近書いてなかったので書き方を忘れてしまい、キャラが濃くて書きやすいこれを書いてコツを思い出そうと思ったわけです。

出会い編なので前回みたいなバカップルはありません。なのでムカつかずに見れるはずです。

 「河合晃と言います。得意な教科は国語です。趣味は読書。嫌いな食べ物は納豆です。まあ、気楽に話しかけてください。一年間どうぞ宜しくお願いします」


 さて、僕はいきなり道行く人に声をかけて自己紹介をするほど、愚かしい人間ではありません。なのに何故僕がこんな事を言っているかといいますと、今日が四月の始業式だからに他ならない。今日は、僕達にとって中学三年としての初めての登校日なわけなのです。

 僕は余裕を持って起床し、そして結婚して十六年経っても、まだまだラブラブな両親の甘甘オーラにうんざりしながら(故に僕は間違ってもバカップルになる気はありません。いや本当に)、パンに味噌をぬりつけて苺ミルクを添えて朝食としました。その後、痴女やホモの襲来を撃退しつつ、学校に何とか辿り着き、自分のクラス(三年八組でした)に行き、少し遅れた事についての理由を担任に幾ら説明しても聞いてもらえず頭ごなしに怒鳴られました。少し癪に障ったので、先生に社会の窓があいている

(全開)事を教えない事にしました。この程度で許してあげるなんて、僕はなんて優しいんでしょう。


 その後、体育館に集合となり、逮捕された前の校長に変わって新しい、前よりも幾分か若い髭を生やした男の人が新校長として挨拶をしました。とは言っても、周りの人はほとんど聞いておらず、友達と会話を楽しんでいたようです。まあ校長の話を糞真面目に聞く人も少ないでしょう。僕はきちんと聞いてましたよ?校長先生が何回かむか聞きもらさずにきちんと数えました(ちなみに七回。練習してもらいたいものです)。校長の話の内容?何ですか、それ?

そして三十分程して校長の話は終わりました。春先でまだ肌寒い中の体育館で三十分間も、座らずジッとしているのは拷問だと思うのですが。ちなみに、僕達の制服は、上が白のカッターシャツに紺色のブレザー。下がロングのこれまた紺色のズボンです。

この後、特に滞りなく(あったといえば、教頭が隣に座っている女性のお美しい先生に痴態を働こうとして、保健室に送られただけです)始業式は進み、そして、教室に戻り今現在、新しい先生とクラスメイトが一人一人自己紹介をしているという訳です。

おっと、次の自己紹介は僕の親友の番です。彼は、今日僕と一緒に登校し、大変遺憾な事に力のない僕に変わって、痴女やホモを撃退してくれた雑用、ゲフンゲフン、勇敢な戦士です。仕方ないから聞いておいてあげましょう。今まで聞いてなかったのか、という質問はスルーの方向で。


 「さかきかなで。得意なのはスポーツ全般で、苦手なのは料理かね。俺が料理すると、台所が第二次世界大戦の跡地になります」


その言葉に、クラスのみんながクスクスと笑います。彼は俗に言うイケメンで、とても堀の深い目鼻立ちの整った顔をしており、髪は黒のショート。彼の自己紹介になった瞬間に、女子の何人かが黄色い声をあげたほどです。


ところで、第二次世界大戦の跡地になるというのは嘘です。台所が亜空間に飛ばされます。僕の家の台所を返してください、と何度か泣きながら頼んだのは記憶に新しい。その後リフォームする羽目になりました。


そして、奏には料理以外に困った欠点があります。


「普通の人間には興味がありません。この中に良い法線や垂直二等分線を知っている方がいたら教えてください。以上で―――何で皆、そんな目で俺を見るんだ?あれ、隣の君、何故上半身だけ俺から離すのさ?どうして近寄るなみたいな目で見つめるんだ?」


クエッションマークを頭の上に浮かべながら、何故かをじっくり考える奏。「だ、大丈夫、料理をしなければ第二次世界大戦にならない」と言う始末。そうじゃないですよ。皆君を危ない人だと思ってるだけです。


