第48話 一万体の兵士
「お前まだ野垂死んでなかったんだなぁ……だけどお前の運命はこれまでだ。俺がきっちり殺してやるからよぉ! ヒヒッ!」
「どうしてガイアお兄様がここに……?」
馬車から降りてきたのは……僕の兄、ガイアだった。
「どうして? 理由は単純に王国が我がザマール公爵家を裏切ったからだろう? そして屋敷も壊滅させられ困っていた時にクロイド帝国が俺達の手を指し伸ばした。我らザマール公爵家はクロイド帝国の手を取り、王国に見切りをつけた……まぁ、丁寧にしたところで愚弟が理解できるはずがないか。ヒヒッ!」
僕の嫌の予感は当たっていた。
「それってただの裏切りじゃん……反吐が出る」
思わずラティの口から最大限の侮蔑の言葉が出てしまう。
なんて人達なんだ。ラティの表情に嫌悪感が滲み出ている。そうなってしまうのも無理がない。
「裏切りとは失礼な。先に裏切りを働いたのは、貴様ら王国の方からだろう」
ラティの言葉に元お父様――ドネイクが馬車を降りて口を挟む。
ガイアがいるならドネイクがいてもおかしくない。しかし家族ぐるみで王国を裏切るなんて……あまりにもひどい。
「あなた達が悪い事を企んでいたからでしょ!? 自業自得じゃん!」
「自業自得? むしろその業を受けるのは王国の方だろ。我とクロイド帝国の手によって裁きを下してやる」
「話にならないね……」
「まぁいい……あの小娘も後で消せばいいか。ガイアよ……あのザマール公爵家の汚点を消せ」
「ヒヒッ……かしこまりましたお父様」
ガイアはニヤニヤと僕を馬鹿にしたような目を向ける。
僕だって簡単にやられるつもりはない。
「お待ちください。まずは私にやらせて頂いてもよろしいでしょうか?」
ハゲ頭のカンユウがガイアに声をかける。今日のカンユウは前と違いカツラを付けていない。
「いいだろう。だが、あいつは無能だからなぁ。簡単に殺してくれるなよ?」
「ふむ。ガイアが良いと言うならば止める理由はない。好きにするがいい……ただ殺してくれるなよ? ザマール公爵の恥晒しは、自分の達の手でしっかりと処理しなければならないからな」
「分かりました……では少なくとも私の神に背いた罰に最大限の苦しみだけは与えて差し上げましょう」
カンユウは背中に付けていた。大きな鉄のハンマーを構える。
「おい、不届き者。今からお前の悪魔を倒したとかいう嘘をここで証明してやる。そしてジャポリの街に住む住民全てに神を侮辱した罪……全員殺すことで土地ごと浄化してやるから覚悟しろ」
カンユウの言葉に僕が怒りを覚えるのに十分な理由だった。
だから思わず言い返してしまった。
「悪魔を倒したって嘘じゃないですが……あ、でも今回は金色の髪は付けていないんですね。じゃあお互い本当の事を聞けそうですね。安心しました」
「貴様ぁぁあああ!!! 言ってはならない事を!!」
カンユウは大きな鉄のハンマーを振りかぶりながら、僕に向かって振り下ろす。普通の人が重量のある鉄の塊に当たれば簡単に致命傷になるだろう。
「死ねぇぇぇぇぇえええええ!!」
でも僕のジョブは普通ではない。レアリティ変更士の恩恵を受けている僕には、この程度の攻撃ではスキルを使うまでもない。
僕は最速で距離を縮め鳩尾の部分に触れる。強く当てると死んでしまうから。
「ううっ……な、なにを……! なにをした……!?」
カンユウは武器を地面に落とし、四つん這いになる。そこに聖職者かどうかは関係ない。人間であれば誰もが備えている急所。カンユウも等しく人間なのだ。
「これで証明になってるかな……? 悪魔――バフォメットはもっと強かったから証明されたかは怪しいけれど」
「き、貴様ぁぁあああ……! 私を……私を悪魔以下だと言ったのか……!?」
カンユウは悶えながら、僕に憎悪の線を送る。
「うん。でも辛いでしょ。しばらくの間はお休み……次に目が覚めた時には牢屋の中だと思うけど」
「嫌だ……!」
「本当……こんなのが教団の聖職者だったなんて……本当に恥ずかしいんだけど」
リュミエールはカンユウの醜態に我慢をできず深い溜息を吐いた。
「おぉ……愛しい私の神様……私をお救い下さい」
カンユウはそう言って、自身の手首に巻かれているブレスレットを抱いたまま気を失った。
ガイアは気を失ったカンユウを鼻で笑った。
「なんだ。無能以下か……まぁ大変残念のことだが、腐ってもザマール公爵家だもんなぁ……仕方ない。俺が直々に処理してやるか。ヒヒッ……まずは構えな」
ガイアはザマール公爵家に伝わる【アダマンタイトソード】を引き抜く。もはやガイアはやる気だ。だとしたら、僕もやられないように戦うしかない。
「分かりました……僕は王国のために容赦しませんよ」
僕はただの木の枝(SSS)を構える。
「容赦しない……? しかも俺相手に木の枝だと……いくらなんでも俺の事舐めすぎだよなぁ!!」
「一応教えておいてやるよ! 絶対にありえないが……万が一にも俺を倒せたとしてもここには一万体のゴーレムがいる! お前はどう足掻いたって死ぬんだよぉ!」
ちょっと待って今、ガイアは一万体のゴーレムって言ったよね……? それってつまり……?
