第37話 平穏を乱すもの
「このジャポリという街は神を愚弄している」
白を基調に全身いたるところを金に装飾している。金の杖を持ち、髪色までも金。まるで自分を中心に世界が回っていると思っていそうな傲慢な顔をしている。この聖職者の男は地位が高い人物なのだろう。
「この街では温泉を聖水と騙り、神の意に反したアイテムを使って、我らが敬愛する|羊≪たみ≫達を欺き、先導している! これは許されるべきではない蛮行だ!」
「ごめんね。すこし待ってね」
僕はリュミエールに目線を合わせて言った。せっかくジャポリに来てくれたのだから、良い思い出を作ってあげたかったのに。
「一体、何事ですか?」
「なんだ貴様?」
「僕はこの街の領主だけど」
「あー、貴様がアークとやらか……田舎の領主となると暇なのだな」
聖職者の男は僕に悪態をついた。周りの視線が鋭い。それもそうだ。自分達が生まれ過ごしている故郷を馬鹿にされているのだから、無理はない。
「まぁいい。私の名はカンユウ。この不届き者に神のお言葉を届けに来たものだ」
「神のお言葉?」
不届き者と言われたが、別に僕達は悪いことはしていない。
「そうだ。私の言葉は神と同義。故に教団の奇跡の一つである聖水を騙るという蛮行を許されると思うだろうか?」
「それで?」
「まずは我々――教団にも許しを乞い、そして金を差し出すのが本来あるべき姿だと思わないか? そうだなぁ……具体的には魔法石の売上全部を差し出しても足りないくらいだ」
それは神のお言葉ではなく、カンユウ自身の言葉ではないだろうか? ここまで身勝手にジャポリの住民を苦しむであろう事を言うとは許されることではない。かつてのライザ……盗賊と何も変わらない。
「話にならない……見ての通り、僕の街では貴方をもてなすほどの余裕がないんだ……お引き取り願うよ」
「失礼だな……! 教団と戦争でもお望みかな……?」
カンユウは怒りを抑えたような引き攣った笑みを浮かべていた。どうしてこの人が怒りを覚えているのだろう。僕の方だって腹が立っているのに。
「ごめんね。ジャポリの人達が困ることをするなら、僕にとっては神様だろうが悪魔と変わらないと思ってる」
『ぷっ……』
リュミエールの方から小さく吹き出したような笑いが聞こえた。リュミエールは何故か笑いを堪えている様子だった。
「神と悪魔が変わらないぃぃい!? どこまで愚弄してくれるな! ド田舎風情が。いいか? このちっぽけな街。潰すのは簡単なんだぞ? 教団のトップは聖女だが、聖女は馬鹿だから、正義のためと言えば簡単に戦争くらい起こせるんだよ? おい。これがどういう意味が分かるか?」
カンユウはリュミエールとは対象的に、怒りに震えていた。自分が信じる神と悪魔が変わらないと言われたからなのだろう。でも結果として民を不幸にするのならば、僕にとっては悪魔も神様も変わらない。もしも神様がそんな存在ならば、僕の方から願い下げだ。
「ちょっといい?」
「なんだこのガキ」
「いやいや~今日はやけに子供扱いされちゃうな~」
リュミエールは両手を挙げて溜息を吐く。リュミエールはカンユウという男にイライラしているのは間違いない。
「リュミエール? 子供扱いされて怒る気持ちは分かるけど、ここは僕に任せて」
「ダメ。お姉さんに任せて? 悪い事にはならないからさ」
リュミエールの仕草はどこか大人っぽい。子供だと思うんだけど、この時だけ僕よりも年が離れているようにも感じた。だからそのままリュミエールに任せてみようと思ってしまった。
「さて、君が失礼な男だと分かった訳だし……容赦しないから。まずは少し質問するね?」
「私を君呼ばわりとは……やはり神を疎かにする街は……」
「別に君が神様な訳ではないでしょ?」
「はぁ……神みたいなもんだが?」
あくまで『神みたい』と言い切らないあたりにズル賢さを感じる。カンユウがジャポリの街に難癖をつけてきたのは、ひょっとしたらカンユウが単独で行った
「それはさすがに傲慢だと思うよ? 神様もお怒りになっちゃうと思うから、そういうことは言わない方が良いと思うなぁ?」
カンユウはリュミエールの発言を鼻で笑った。まるでリュミエールの方が傲慢だと言わんばかりだ。
リュミエールは僕達の立場で言ってくれている。それが小さい子であっても味方になってくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
だからこんな小さな子にカンユウが手を挙げようものなら、僕は黙っているつもりはない。その時はカンユウに攻撃をしよう。
ジャポリの街のみんなには少し不便な思いをさせてしまうかもしれない。だけど、こんな小さな子に手を挙げて寛容でいられる街になるのは、僕は嫌なのだ。
「ところで聖職者において一番大事な事ってなに?」
リュミエールはカンユウに尋ねる。
「はぁ……神の御心に沿うことだが? 神こそが正義で絶対的な存在。その威厳を保つのが聖職者だ。まぁ田舎者には理解できんか」
「そうなんだ。私は聖職者というのはこの世界が少しでも幸せになるために心から願うものだと思っていたけれど違うのかな?」
リュミエールが真剣な眼差しで言う。リュミエールの『少しでも幸せになるために願う』という言葉はとても良いと思った。世界規模ではないけれど、僕もジャポリの人達が少しでも幸せに過ごしてくれるなら、これ以上に嬉しいことはないから。
「小娘が知ったような口をきくな。異端者だな。私が宣言しよう。お前は異端者だ。間違いない地獄に落ちる」
「私が地獄に? いやいや、行くのは天国だから。というか、そんなことを言って大丈夫? むしろ地獄に堕ちるのは君だよ。後悔しないでね」
「なんで私が後悔を? するわけないだろ馬鹿が」
カンユウはリュミエールの事を鼻で笑う。
「ふーん。じゃあ、はい。これなーんだ?」
リュミエールは胸元から金のチェーンで繋がれた青と白の線のネックレスを取り出した。
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