説明しましょう。彼は幼い頃から、一次元にしか恋ができないという、あまりに奇想天外な性癖を持っているのです。ちなみに作者も一次元萌えらしいです。しかし、喜ばしい、ゲフンゲフン、真に残念な事に僕には一次元の良さが分かりません。根は良い奴なのですが。


しばらくして、全員が自己紹介を終え、一旦休み時間(二十分)となりました。ところで、この学校、横暴と言うべきか、始業式に前年度の勉強がしっかり身についているか確かめる為、英数国のテストがあるのです。そして次の時間は英語のテスト。そして、昼休みを挟み、数、国と続きます。………


「ふざけないでください!」


しまった、声にでた。あ、皆さん、奏を見るような眼で僕を見ないでください。僕はあまりに恥ずかしく、逃げるように廊下に出ました。そして、気がつきます。


「あ………」


廊下の窓からは、園芸部が草木を栽培しているガラス張りの建物(二階程の高さ)の内部が一望できるベストプレイスでした。この学校は、自然をこよなく愛する学校で、園芸部に莫大なお金をかけているのです。ドアの部分には南京錠(箱状の本体とU字型の金属のツルからなる錠。BYウィッキーマウス)もついていて、鍵は園芸部顧問が管理しています。予備の南京錠もある程の入れ込みっぷり。かくいう僕も自然が大好きで、時々ここに来ては植物や園芸部の活動を観察して和んでいます。それなら、園芸部に入れ?女子ばかりの部活に入るのは流石に気が引けたので、僕は帰宅部にしています。ちなみに奏はサッカー部。一年からレギュラーの座を勝ち取る程の活躍をみせています。

朝は急いでいたせいで気付きませんでしたが、これは良い場所が教室になりました。


「どうした?一人でにやけて?まさか、二等分線がそこに居るのか!」

「違いますよ、奏………」


僕は腕時計で時間を確認するとテスト開始まで後十分。そろそろ、教室に戻る必要がありますね。


 教室に戻ると、先程の僕の痴態を皆さんは忘れてしまったようで教科書と睨めっこしています。喜ばしい。すると、ドアが勢い良く開いて、女子が駆け込み乗車の如く飛び込んできました。その際に僕の足を踏んだのに、謝りもせず他の女子のもとに息を切らしながら歩み寄って行きます。ふんだ、グレてやる。


 「園芸部の西田、砕けたんだって!」


 シュールな光景ですね、それは。というかグロいです。


 「やっぱりか~。まあ、固まる筈はないと思ってたけど」


 そりゃ人が固まる筈はありません。でも砕けもしません。


更に少しして、先生(勿論社会の窓は全開)が教室に入ってきました。時計を見ると今は十一時です。テスト開始時間ですね。勉強を全くしていませんよ。


 只今の時刻は十二時。暗号を解いている気分で英語の問題をこなし(案外簡単でした。三問に一問は解けた事でしょう)、昼食の時間となりました。

ところで、この中学校、義務教育なのですから、給食と言う名の制度があります。しかし、今日午後まであるのは近所ではここだけの様で、給食は配給されないようです。なので僕達は事前に知らせられ、お弁当を持ってこさせられました。

そうして、僕は奏と一緒にお弁当を食べられるベストプレイスを捜しているのです。しかし、植物園


(先程の園芸部の建物の事。学校の皆はそう呼んでます)が見える場所が良かったのですが、そこには


既に先客がいらっしゃったので、その人達の両足が靴ずれをおこせばいいと思いながら、涙をのんで他の場所に移動しています。さて、何処に行こうかと考えていると奏がこんな事を言いました。


「俺、良い場所知ってるぜ!」


その頼もしい言葉を信じ、奏についていくと、なんとそこが大当たりだった訳です。なんと暖房が点いているうえ、床には赤色のカーペット、更にはソファーも設備してあるという。


