第8話 冒険者ギルド・ジャポリ支部
「い、いえ……たいしたことは……」
僕の眼の前には紫色のふんわりとした長い髪の女性がいる。珍しい髪色ではあるが宙を舞う長い髪が、整った顔と相まって演劇のワンシーンにも見える。控えめに言っても綺麗な人だと思う。
「あ、ギルド長だと思われていませんね〜? 私これでも、仕事はできる方なんですから〜」
ギルド長を名乗るフワリさんは口を膨らませている。きっと怒って(?)いるのだろう。いるのだろうけど、掴みどころのないフワフワとした雰囲気に僕はやりづらさを感じた。
「ま、まだ何も言っていないのですが……?」
「細かいことは良いんです~。それでですね〜? アーク様が倒したライザなんですが〜。実は賞金首でして〜……簡単に言うとお金がでます〜! おめでとうございます~!」
「そうなんですか?」
今はお母さんから貰ったお金しかない。少し足しになるかもしれないからそれはありがたい。
「ただギルドの規定で賞金を受け取るにはギルドカードを作って頂く必要があるのです〜」
「ギルドカード?」
「はい〜。ギルド版の身分証だと思って下さい~。でもギルドカードを作ったからといってギルドクエストを受ける必要ないので〜。そこは安心してください〜」
僕が状況を飲み込めていなくて困惑しているところ、エドワードさんがフォローをしてくれた。
「アーク様。フワリ殿が仰る通り、クエストを強要されることはありません。それにギルドカードは今の能力値も見ることができます。ユリナ殿は私の方で見させて頂きますので、安心して行ってくださいませ」
「エドワードさんがそこまで言うなら……ラティも一緒に行く?」
「そうだね。私もこの機会に作ろうかな?」
「はい〜。それでは向かいましょ〜」
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僕とラティはフワリさんにギルドがある場所に案内される。外の外壁と同じ石の素材で作られた堅牢そうな建物であった。
「あまり綺麗なところじゃなくてごめんなさい〜」
しかい中に入るとカウンターと机以外はボロボロ。それどころか誰もいない。歩く度に軋む木板が異常な静けさを認識させた。
「ひどい有様ですよね〜。これも全部ライザのせいなんですよ〜。ギルドとしては事務的に仕事をしないといけないんですけど……あくまで私個人としては本当に感謝しているんですよ〜」
「えっと、僕はラティが馬鹿にされたことに腹が立っただけなので……気にしなくてもいいですよ?」
「そんな理由で……でも人前ではっきり言われちゃうと照れるね。アーク君のそういうところも悪くないね」
ラティは何故かドヤ顔をしていた。ラティが嬉しそうに言うから、僕も嬉しい。僕はラティが悲しい顔をしなければいいのだ。
「ギルドは代わりの人員を補給しなかったの? 住民にとっても生命線じゃん」
ラティはフワリさんに尋ねる。たしかにラティの言う通り、ギルドの存在は大きい。騎士が国民を守る存在であれば、ギルドは民間の警備以上という役回りだ。
ギルドがあるおかげでスムーズにモンスターが狩れている。だからギルドの存在は重要だ。それなのに人員を補充しないということは……。
「補充しないんじゃなくて、できなかった?」
「その通りです〜。ここは辺境の地ですから〜。誰も来たがらないですし〜。来ても盗賊の力が強いんじゃ皆辞めていきますよ〜? もちろんギルドの職員も冒険者の方々も~。割に合わないですからね~」
「えっと……フワリさんはここの出身なんですか?」
「私ですか〜? 違いますよ〜? 私は王都の出身なんです〜」
「じゃあどうして?」
ここで働いているのかという意味の問い。もしも僕と同じなら聞きたくないと思ったから。
「左遷されたからです〜」
しかし残念ながら当たってしまった。この人は大変な思いをしてきたのだろう。
