光は夢の中にだけ
隣に最愛の人がいる。
手を繋ぎどこに行くも一緒で、苦楽を共にする私の大切な恋人。
でも、その彼女はもう……。
目が覚める。
「また、起きちゃった」
彼女が事故で亡くなってから三ヶ月。私は、自宅に引きこもっている。
初めからこうだったわけじゃない。
事故の日から、二週間も休んでしまった会社に出勤し、休日には友人たちと遊びにも行った。
でも、無理だった。
どこに行っても、彼女の面影を感じてしまう。その度に、苦しくなって、悲しくなって、どうしようもなくなる。
だから、私は夢をみる。
夢の中なら、彼女に会えるから。
初めてみたデートの夢は、今でも覚えている。
駅で待ち合わせをして、電車に揺られて目的地へ向かう。他愛もない話をして、並んで歩く。
ずっと、笑顔だった。私も、彼女も。
ベッドに潜る。
夢の世界に行くために。
そこには、いつもと変わらない彼女がいた。でも、纏う雰囲気がいつも通りじゃなかった。
「また来たの」
彼女の第一声。
思いもよらなかった言葉に、駆け寄ろうとしていた私の足が止まる。
なんでそんなこと言うの? あなたに会うためにここに来てるのに……。
彼女の言葉は続く。
「逃げるのはやめて、前を向いてる人と一緒に歩いてよ。私は、もういないんだかーー」
「やめてよ!」
彼女が言い終わるのも待たずに叫ぶ。
「夢に逃げるな? 現実に向き合え? そんなのクソ食らえだよ!」
何度も言われて来た。伸ばされた手を振り払う度に、私から離れていった。
私は、一人だ。今更、夢に出てまでそんなこと言って来ても遅いんだよ。
「私にはあなたがいれば、夢でも良いんだよ。あなたさえいてくれれば……」
だから、あなたじゃないあなたはーー
「消えて」
言うと同時。目の前の彼女の姿が霧散した。
跳ね起きる。
「最悪だ……」
夢でもあんなこと言われるなんて。
寝直して、彼女と笑い合う幸せな夢を見よう。
再び、ベッドに潜る。だが、寝られない。
それもそうだ。人間、一日に十何時間も寝られるわけがない。
「はぁ……」
重い体を起こして、催眠薬を手に取る。
眠れない時は、いつもこれを飲む。今では、部屋のそこらじゅうに空ビンが転がっている。
蓋を開け、一気に飲み干す。
だが、眠気が来ない。早く寝たいのに。もう一本、と手を伸ばす。
さっきのは悪夢だ。
飲む。
次はきっと大丈夫。
飲む。
彼女は笑顔で迎えてくれる。
飲む。
腕を広げて待っていてくれる。
飲む。
私は彼女の胸に飛び込むんだ。
飲む。
そして、言うんだ。ずっと一緒だよ、って。
「だか、ら……ま……たーー」
隣に最愛の人がいる。
手を繋ぎ、これからはどこまでも一緒だ。
彼女が笑顔になれば、私も笑顔になる。私が楽しければ、彼女も楽しくなる。
そうやって、並んで歩いていくんだ。
不思議と、この夢は覚めることはない。そう思った。