「君達は、校長室で何をしとるのかね!」

「昼食をとっているんです、って暴力反対ですよ!」


と大声で抗議したにも関わらず、カミカミ先生、もとい新校長先生は僕達は蹴り、外に閉め出しました。教育委員会に訴えてやりたいところです。


僕達は潔く、教室でお弁当を貪ろうと帰途についている途中の事でした。この学校の校長室や保健室、職員室などは僕達、生徒の教室があるのとは別棟にあるので、必ず外に一度出る必要があり、更にそれは植物園の入口の前を通る事と同意なのです。

さて、そう言う訳で必然的に植物園の前を通りかかったのですが、その植物園から丁度人が外に出てきました。


時々、植物園の風景を覗いている僕にはその人に見覚えがありました。彼女は園芸部の部員の様で、毎日のように植物園に来ています。腰まで届く黒く長い髪や、その切れ長でありながら人を優しく包み込むような力を持つ瞳のせいか、一度眼中に入れてしまえばなかなか目が離せなくなる程の美人です。色恋沙汰に興味のない僕でも、彼女は美人であると確信しています。ただし、普段はほとんど無表情と言っていい程のクールフェイスであり、感情をあまり表には出さないようですが。背丈は中学生の女性の平均くらいと思いますが、僕よりは頭一つ分ほど小さいようです。(しかし、僕よりも奏の方が更にワンモアヘッド大きいのですよ。呪い殺してやりたいです)


彼女は再びドアの方を振り返り、ドアについている金具にぶら下がっている南京錠(まだまだ新品なようで、金ぴかでした)のツルを通し、本体の箱の穴に差し込み施錠しました。

そして、何かを思い出したように自分のズボンの右ポケットを探り、一度頷くと校舎の方へ戻って行きます。その一つ一つの行動が非常に魅力的で、お恥ずかしながら僕は見惚れてそこから動く事ができませんでした。流石の奏も、顔を赤くして動きを止めて―――


「やべえ、あの壁の傷―――エロすぎる!」


その後、僕は鼻血を出して倒れた彼を引きずって教室に戻る羽目になりました。オゥシット!ちなみに壁とは、植物園の横にある倉庫の壁の事です。しかし、ゆうに三十メートルは距離があったのですが………。彼の視力を疑います。


そうして、教室でお弁当(ご飯の上には、ふりかけがハートマーク型にかけられていました。お父さんのと間違えてしまったようです。ナンテコッタイ)を食べ終え「愛してるー!」と飛びかかって来たホモを埋葬する事により、食後の運動としました。


さて、とうとう数学の時間になってしまいました。僕は数学が苦手です。あんな数字ばかり見て何が楽しいのか………。


「萌え~!」


テスト時間くらい静かにしてください、奏!奏はとてつもなく数学が得意なのです。本人曰く、紳士のたしなみらしいのですが、紳士が“萌え~”って言いますかね?


普段は、こんな事は言わないのです。彼はコンピュータで書かれた線は、面白みがないとの事で萌えないらしいのです。なので、以前のテストは平和に受ける事が出来たのですが、このテストは、コンピュータが不調だったため、図形が教師の手書きであり、それが奏の好みだったらしいのです。


「うわ~、大胆だ~!」


奏のせいで(最初から学力が無かったというのは、スルーの方向で)まともにテストが解けなかったので、解答用紙を回収後、こちらに向かってヘラヘラ笑って歩み寄ってくる彼の頭をポコリと殴りました。


「ポコリじゃねーよ!何筆箱(箱形の硬いもの)で殴ってんだよ!しかも思いっきり!」


彼が前頭部を手で押さえて涙目で訴えましたので、蹴りも追加する事にしました。人間はサービス精神が必要なのです。


前頭部から、手を股間に移して悶絶している彼を尻目に、まだ残っているストレスを紛らわそうと、廊下に出て植物園を見ました。


やっぱり、植物園は見ていて、心が落ち着きますね。色んな植物や野菜が足の踏み場もないくらいに植えられており、また、中央には大きな木が一つデンと聳え立っていて、素晴らしい眺め―――


「―――え?」


僕は気がつきました。その木に本来あるべきではない物、いや、者がある事を。遠目からでも確認できました。あの影は、間違いなく人です。人が、木の枝に力無くぶら下がっていたのです。


