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神モドキと狩人  作者: 鳥津 紀伊
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神明裁判

今、何が起こった…!? いや、ヤツの百足腕で俺の左手が切られたのは分かる…だが、どうやって届かせた!? 俺の予想じゃヤツの射程圏内では無いはず!


「驚く暇ぞ無き」


「グッ…!」


神蟲に切られた事を皮切りに起きた形勢逆転で、男は首や腹、鳩尾等を殴られた後に吹き飛ばされる。


「汝は我が腕が伸びずと思へり。 さらむ?」


「そういう…ことかよ…」


ヤツは腕も伸ばせるってか…? 確かに言われて見りゃ伸びそうでもあるか…。 更に言えば、着物姿だから足元で重心や屈み具合を判断するのが難しかったってのもあるな…


「便りに言はば、汝は我が毒を持ちたらずとも思へり」


「んだと…!?」


毒だぁ…!? クソッやられた! 解毒薬なんざ持ち合わせてねぇし、ヤツの毒が軽いとも思えねぇ……こうなった以上、かくなる上は!


「こなくそぁ!!」


ザシュ…と骨まで切断する音が静かに響き、その後にボトッ…と腕が地面へ落ちる音も鳴る。 ビルタルは猛烈な痛みに悶絶しながらも、戦意を漲らせて神蟲を睨み続けていた。


「…良き理なり。 なほあひしらふに付き付きし」


「クソが…良い空気ばかり吸いやがって…」


痛ってぇ…片腕落としたは良いが、変に肘から斬っちまったせいで微妙にバランスが取りづらくなっちまった。 剣は捨てるか…? いや、防御手段が減るのは困る…


「…ふむ、未だ戦ふ意思のあるは良き事なれど、今は限りの如く見ゆめれど?」


「馬鹿言え、まだ…まだ戦れるさ」


まだ…そうだ…まだ戦れるはずだ……こんな神モドキ、足で蹴ったりすりゃ殺せるはずだ…


「ぅぁああああ!!」


ビルタルがふらつく身体で神蟲へ迫るが、上手く力が入ってない蹴りは軽々しく避けられ、返しの膝蹴りを腹に入れられた。


「ガハァ…ッ! まだ…まだ…」


「汝には(あなが)ちなり」


…駄目だ、腰が入らねぇ…元から身体も蘇生したてで脆かったのもあるが、内蔵が幾つかやられてそうだ…


「この…野郎……」


クソが…流石に出血で意識が朦朧としてきた……ここで倒れたらヤツに殺される…ってのに……もう…無理だ……



─────────────────────────



「人の仔や気絶しにける…」


ビルタルが倒れたのを見て、神蟲は落胆の表情を表しながらトドメを刺さんと近寄る。


「存外にあへなきものかな」


左腕から大量の血溜まりを作りながら倒れるその姿は、哀れという感情を神蟲へ抱かせる。


しかし、血溜まりが青銅色の剣…【蕩々誓湯剣】に触れた瞬間、その剣が血溜まりと共にビルタルへと吸い込まれていった。


「ゆゆし…」


吸い込まれていった剣と血はビルタルの左腕を新たに形成し、何故か全身を少しずつ湿らしていっている。 そして、ふらふらと立ち上がり…目を見開いた。


「これは…ビルタルの身体か」


「な、汝は誰なり? ありつる男には無からむ?」


突如として復活したビルタルでは無い存在に神蟲は警戒心を露わにする。 先程までの弱った気配とは打って変わって、恐ろしい程に秘められた力は、神蟲の身体を強ばらせた。


「私か…私は神判の熱湯にして旧き法。盟神探湯(くかたち)だ」


「何なり、汝は神モドキなりや」


しかし、新たな男の正体が神モドキであると知ると神蟲は警戒を解き、隙を伺って盟神探湯を殺そうと近付く。


「では死刑判決に基づき、貴様を殺す」


「なにと?」


神蟲が盟神探湯の発言を理解するより先に、辺り一面が熱湯で包まれた。 むせ返るほどの熱気、乱反射する太陽光。 一瞬にして環境が切り替わるその御業は…まさに神のようだ。


「あなや…!?」


「我が神判を耐えてみせよ。【湯湯乎(しょうしょうこ)】」


そう、盟神探湯が唱えるやいなや、周りの熱湯が激流のようになって神蟲へ迫る。 そして忘れてはならない。 盟神探湯の熱湯はただの熱湯ではなく…過熱水。


「──ッ!?」


「【湯起請(ゆきしょう)】」


流れる過熱水は水蒸気爆発を放ちながら、段々と神蟲を中心とした巨大な水球へ変化してゆく。 巨大な水球はその形を維持しつつも、その中で水蒸気爆発の嵐を叩きつける。


「助け…ッ!」


「最後だ。【神明裁判】」


盟神探湯の宣言と共に巨大な水球は、小さく小さく圧縮されていき…人の頭程度の大きさとなった辺りで、全てが破裂した。


暴風が吹き荒れ、全てを爛れさせる熱湯が充満し、鎌風もをばら撒く。 そんな死の嵐の中心に居た神蟲は、塵すら残らぬ程に爛れ縮れ千切れていた。


「…言葉を返そう。 存外にあっけないものだな」


死刑判決の跡地を背に、盟神探湯は一言呟いた。


「そして、この身体はビルタルに返さなくてはな…」

最後まで読んで頂きありがとうございます。


Q. 盟神探湯って何?

A. 前作の『神狩り』を読んで下さい


Q. 前作より盟神探湯強くない?

A. 「あの時は様子見してたらいきなり頭おかしい方法で殺された」


Q. 盟神探湯に理性は無いんじゃ?

A. 「熱湯だけの身体で50音全て喋ってから物を言え」


Q. どうやってビルタルに身体を返したの?

A. 「頭を地面に打ち付けて気絶した」


Q. 剣状態でも意識あったの?

A. 「ある」


Q. なんで殺してきたヤツを助けるの?

A. 「私の神判を(結果的に)無傷で乗り越えた者であれば、付き従うに値するであろう?」


Q. 蠱毒ノ神蟲に左手を切られた時、腕を斬り落とさなかったらどうなってたの?

A. 蠱毒ノ神蟲の能力【蠱毒厭魅】で解毒薬でも解除できない即死級の毒を全身に回らされてました

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