第39話 人は見かけによらない
「お初にお目にかかります。聖女リュミエール。私、カーバンクル王国第四王女のラティ・カーバンクルと申します。さきほどは失礼な態度お取りしましたこと、心から謝罪申しあげます」
ラティはリュミエールに頭を下げる。ラティはとは友達との関わりが強いせいか、ラティが王女だということを忘れていた。さすが王女だけあって謝罪の仕草とはいえ、とても優雅だ。
「いやいや、ラティさん頭をあげて!? むしろウチの方が迷惑を……なのでここはこれで無かったことに!」
対してリュミエールは両手を軽く合わせてお願いをする。まるで数年来の友達に軽く謝るような仕草だ。だけど不思議と嫌な思いはしない。
「僕も別に構わないけど」
「本当に!? じゃあ、私達はこれから友達。オッケー?」
「私は聖女……リュミエールがそう仰るなら構いませんが……」
ラティは僕の事をチラッと見る。僕がどういう回答をするのか見ているのだろう。
立場はラティの方が上だけど、この地での決定権はジャポリの領主である僕が持っているのだ。
「僕もリュミエールが良いなら構わないですよ」
「本当にやったぁ!」
リュミエールは子供相応の喜び方をする。
「ともかく僕達はリュミエールの事を歓迎します。先程はありがとうございました」
もしもリュミエールがいなければ、ジャポリの街は本格的に教団と敵対しなければならない未来があったかもしれない。
「いいんだよ? それよりもウチの教団が貴方達ジャポリの人達に嫌な気持ちにさせちゃったよね? 本当にごめんなさい」
「リュミエールは何も悪くないよ」
「そう言って貰えると嬉しいかな。私も好き勝手なこと言われていたし。腹が立つよね。本人がいないところで悪口なんて言っちゃってさ? 正直、ムカつく」
リュミエールは口を膨らます。子供っぽいけれど大人っぽくない。そんな大人と子供の中間にいるように見える。僕もラティも同じなのだろうけど、リュミエールは子供の側面も大人の側面も両極端に兼ね備えている感じがする。
「よくみたら、髪のところ浮いてたし。カツラつけてるのもバレバレなのは面白いよね。自分のことも周りのことも見えてなさすぎ。こんなのが教団の名前を使っていたと思うと、私まで恥ずかしくなるわぁ」
「それに関しては、お気の毒としか言えないね」
ラティは苦笑いを浮かべる。自分が知らないところで問題が起きた時の面倒さは僕達には身に覚えがよくあるからだ。
「あ! ラティ王女様! 何卒! 何卒このことはお父様であられる王様にはご内密にしてほしいです! 私達に良い事なんて何一つないから! この通り!」
リュミエールは全力で頭を下げた。
リュミエールのノリは軽い。だけど実際この王国と教団が対立を始めたら、良い事なんて何一つもない。王様は自分の王国の民が傷ついたと知ったら激怒するだろう。それこそ誰も幸せになんてならない。
無意識かもしれないがリュミエールはそう言った意味でも、誰かが不幸になる選択は避けているのかもしれない。
「本当に? 本当の本当に?」
「本当の本当だよ?」
「良かった~! 私信じるからね? 嘘だった泣いちゃうからね?」
『泣いちゃうからね?』という言い方に年上としての威厳は無い。いや、子供だから仕方ないのだけど……どうして僕は大人としてリュミエールを見ようとしているのだろう。
「まぁ? これで私がお姉さんだと分かったことだし、ほんのたまーに敬いの気持ちは持ってもいいからね? あ、聖女としての敬いとかどうでもいいから。あくまで年上のお姉さんとしてバンバン言ってきていいからね?」
「「え?」」
「なにその反応!! 君達14才でしょ!? 今年ジョブ授与の儀を受けたのは分かっているんだからね!? それに比べて私は聖女になって5年が経ってるの!」
「ということは……僕とラティより年上……?」
「そうだよ? 私は今19才なんだから。つまり5才も年が上なの! つまり……私はオ・ト・ナ」
「そんな! 見た目は8才くらいなのに……!」
信じられない。身長といいジャポリの子供と大して変わらない。人は見かけによらないんだな……。
「あー! アーク殿! 禁句ね! それはもう禁句! ダメだからねっ!」
なんかどことなくリュミエールはラティと雰囲気が似ている。身分の差があるのに、気さくであったりとか。見た目は全然違うのに。
「ところで、リュミエール……先程から気になっているんだけど……護衛の姿が見当たらないんだけど、どうしたの?」
「そういえば……」
ラティの言うように、リュミエールの護衛は見当たらない。さすがに聖女ともなればお付きの人とかいると思うけれど。
「え? いないよ? だって私、神殿を飛び出してきたから」
「「は?」」
「あんな窮屈なところなんて居てらんないよ。私だって大人だよ? それなのに過保護に私を閉じ込めちゃってさ」
「それって実質家出じゃ……それじゃあ今頃、神殿は……?」
「知らない。大慌てなんじゃない? でも大慌てだからなに? 私には知ったことないし」
リュミエールは口を膨らませて言う。よほど嫌な思いをしてきたのだろう。
「それなりにお金はもっていたから。それなりに売れそうな物もあったし……どうせなら良い所に行きたいと思うじゃん? そんな時に王都でここの事を知ったんだよね」
「それでジャポリに来てくれたのは嬉しいな」
僕が王様にお願いをして、王都で流したジャポリの動画は少なくともリュミエールには効果があった。効果があったらからジャポリの街に来てくれた。
きっと今のジャポリの街はリュミエールのようにジャポリに興味が持って訪れた人は多いのだろう。やっぱり王様にお願いをしたことはすごく良かったんだと実感した。
「アーク殿? やっぱり私のこと大人のお姉さんとして見てないでしょ」
正直大人のお姉さんとしては見れない。でも僕達が知らないだけで、大人とはそういうものなのかもしれない。
まぁ、大人のお姉さんに見えないなんて事を言ったら、その時点で怒られそうなんだよな……。
「そんなことないよ? でも不機嫌にさせちゃったならお詫びの代わりと言っては変かもしれないけれど、僕がジャポリの街を案内するから」
「本当に!? じゃあ許す!」
意外にさらっと許してもらえた。でもリュミエールがジャポリの街を好きになって貰えるように頑張ろう。僕が好きな街が誰かに好きと言ってくれたなら嬉しいから。
「じゃあ、一旦僕の屋敷に招待するね」
僕とラティはリュミエールを領主の屋敷に招待するのであった。