「どうした、晃?青い顔して」


まだ、股間を押さえている奏はそう言って、僕の視線の先を探ります。そして、固まりました。指をわなわなと震えさせ、死体のある方向を指差します。


「奏!救急車呼んで来てください!」

「え……、あ!分かった!晃は?」

「僕は、植物園に行きます!」


こうして、二手に分かれ、僕は植物園のある方向に走ります。階段を一つ二つと駆けおり、植物園のドアに飛びつきます。


「あ、開かない!この!」


何度強く引っ張っても、ドアは開きません。僕は、南京錠に気がつきました。南京錠がかかったままなのです。


僕は、今度は別棟の職員室に向かいました。園芸部の顧問である、工藤先生に鍵をもらうためです。廊下をけたたましく駆け、職員室に飛びこみました。初めてノックをせずに職員室に入りましたよ(嘘)。


「工藤先生!」


何事か!と室内の先生全員が、僕の方を一斉に振り向きます。その顔の中に工藤先生のそれがありました。


工藤先生は少し呆気にとられた様子で、こちらをポカンと見つめています。男に見つめられても嬉しくはありませんが、今はそれどころではありません。僕は工藤先生に駆け寄ると、彼を見上げて(身長が百八十を超える巨体のため)息を切らしているので苦しいながらも、早口で言いました。


「く、工藤先生!」

「な、何ですか?そんなに慌てて?」

「しょ、植物園で、人が、人が首を吊っているんです!」


その言葉を言った瞬間、室内の空気が一変した。先生達は僕が何を言ったかを理解するまで少しかかったようで、数秒の間制止し、その後急に慌てだした。工藤先生も例外ではなく、挙動不審というくらい目を泳がせた後、震えた声でおっしゃいました。


「そ、それ本当?」

「冗談な訳ありません!だから―――」

「と、とにかく、急いで秋月さんを捜しましょう!」


え、どうしてでしょうか?僕が呆けていると、先生が説明を付け加えてきた。


「秋月さんが南京錠の鍵を持っているんです!」


成程、それは探さないといけませんね。


「あ、秋月さんのクラスなら三年五組です!」


僕と工藤先生が職員室から走り出る時に、教員の一人がそう言ってきました。他の先生は「きゅ、救急車!」や「学校の評判が!」などを言っているなかで、非常に利となる発言です。


再び階段を駆け上り(普段は体力のない僕ですが、何故かノンストップで走り切れました)、三年五組の教室に向かいます。


「秋月さん、いますか?」


教室の引き戸を壊れる程、思いっきり引いた先生は大声でそう叫びました。教室の皆の反応は、先程の職員室の光景と非常に似ていてデジャヴのようでした。


「………あ、はい。」


そう言って、窓側の席で立ち上がった女性がいました。それは先程植物園から出てきた、クールフェイスの女性でした。まあ、予想はしていましたが。


「植物園の、鍵を、貸してください!」


僕は息を整えながら、そう彼女に告げました。彼女はこっちを見て「誰?」と呟きました。答えたいのはやまやまですが、今はそれどころではないのです!


「しょ、植物園で人が首を吊っているんです!」


先生が、またも叫びました。皆の反応もやはり、先程と同じです。流石の彼女もクールフェイスが崩れ、目を丸くした後、急に外に走り出しました(その際に、また足を踏まれました)。僕と工藤先生が今度は呆け、再起動した後、彼女を追いかけました。