「あ、でも盗賊団は酷かったですけど、街の人達はとてもいい人達なんですよ〜。私はこの街が好きなんです〜」
僕もザマール家から追放された身だ。それでも辺境の地で働き続けているフワリさんが少しかっこいいと思ってしまった。
「あぁ~……そういえば、今後捕まったライザがどうなるか話していませんね~?」
「捕まった後ってことですか?」
「そうです~。恐らく順当に行けば死刑です~。強盗、誘拐、殺人……他にも余罪がありすぎます~。ざまぁみろです~」
「まぁ、あそこまですれば死刑は免れないね」
フワリさんの言葉にラティはうんうんと頷いている。
「死刑……そうですか」
ライザはあまりにも罪を重ねすぎたのだろう。あまりに多くの無垢な民を傷つけすぎた。そこに同情の余地はない。でも僕個人としては、残りの一生をかけて罪を償ってほしかったけれど。それがどんな罰であれ。
「……どうでもいい話でしたね~。そろそろギルドカードを作りましょうか〜」
フワリさんはそう言うと、フワリさんは重々しい台座のようなものを持ってきた。上段には丸い透明な水晶があり、下段に金の三角錐が中央に三つ取り付けられて地面に向いている。
フワリさんは金の三角錐の中心に魔法陣が描かれた布を引いた。
「これで準備完了です〜。この水晶の上に手をかざせばギルドカードが作成されます〜。ギルドカードには現在のステータスが表示されていますが~……ご自身が成長したな〜と感じたら更新に来てください〜」
フワリさんの『成長』という言葉を聞いて僕の心は少しワクワクした。
今の時点でも十分強くなったと思うけれど、僕のジョブであるレアリティ変更士が更なる高みに導いてくれるはずだ。僕自身がどこまで成長するか未知数なのだ。
「なにか質問はありますか〜?」
「測定した後に細かく説明してくれるんだよね?」
「はい〜。もちろんでございます〜。説明して理解して頂くのも我々ギルドの仕事ですから〜」
フワリさんはラティの問いに嬉しそうに頷く。フワリさんは本当にこの仕事が好きなのだろう。
「そうなのね。それなら私からでも大丈夫?」
「もちろんです〜。恐れ多いですが、ラティ様。お手をかざして下さい〜」
「こう?」
ラティが手をかざすと、魔法陣は黄色く光り、三角錐の中心から光が出てカードに文字が刻まれる。これも神様のお力だと言うからすごい。本当に神様ってすごいと思う。
「さすが、王女様ですね〜」
【ラティ・カーバンクル】
【体力】E
【筋力】D
【俊敏】C
【魔力】S
【神聖】A
「【魔力】がSってはっきり言って逸材ですよ〜。一万人に一人の逸材です〜。ちゃんと魔法の使い方を覚えれば、そこら辺のモンスターなら簡単に倒せますよ〜」
ギルドカードにEからSまでの表記がある。これもレアリティと似たようなやつなのだろうか。いや、ラティは前にレアリティというものは王族の一部しか知らないと言っていたから別のものなのだろう。
これがフワリさんの言っていたステータスというやつかもしれない。
「まだまだ成長途中というのが恐ろしいです〜。今後のご活躍が楽しみです~」
「そう? ねぇ、アーク君、私って逸材らしいよ?」
ラティはドヤ顔で僕は見る。褒められて少しだけ舞い上がっているように見えた。
「でも【体力】が最低のEランクなので頑張りましょ〜」
「うっ……こ、これから成長するからっ!」
ラティは先程のドヤ顔とは一転、すぐに涙目になる。きっと王城で勉強を頑張りすぎていたのだろう。ラティは頑張り屋だから。
「それではアーク様の番ですね」
「は、はい。よろしくお願いします」
僕もラティと同じように水晶の上に手をかざす。
すると、何故か魔法陣は虹色に光り、三角錐の中心から光が出てカードに文字が刻まれる。
「ちょ、ちょっとなんですか……!? こんな数値はありえません〜。アーク様申し訳ありませんが、もう一度、測定させて頂いても宜しいでしょうか〜?」




