第22話 忍び寄る影
「どうしてラティがいるの??」
その問いにラティは僕を見て笑って答える。
「いやー! 久しぶりの冒険かぁ! 腕が鳴るね!!」
「いや、ラティさ。助かるけど……。冒険じゃなくて調査だよ?? しかも危ないから王様も許してくれないだろうし」
「ん?? パパなら二つ返事でオッケー出してくれたよ?? アーク君の名前を出したら『おう!じゃあ問題ないな!』って。それに何かあってもアーク君が助けてくれるでしょ?」
「それはもちろん助けるけど……」
ラティが困っているなら助けるのは当たり前だ。それが危険な状況なら僕は必ず助ける。
とはいえ、ラティが困る状況に置かれる可能性が僕にとっては嫌で、大好きだからこその心配なのだ。あと王様なら普通にオッケーを出しそうなんだよな。もう仕方ないのかもしれない。
「そんな眉を八の字にしないでよ」
「え?」
僕はそんな表情をしていたのだろうか。
「それに私だって助けられてばかりじゃないから。アーク君の役に立てるから。これでもアーク君ほどじゃないけど、魔法はそこそこ使えるんだよ? まぁ、仮にダメって言われても付いていくけどね」
可愛らしくウインクをする。
ラティはこの一か月の間、魔法の練習をずっとこなしていた。たしかに前よりも頼りになる存在になった。
なったかもしれないけど……。
「わ、私もお役に立てるように頑張りますっ……!」
「ゆ、ユリナも行くの?」
襟足がぴょこぴょこ跳ねながら、左右の手で握り拳を作っていた。明らかにやる気に満ち溢れているポーズをしていたせいか、落差が激しくみえる。僕の咄嗟にでてしまった質問が原因なのは明らかだった。
「だ、ダメですかね……?」
ユリナは僕の問いに涙目で尋ねる。明らかにショックを受けている表情に僕の良心が痛んだ。断れる雰囲気ではなさそうだ。
「ダメじゃないよ……?」
「あ、ありがとうございます……!」
ユリナは嬉しそうに笑った。
本音を言えば、ラティもユリナもとても大切な仲間だ。だから無茶はしてほしくない。それとは反対に二人の意思を尊重してあげたいとも思う。
何があっても僕が必ず三人のことを護ってみせると心の中で決意を固め、僕は三人に向けて頷いた。異常な事態だけれど油断せずに行こう。僕は誰一人として悲しい感情を抱いてほしくなんかない。
「アーク君?? ユリナだってこの一か月、頑張って強くなったんだから、私達のこと少しは信頼してよ」
「……そうだね」
ユリナが陰でものすごく努力していたのは知っている。僕が深夜までジャポリの領地経営に関する業務をしている中、ほぼ毎日練習している姿を見ているからだ。
でも心配なものは心配なのだ。ユリナもジャポリの地に欠かせない領民なのだから。
「わ、わたくしめのためにここまで豪華な人選を!!? このネクソン!! 感動でございます!! 不詳!! このわたくしめが先陣を切らせて頂きますぞ!!」
「嬉しいですけど僕からあんまり離れないでくださいね!?」
結果的にはネクソンさんの士気が高まった結果となった。ここまでやる気だと僕も頑張らないと。
「それにしても……」
紅魔晶。
他人の精神を操るなんて危ない代物を野放しになんてさせられない。僕は不穏な空気を感じずにはいられなかった。
〜〜〜〜〜〜〜
「お前……いくらの損失を出したか分かっているのか??」
闇商人は闇商会の一室。とある報告に来た部下の男を睨みつけている。
「も、申し訳ございません!」
「お前が何をしたのか言ってみろ」
「紅魔晶の作成に失敗しました……」
紅魔晶は精神操作などの禁忌とされている闇魔法の媒介となるアイテムだ。魔界でしか採取することができない。
とされているのが一般的な話だ。
数年前、とある悪魔が教えてくれた。人工的に紅魔晶を生成する方法。
「私には無理です! いくら奴隷でも拷問で苦痛を与えて……この世に絶望しているところを殺すなんて……私にはできないです!」
「はぁ……だから10人も無駄に殺したのか?」
「申し訳ありません……」
「お前、クビな」
「そ、そんな……いえ、そうですよね。今までありがとうございました」
部下の男の首は長剣で斬り飛ばされた。比喩ではなく物理的に首が飛んだ。
「君はもう用済みなんだよ……それにこんな秘密を知っているやつ……生かしている訳ないだろ?」
「そ、そんな……!」
元部下だった男は絶望しながら死体になってしまった。
「しかし良い切れ味だな。この剣は」
闇商人は長剣を一振りし、血を払い鞘に納める。
数秒後、かつて部下だった男は|死体≪モノ≫に成り果てた。憤怒と絶望に歪んだ顔と部屋中に満ちる鉄の匂いに闇商人は溜息をついて、苛立ちながら叫ぶ。
「おい! 3号!! この部屋を掃除しろ!!」
「……かしこまりました」
3号と呼ばれ、部屋に入ってきたのは薄汚れたメイドの服を着た銀髪の少女だった。
「ささっとしろ!! ぐずの奴隷がよぉ!!」
「も、申し訳、ございません……!」
蹴り飛ばされた長い|銀髪≪・・≫の少女は鳩尾を抑えてうずくまる。肋骨にもヒビが入ったせいか、銀髪の少女は呼吸をするたびに苦しそうに喘いでいた。
「まぁ、喜べ。そのうちにお前にとって幸せのことが起こるからなぁ!! それまでの間、わたしの機嫌を損ねるな!! ぐずが!!」
「は、はい……!」
「わたしが戻るまでに部屋の掃除を終わらせておけよ!! わかったな!! まぁ……その内、お前は紅魔晶の素材にしてやるからよぉ!」
3号と呼ばれた銀髪の少女は両断された死体に触れる。血の温もりと滑り気に少しだけ嫌悪感を覚えるも感情を殺して片付け始また。そして両手を血で汚した銀髪の少女は願う。
「……神様。どうかユリナだけは幸せに過ごせていますように……」
彼女の首輪には紅魔晶が赤く光っていた。
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