「ま、待ってください!」


僕と先生がそう呼びかけても、彼女は止まる気配はありません。僕達は息も絶え絶えに階段を下り、そして植物園のドアの前に来ました。


「開かねー!」


すると、ドアでは奏が悪戦苦闘していました。右手には携帯を持っています。


「どいて」


彼女は、そう小さく呟きました。


「でも、この中で人が!」

「鍵ならある」

「え?」


もう一度「どいて」と言う彼女の命令に従い、奏は潔くドアから離れた。彼女は右ポケットから鍵を取り出し、南京錠を外しました。


彼女は、すぐさまドアを開け中に走っていき、僕達もそれに倣います。

中の土は黒くて非常に柔らかく、ふとした事で足をとられそうになるのを耐えつつ、問題の木の下に向かいます。そして、木の少し手前で立ち止まり、上を見ました。


見えるのは、木の枝、緑の葉っぱ、そして、力無くぶら下がる一人の少女の身体だけでした。

その後、全員総がかりで彼女を下ろしましたが、既に冷たくなっていました。ロープは一旦枝の上を通してから、下の幹に括りつけられたようです。そして、この彼女、下ろす時に気がついたのですが、頭頂部がグニャグニャに潰れており、何かで殴られた事が判明しました。という事は、殺人である可能性が高いでしょう。奏が今、警察に連絡しています。ちなみに、先程ここに来ていたのは、患者の様態を救急隊員に電話で聞かれたからだそうです。


僕は、下ろされた彼女の死体を今一度よく見てみました。身長は女性にしては少し高く、僕と同じくらい(大体160センチ)ありました。肩にかかるかかからないかくらいの黒髪で、顔立ちは整っている事から生前はなかなかの美人だったようです。まあ、今の彼女は目に輝きが無く、苦痛に満ちた表情をしているのですが。


あれ?彼女、よく植物園に居ましたね。僕もよく見かけましたが、良い印象はありませんね。何故なら来るたびに、植物を乱暴に扱い、園芸部の人たちに迷惑をかけていたからです。だからって、死んでいいという訳ではありませんけどね。


隣に居る彼女―――秋月さんでしたか?―――もしばしの間、その死体を見つめていたのですが、何を思ったか、いきなりブレザーを脱ぎだしました。しかし、彼女の生肌は、太陽光を反射する程真っ白なカッターシャツによってまだ防がれているのです。残念だと思った人は変態決定です。つまり、僕変態。

さて、不謹慎な考えは置いておき、彼女はそのブレザーを死体の顔の部分に被せました。きっと、その苦痛の表情を見ている事が耐えられなくなったのでしょう。そして、悲しみの色を顔に浮かべました。

―――その時、僕の中で何かのスイッチが入った気がしました。犯人が許せない。そう言う思いが込み上げてきたのです。僕は、既に騒ぎが広まり、集まってきている学校の皆を掻きわけ、植物園の外に出ました。


―――しかし、彼女は何処で殺されたのでしょう?植物園の中、というのが妥当でしょうが、それ以外だとしたら何処でしょう?

少なくとも、ここの近くでしょう。死体を、遠くからここに運んでくるのはリスクがありすぎます。ここは職員の棟と生徒の棟との境目で人通りも多いのですから。

だとしたら―――、僕は吸い寄せられるように一つの建物を見ました。それは植物園の横に立っている倉庫。非常にシンプルな作りで窓もありません。主に体育の用具が保管されていて、鍵がかけられている事はほとんどありません。


僕の足は、自然とそこに向かっていきました。そして、ドアのノブを開け放ちます。カビ臭さがいきなり鼻を襲ってきて、なかは埃が舞っていました。しかし、僕は見逃しませんでした。段差もほとんどない、板をはりつけただけの床に、三、四つの血痕があったのを。

しばらくして、警察の方々がやってきました。警察は来るやいなや、すぐさまテープにより植物園に結界を張り、常人が近づけないようにしました。中に入るのを許されているのは警察の方々と、発見者である僕達のみです。また、僕の証言により、倉庫も封鎖されました。

 

 

 

「被害者は佐野幸。ここの学校の生徒で三年生です。俗にいう不良で、時々授業もサボっていたとか。死因はソフトボール用の金属バットでの頭頂部殴打による撲殺で間違いないと思います。また、血痕の広がり具合からみると、被害者は直立した状態で殴打されたみたいです。詳しく調べないと分からないですが、死亡推定時刻は今日の午前十時半から午前十一時の間かと………。」

「そうか、御苦労」


鑑識の代表と思わしき小太りで眼鏡の男性は、刑事の一人の顎髭を生やした中年の男ににそう告げました。ちなみに金属バットは、倉庫にあったものです(ちなみにロープも倉庫にあったものです)。あれ?あの刑事………。何処かで見たような?


