第17話 アークの習慣
正式にジャポリの領主となった翌日の朝。僕は鍛錬場に来ていた。
陽が登りかけているせいか、少しオレンジ色が垣間見えている。早朝と呼ぶには少し早い気もする。
まだまだ忙しい状況だけど、少しでも良いから剣を振りたい。
僕はあえてレアリティを変更していない【鉄の剣(N)】の柄を持って、剣を振り始める。未だ肌寒い空でちゃんと身体を動かすために着込んだ上着が鬱陶しい。
それに加えてSSSレアに変更する前と比べるとNレアの武器は重心が偏って使いづらい。
だけどレアリティ変更士に頼れなくなった時の保険として、技を磨いても損はしないはずだ。
僕は使用可能な初級剣術スキルを無心で繰り出す。何度も何度も。
「アーク君、今日も朝早いね?」
「あ、ラティ。おはよう」
ラティは眠たげに目を擦っている。ラティの声で時間を忘れていたことに気づいた。
僕は初級の剣術しかできないけれど、ザマール公爵家にいた頃から、剣を振ることは毎朝の日課だった。そのせいか剣を振ると少しだけ心に余裕が生まれる気がしている。
「アーク君はどうして特訓しているの?」
「どうしてって?」
「アーク君って、自分のジョブの力で簡単に強くなれるじゃん?? それなのに辛い思いなんかする必要なくない??」
ラティが言いたいことは分かる。別に辛い思いをしている訳ではないが、見方を変えれば無駄な努力をしているようにも見えるのだろう。でも僕はそうではないと思う。
「レアリティを変更すれば確かに強いし、簡単に強くなるためには新しいスキルを覚えた方がいいかもしれない。だけど」
「だけど??」
「楽をしたら技を使う時に自信が失くなっちゃうような気がするんだよね」
レアリティ変更士はすごいジョブだ。だからこそ、そこに甘えたくない。本当に護りたいと思った瞬間に迷いが生まれないように。それで後悔をしないように。
「そっか……やっぱりアーク君は頑張り屋さんだね」
「――」
ラティは微笑むけれど、僕はラティに返す言葉が見つからず、思考が宙を彷徨ってしまった。
僕は頑張れているのだろうか? 頑張れる余地はまだまだあるのではないか? 本当に僕で良いのだろうか? そんな漠然とした不安が降り注いだから。
「ねぇ、アーク君。特訓をしているところ見てても良い?」
「大丈夫だけど……面白くないよ?」
「いいの。私が見ていたいの」
「そっか」
僕は剣を持つ手に力を込める。チラッとラティを見ると腕を擦っていた。早朝は一番冷え込む。動かないならなおの事寒いだろう。
僕は羽織っていた上着を脱いでラティの肩にかけた。風邪を引いたら大変だから。
「本当に大丈夫だから! 私のことは気にしないで!! ……ただ、そばで見ていたいだけなの」
「そ、そう? でも飽きたら、戻って大丈夫だからね」
「ありがと」
僕はラティの視線を気にしながらも、練習を再開する。最初は気になっていた視線も、練習に熱が入り始めると気にならなくなった。
僕が練習している間、ラティは僕のことをずっと見ていた。ただ一言も話すことなく。
練習もひと段落して、僕は一呼吸入れるために、肩の力を抜くとラティがぼそりと呟いた。
「そういうところなんだよ。私が好きなの」
「え? どこが好きなの?」
「え!? に、匂いかな!? アーク君ってすごく良い匂いするよね!?」
ラティは僕の上着に顔を埋めては、息を深く吸っている。
「ちょっと何言ってんの!? 普通に恥ずかしいんだけど!?」
僕とラティが再び目が合うといつもように笑い合った。幼馴染みとして無邪気に遊んでいた幼き日のように。
気がついたら太陽は僕達を照らしていた。
そうして今日も慌ただしい一日が始まる。
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