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第28話 悪魔侯爵バフォメット

「矮小な人間よ。我を呼び、何を願う」


「成功……成功だぁ!! バフォメット! あの街を消し! 住民を根絶やしにしろっ!!」


「いいだろう……だが」


 バフォメットはキーチクの頭に手をかざすと、


「前払いとして……お前の魂の一部を貰っていくとしよう」


キーチクの太った身体はみるみるうちに痩せこけていった。


「ぐわぁぁあああ! どうして!? あれ? わ、私の身体が!?」


「召喚者の生命力が1番美味いからに決まっているからだろう。そんなことを知らずに召喚した訳じゃあるまい?」


 苦しいと呻き続けるキーチクを気にとめることもなく、バフォメットは舌をなめずる。


「うん。うまい」


 人の形をしているが、人とは完全に異質な存在。少なくとも人間を捕食者だと認識をしているのは間違いない。こんな存在、許しちゃいけない。


「それでは、召喚主の願いを叶えてやろう」


「ダメ!! ユリナ!! 今すぐ逃げて!!」


 ユリナの姉のハルカが叫ぶ。


 それと同時にバフォメットは球状の魔法攻撃をしてきた。攻撃のレアリティを変更しようにも距離が遠くて間に合わない。僕はとっさ近くに落ちていた木の板を拾ってレアリティを変更した。


【そこそこの木の板(N)】→【そこそこの木の板(SSS)】


 僕はそこにガード性能の効果を一緒に追加した。これでなんとかみんなを護るしかない。ユリナも含めて皆で生きなきゃいけないんだ!



「大丈夫! 僕が守ってみせる!」


 僕は【そこそこの木の板(SSS)】をみんなの盾になるように掲げる。しかし、


「しまった!!」


 攻撃自体を弾くことができたが、バフォメットの攻撃は城壁に向かい激突した。


 ズドォォオオン!


 という凄まじい音と共に、砂埃の余波が爆風となって僕達の背後から吹き荒れた。


「なんてことだ……僕らの城壁が……」


 僕は爆風が止んで攻撃のした方を見る。


「みたか!! これがかつて1体で文明を滅ぼした悪魔の力だ!! お前ら虫ケラが束になったって勝てはしな……い? は??」


 まさか……SSSレアにレアリティを変更した城壁が……


「攻撃で少し窪んでしまったなんて……!」


「少し待て。どうして消し飛んでいないのだ?? ……なるほど、悪魔に対して特殊な対策をしていたという訳か。でなければありえん」


「いや、してないけど」


「ば、ばかな!! 千年前はこの程度の都市など一撃で消し炭にしたのだぞ!?」


 バフォメットは明らかに動揺しているが、取り繕ったように、


「まぁ、いい。所詮は人間。土壁は壊せなかったが、お前らの肉体はどうかな??」


 僕は嫌な予感がした。かつて飲んだドーピングでステータスが上がってから、危険予知に関する勘が鋭くなった。


「みんな! 下がって!」


 僕は【ただの木の枝(SSS)】構えて、バフォメットに飛び掛かる。


「貴様……こんな木の枝で我に攻撃が通ると……なんだこの威力!! ふざけているのか!」


「ふざけてない。僕は真面目だよ」


 絶対に負けられないのだ。


 初級風魔法(SSS)を連続で使い、風で自分の足場を作り空中を駆け巡る。攻撃を受けて、返し、受け流しの攻防が巡りめく交差する。心の底から剣術を頑張っていて良かった。そうじゃなければ、戦えていなかったと思う。


「なるほど面白い……もっと戦いを楽しもうではないか!」


 僕はより一層の気合いを入れないとダメだと感じた。でも生憎、覚えてきた剣術スキルの数なら自信がある。


「お願い勝って! 私はどうなってもいいから!!」


 ハルカは僕に祈り、声をあげていた。その無垢な祈りが痛いくらいに伝わった。この姉妹のためにも、絶対に負けたくないと思った。


「てめぇ!! 何勝手に喋ってやがんだよ!!」


「うっ!!」


 キーチクはハルカのお腹を蹴飛ばす。鳩尾に入ったのか、ハルカは上手く息を吸えず呻いている。


「ただでさえ! 気分が悪いのによぉ!! ふざけやがってよ!」


「そこまでよ」


「あ!? ぐぁぁああああっ!」


 ラティがキーチクに氷塊を当てる。


 キーチクは体重を失ったせいか勢いを殺せず大きく吹き飛ばされた。


「ごめん……ユリナ。私の残ってる魔力じゃこれが限界。あとは任せたよ」


「うん。絶対負けない。お姉ちゃんのためにも」


「てめぇぇぇぇえええ! やりがやがったなぁ! 生命力を吸われてガリガリじゃなければこんな攻撃なんてきかねぇのによぉ! クソが!」


 キーチクが吠えている。


 ラティは臆せずキーチクを真っ直ぐに見返していた。さっきまでのオドオドした面影はない。


「ハルカお姉ちゃんを……返して」


 うん。きっとユリナなら大丈夫。だから僕は自分の戦いに集中しなきゃ。


 こうしてユリナの戦いは始まった。

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