「ここにいる兵士って……人じゃないの!?」
もしも、ここにいる兵士が人でないのなら話は変わってくる。
「おいおい……数の問題だけじゃないぜ? このゴーレムはなぁ、一体一体が王国の中級から上級程度の実力なんだぞ? 一体でも愚弟が勝てる訳ないだろ。無能なんだから。それにしても……まったくクロイド帝国の魔導技術力は違うなぁ……技術力だけで王国の100倍は進歩している。王国が如何に遅れているか分かるよなぁ?」
「つまりここにいる兵隊は全てゴーレムってこと!?」
「お? 馬鹿な愚弟でも理解できたか!? だがよぉ! 絶望してももう遅い! お前は楽に殺さずに、おもちゃにしてやるからなぁ! その後は、お前が大事にしている女でも遊んでやるか! もちろん……あられもない姿にひん剥いてなぁ! ヒヒッ!」
ガイアは王国だけでなくラティやユリナをも侮辱する。ガイアはもう王国に対しての忠誠心など存在しなかった。でもいつもだったなら腹に来ていた発言も今は気にならない。
「じゃあ、おもいっきり攻撃しても誰も傷つかないってことだよね!」
人を殺すことはない……つまり不幸な人が出ない。それが分かっただけ僕の気が楽になったから。
『対象のレアリティを変更できます』
突然、青いウインドウが表示された。対象って何を対象にしたんだ?
『【魔導ゴーレム(R)】×10000を【鉄くず(N)】に変更しますか?』
え!? 10000体を対象にしたの!? しかもレアリティを変更するだけで鉄くずにできるのって……もちろん鉄くずってことは動かなくなるってことだよね?
だとしたら、この戦争を早くに終わらせることができるかもしれない。もちろん、やらない選択なんてない。
「はい」
「おいおい、独り言かぁ? まぁこの状況で頭がおかしくなるのしゃーないよなぁ!?」
『【魔導ゴーレム(R)】×10000を【鉄くず(N)】に変更します』
【魔導ゴーレム(R)】×10000→【鉄くず(N)】×10000
『変更が完了しました』
青いウインドウ文字が表示される。
すると、あたりから『ガラガラガラガラ』という金属が崩れ落ちる音が広がった。
「どうした!? 何が起こった! って……全て崩れ落ちてるじゃないか!? おいおいどうしたんだよ!? 帝国の技術力はよぉ!」
先ほどまで絶賛していたのに、ガイアの手の平の返し方がすごい。本質的に裏切りやすい体質なのなのだろう。本当に傲慢だ。
ガイアは僕を睨みつける。
「お前か!? 一体なにをしたんだ! この卑怯者が! 無能に飽き足らず、卑怯なこともやり始めるとはな! それでもお前を殺せば問題ないよなぁ?」
「でも一万体のゴーレムはもういないよ」
「いないからなんだよ。お前くらい剣があれば簡単に殺せば問題ないだろ? なぁ?」
ガイアは余裕と言った表情で剣を構える。
「では行くぞ愚弟ぃぃぃいいい!」
僕は自分の力――レアリティ変更士の力が剣聖よりもすごいということを証明にするために、僕は剣を取る。これで僕は本当の意味でザマール公爵家から脱却できる。これからはより真剣にジャポリの人達に向き合えるように。この戦いだけは負けられない。
しかし、
『GUAAAAAAA!』
「「は?」」
僕とガイアは手を止める。
突如、巨大な蛇の化け物が咆哮をあげたから。
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