「あれ、警視総監の孫がこんなとこで何やってんだ?」


その男の方が驚いた顔をして、僕に話しかけてきました。ついでに、秋月さんや工藤先生、また取り巻きの数人もが驚いた顔をします。唯一の例外は奏だけですね。多分、警視総監の孫、と言う事に驚いたのでしょう。僕のお祖父さんは現役の警視総監なのです。怠け癖が酷く、気乗りしない時は全くと言っていい程適当な人間なのですが、誰かが悲しんでたり、困っていたりすると物凄い能力を発揮する人です。僕は、このお祖父さんの血を存分に受け継いでいる気がします。自分を過大評価してスイマセン。


「あ~、大河内警部!お久しぶりです」


ようやく、僕も彼を思い出しました。以前、祖父に連れられて来た事件現場に居た警部です。しかし、この警部、なかなかに適当で、楽できるところは絶対に楽する警部です。腕は確かなのですが―――。


「よう、まさか、ここがお前の学校だとは知らなかったぜ」


そう言って、僕の背中をバシバシ叩いて笑う大河内警部。正直痛いので勘弁してほしいのですが。


「大河内さん、今は事件でしょう!」

「おう、そうだったな。さてと―――」

「―――警部さん。僕、犯人分かりました!」


突如として、人混みの中から声が聞こえました。その人は、真に遺憾な事に身長が僕よりも高く、一度見ると、不細工な人間だけならまだしも普通の人間さえ自分の顔に自信を持てなくなる程のイケメンな男性でした。―――どうせ僕なんて!


眉も太く、非常に男らしい。何人かが、黄色い悲鳴をあげているのは無視して良いでしょう。学校の制服であるからして、学校の生徒である事は間違いありません。というか、園芸部員の一人です。僕も何度か見た事があります。しかし、行儀が悪いですね。ブレザーのボタンは、第一ボタンまで閉めてください。せめてもの誹謗中傷です。


「―――あなたは?」


大河内さんは真剣な、何処か凄みのある顔をして、そう言いました。


「ここの三年生で、園芸部の西田智明と言います」

「ああ、砕けたと噂の!」

「え、砕けたのか?」

「砕けた言うな―!振られたからって何か関係あるのか!」


振られた?つまり、告白したのに“あなたとは付き合えないザマス、マス”と言われたのですか。それで砕けた、ですか。物理的に砕けたのかと思いましたよ。すると、後ろのギャラリーがざわめき始めました。


「―――誰よ、西田振った人?」

「秋月さんよ、ホラ、あそこに居る」

「ウッソー、マジで?私だったらあんなイケメンに告白されたら、一瞬でOKしちゃう」


前言撤回。秋月さんが“ザマス”なんて使う訳ないザマス。


「それで、犯人が分かった、と言うのは本当なのですね?」


一応見知らぬ人なので、敬語で西田さんを呼ぶ大河内警部。すると、西田は自信満々に大きく頷き答えた。


「ええ、犯人は、彼女ですよ!」


そう言って、彼が指を差す先に居たのは―――秋月さんでした。ひどすぎです!振られたからって、そんなやつ当たりをするなんて!最低!鬼畜!悪魔!歩く犯罪!

いえ、冗談です。確かに、この状況だと彼女が疑われるのも仕方ないのです。

それは、彼女も重々承知していたようで、そこまで驚いた様子を見せず、反論もせずに静かにそこに立っていました。


「何で、彼女が犯人なんだ?」


今まで、黙っていた晃が疑問を述べました。まあ、彼は園芸部についてよく知らないですし、分からなくても不思議ではありません。


「園芸部では、毎日一人の人間が昼休みの間に、当番として植物園内の花の様子を確かめるんだよ。そして、当番の人間は朝に工藤先生から南京錠の鍵を貰うんです。そうですよね、工藤先生?」

