第26話 終わらない脅威
「あ、領主様〜。お屋敷の方に行こうと思ってたんです〜。今って大丈夫ですか〜??」
ジャポリの街に帰還し、僕達の屋敷に向かっている最中のこと。ギルド長のフワリさんが僕に話しかけてきた。
「フワリさん?? 大丈夫ですけど……何かありました?」
ゆるい声に変わりはないのだけど、紫色のふんわりとした長い髪が普段より乱れているように見える。それだけで切羽詰まっているのが分かった。
「実は今でして〜ジャポリの街に大きな危機が迫っていまして〜」
「大きな危機ですか……? それは一体なんですか……?」
ジャポリの街に大きな危機が近づいていると聞いて身構える。
「実は紅魔晶という危ないアイテムがこの周辺に見つかりまして〜。それに伴ってジャポリの街周辺のモンスターの様子もおかしいのです〜。このアイテム~モンスターを操れられちゃうらしいんですよ〜」
「モンスターを操る?」
あ、これってもしかして。
「これは緊急の案件で〜。最悪の場合、ジャポリ以外の都市にも大きな影響がありますので〜。ギルドからの依頼ということで〜。具体的な金額は決まってないのでお話できませんが~結構な金額のお金をご用意できるはずです〜。解決のために〜お力をお借りしたいのです〜」
「えっと、それは解決しましたよ?」
「えぇ……ご冗談ですよね〜??」
僕は事の顛末を話した。紅魔晶が精神に干渉することを知っている上で、ディスペルで解除できることと、一応普通にも倒せるということも。
「私も一緒にいましたので、大方間違っていないですぞ。アーク様とラティ様の共同作業で放たれた光は神々しいものでしたぞ!」
「他にも見られた方がいたなら大丈夫ですかね〜。きっと自分達の住処に戻ったんでしょう~。とはいえ私も~精神操作が解けたモンスター達がどうなるか分からないんですけどね~」
さっきもユリナも言っていたけれどモンスター達は自分の住処に戻ったのかな。
たしかに、ここにいる意味がないのなら、自分達の元いた場所に戻りたいと思うのはモンスターも同じなのだろう。帰巣本能っていうし。
「それにしても〜……さすがアーク様ですね~。ご活躍を目の前で見れなかったのが残念です~よよよ~」
フワリさんは手で目尻を拭くような仕草を見せる。声のテンポと話し方が独特なせいか、この人のペースに飲まれちゃいそうになるんだよな。
「いやいや、今回は僕だけではなくて……ラティの活躍がほとんどですので」
「アーク君……好き。もう結婚するしか――」
ドォン!!
突然の爆発音に僕達は驚いた。
爆発音は僕達の後方……ジャポリの門の入り口のあたりからだ。
「ま、まだ精神操作を受けているモンスターがいたんですか!? そ、そんな……!」
ユリナは驚いた表情と共に身体を震わせていた。
「とにかく急ごう!!」
「は、はい……! ひとまず向かいましょう」
ユリナは僕の声に正気を取り戻し、僕とユリナ、そしてラティの三人はジャポリの入り口前の門に駆け出すが……、
「どうして!? いま最高に求婚タイミングだったじゃん! ほっんと許せないんだからぁぁああああ!」
ラティの怒号がさきほどの爆発音よりも響く。ラティ……今は最高の求婚タイミングではないと思うよ。いくらなんでも僕だって分かる。
僕達が門の近くに辿り着くと、モンスターに跨っている太った男が叫んでいた。
「みたか!! これがA級危険度のモンスター、イービルワイバーンの威力だ!!」
城壁から砂埃が舞っている。どうやら城壁が攻撃されているのは一目瞭然だった。
「今のは小手調べだ!! その前にここの領主であるアークとかいう小僧を出すのだ!!」
「僕がアークだけど」
「ヒヒッ……我が弟であるライザの仇、アーク。私はお前を殺したくて堪らなかったのだよ……!」
「ライザだって!?」
「私は闇商人のキーチク。お前が殺したライザの兄だ。この時を待ち侘びたぞ!」
モンスターに跨っている太った男――キーチクは僕を見て、大きく笑みを浮かべていた。




