神殺し
大通りの片隅で1人の男と怪しげな店主が会話していた。 会話と言えど、談笑とは言えないような空気だ。
「オイ坊主、なんべん言わりゃ分かんだ?」
「うるせぇジジイ。 テメェの情報と違ってクソ強かったんだよ、どうしてくれんだ?」
両者睨み合い、男…ビルタルは今すぐにでも殴らんばかりの気迫で店主を脅すが、店主は少しも臆せず受け流す。
「あのなぁ…一見ただの水なのに、触れてみたら爆発する水でしたーなんて見抜けるわきゃねーだろ?」
「ぐむむ…」
クソ…正論で殴りやがって……正論ボディブローがじわじわ効いてくるぜ…心に。
「それによぉ、爆発するって分かってんなら何故避けねぇんだ? 剣も蘇生薬も使い果たすとか馬鹿の極みだろうがよ」
正論アッパーカット…!? ノックアウト寸前だぞオイ!? 今後の狩人活動に後遺症が残っちまうかもしれねぇな…
「だがまぁ…聞くところによれば危険度は想定よりも2段階も上だった訳だ。 テメェが嘘つくとも思えねぇから報酬上乗せだな」
「マジかよジジイ!? ヒュウッ! 太っ腹!」
「オマケに、お前が持ち込んだ神モドキのコアで新たな剣も作った。 バラバラに割れてたとは言え、素材としては優良だったからな」
おぉ…これが飴と鞭ってヤツか…存外悪くねぇもんだ…。 コレで使ったもんは全部戻ってきたどころか報酬ウハウハじゃねぇか! 命を張った甲斐が…あ……る…?
…おん?
「…あー……蘇生薬は?」
「馬鹿野郎テメェ!! ンなもん軽々と用意できるもんじゃねぇ!!」
「フゥ〜! そりゃそうだよなぁ!? んじゃ後で謝るからコレ貰ってくぜ!!」
報酬と剣を奪ってトンズラだ!!あ〜ばよ〜!
じっちゃ〜ん! 詫び品は石とかで良いよな!
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「まずは試し斬りか…都合良い相手とかいねぇもんかな?」
ビルタルは新たな剣と回復薬を携え、荒れ果てた山の麓へと来ていた。 荘厳な空気に包まれた荒地は闘いの匂いを醸し出している。
「ここら辺の魔物となると…ウルフ種辺りか?」
まぁ狩りの基本にして、立ち回りや観察、動体視力に一対多まで練習できるから丁度良い相手だな。 まだ蘇生したばかりで筋肉が馴染んでねぇから、弱いグレイウルフとかと闘いてぇところだが、天は俺を嫌ってるらしい。
「んな都合良かぁ行かねぇってか?」
遠吠えが聞こえた辺りに行って見りゃ、イェルウルフの群れしか居なかったぜ畜生が…
「イェルウルフか…」
格上の相手にさえ襲いかかり、飢餓に陥った際には同族を喰らうことすら厭わない社会性のしゃの字も無ぇ奴らだ。 そんなイェルウルフの群れとなれば、何度も格上の奴らに勝利し飢餓にも陥らずに暮らしてきた、所謂歴戦の戦士ってことだ。
「ちと闘うにゃ不安が残るが贅沢は言ってられねぇ」
というか既にヤツらも臨戦態勢じゃねーか。 流石に五感が優れたウルフ種に先手を取るのはキツイって事だ。 だがな…空間把握能力が甘ぇ! 警戒すんならコッチを見ながら警戒するべきだったなぁ!!
「いざ尋常に死…ッ!?」
違う! 殺気!? ウルフのじゃない…明後日の方向を向いた臨戦態勢…! つまりぃ…!?
「クッ…!」
不意に刺刺しい危機感を肌に感じたビルタルは、後方へ全力で飛び退き…つい数秒前までビルタルとイェルウルフが居た空間は轟音と共に砂塵で包まれた。
「おいおいおい…冗談じゃねぇぞ…この気配、神モドキか?」
ビルタルの独り言が風に流されるように、砂塵の煙幕も風に流され…
「邂逅し早々我を"神モドキ"と云ふなめし者め、汝、神殺しの御前に在ると識れ」
「あー…そりゃ悪かったな。 あまりにも神モドキと気配が似てたもんだから間違えちまった」
晴れた砂塵とウルフの死骸の中央には、1人の女性が立っていた。