「―――あ、ああ、そうだが」

「で、今日の当番が秋月さん、って訳です。もし、彼女が犯人じゃないとしたら、その犯人は南京錠をどうやって開ける事が出来るのですか?」

「―――あ!」


晃はようやく理解したらしく、「確かに」と呟きました。


「そう死亡推定時刻は十時半から十一時で、犯行現場は倉庫。つまり、死体が運び込まれたのは、恐らく昼休み。朝から、彼女だけが持っていた南京錠の鍵を、その時間帯に他の人間が使えた訳はない。つまり、この現場は秋月さん以外は開けられない密室だった事になる。つまり、犯人は秋月さん以外には有り得ないんです」


どうだとばかりに自信たっぷりに胸を張る西田さん。確かに、筋は通っていますね~、困った事に。というか、死亡推定時刻を盗み聞きしてたのですか。

すると、言われるがままだった秋月さんがようやく口を開きました。


「―――だとしたら、何で私はわざわざ死体を植物園に運んだの?」


その口調は冷静ではありますが、微かに震えており、表情も強張っています。恐らく、最後の抵抗でしょう。

しかし、西田さんはその逃げ道すらあっという間に塞ぎました。


「死体を隠したかったのではないでしょうか?今日は、始業式で部活もありませんし。―――まず、あなたはテストの前に、この倉庫で彼女と会った。そして口論になった末に金属バットで撲殺。被害者はよく、植物園に来ては、植木鉢を倒したり地面を無茶苦茶にしたりしてやりたい放題でしたから、その事を咎めようと呼び出したのだろうけど、やりすぎてしまった。一旦はその場を逃げましたが、そのまま倉庫に放置していても、すぐに見つかってしまう。そこで、あなたは昼休みに一旦死体を隠そうと、植物園に運んだ訳です。そして、恐らくは人気が無くなったのを見てから、倉庫に戻し、深夜にでも学校に忍び込んで、死体を学校から運び出そうと思った。しかし、その前にここの眼鏡に見つかった。

あなたが犯人なんて残念ですよ」


眼鏡言わないでください!そこまで言い切ると、西田さんは本当に残念そうな顔をしました。どうやら、彼女の事が好きなのは本当の様です。それと同時に野次馬もざわめき始めます。


「―――そう言えば、確かにテストの前の休み時間、秋月さんいなかったわ」

「ウッソー、ショック!彼女、憧れの人だったのに!」


テストの前の休み時間に教室に居なかったのですか。これは、ますます不利になりました。

彼女は汗をかいていて、焦っているのは明らかであり、何か反論しようと口をパクパクと動かしています。

大河内さんも納得したようで、一度頷いてから彼女に近づきました。


「秋月さん、でしたか?任意同行を願えますかな?」


―――さて、茶番はここまでにしましょうか。


「待ってください」


その言葉に再び皆が固まった。今日は皆が良く固まるな。彼女も驚いたように目を見開いていますよ。

大河内警部は彼女から視線を外し、身体ごとこちらに向けて尋ねてきました。


「どういう事だ?」

「簡単な話です。彼女は犯人じゃないと言ってるんです」


その一言に、西田さんが笑い始めました。もう、さん付けで呼んでやらない事にしよう。


「ハハハ、これは愉快だ!君の頭は、僕の推理が理解できない程に馬鹿なのですね!」

「僕が馬鹿なら、あなたは犬にも劣るのでしょうか?あ、比べたら、犬が可哀そうですねー」


その言葉に皆が笑いだす。不謹慎な人達です。


「ハハハ!」


警部が、事件現場で笑っていいんですか?対照的に、西田は顔を真っ赤にして反論しました。


「じゃあ、説明してもらおうじゃないか!彼女が犯人じゃないとしたら、誰がどうやって死体を植物園の中に入れたかを!まさか、穴を掘って、トンネルを作ったとかいわないよな?鑑識さん、そんな跡ありましたか?」

「―――いえ、地面にあったのは足跡だけで、他に不審な跡はありません」

「そら見ろ!この馬鹿が!」

「誰もそんな事は言ってませんよ。もっと単純な方法で入ったんですよ。そして、それが出来るのはただ一人。犯人は―――」


僕の声が、周りの空気に浸透しました。


一応ヒントは全部入れました。解答編はでき次第上げます

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