第15話 王様の褒美
「えっ!? ジャポリの領土を僕に与えるって……ど、どうしてですか?」
なにか特別な功績をあげないと領土なんて貰えない。分かりやすいのは戦争。相当な貢献をしなければ貴族の身分を獲得できない。貴族になって初めて王様から領土を渡されるのだ。
嬉しいけれど、今の段階では身に有り余る褒美だ。
「もちろん。モンスターウェーブと魔法石の件だけでは与えられないだろう。しかし今回は特例なのだ」
「特例ですか……?」
「あぁ、報告を受けているぞ。我が娘――ラティの命の危機を救っただけでなく、あの危険なワイバーンも一振りで倒したというではないか。ラティと王女を守護する騎士団長が報告してくれたのだ。嘘ではないことは証明されている。それだけで少なくとも『騎士』の地位を授けることができる」
騎士といえば貴族階級だ。家系が貴族としての地位を持っていることと個人で貴族の称号を持っていることは重みが違う。
「それに加えて、先に述べた魔法石を大量に採掘できること、そしてモンスターウェーブを止めたことの功績が重なった結果だ。不服か?」
「いえ! そんなことはございません!!」
王様は僕をジッと観察するように見つめる。たしかに今の対応は良くなかったかもしれない。
僕は再び頭を垂れると、
「………ぷっ! はーはっはっはっは!!」
王様は大きく笑った。僕は何が起きているのか分からず、放心してしまった。王様はひとしきり笑い終えると、
「いやー、すまん! 無理だ。もう普通にしよう! アー坊!! 久しぶりだな!! 元気にしていたか?」
目尻を手で拭きながら、僕に声をかける。
「はい……! なんとか元気にやってます……!」
「いやー、愚問だったな。むしろ元気すぎたからこんなすげぇ実績を叩き出しんてんだもんな」
王様の口調は乱雑なものに変わった。いや、これが王様――ラティのお父さんのいつもの姿なのだ。
「ところで……本当に大丈夫なんですか……? 勝手に土地を僕に渡して……」
僕の元実家であるザマール家のことだ。はいどうぞ。と言って土地を渡すとは思えない。つまり王様が勝手に決めた可能性がある。
「あ? 気にすんなって! むしろ俺の民を苦しめてた上に管理もしなかったんだろ?? むしろ、罰則もんだ。貴族としては許しちゃいけねーよ」
たしかにジャポリの街の現状を見たら、許されるものではないと僕も思う。
それにジャポリであれば僕が死んでもおかしくないと言ってドネイクお父様は僕を追放したのだ。言い換えるとジャポリの人達も死んでも構わないと考えている。それに関して言えば、僕は憤りを感じている。その気持ちは王様も同じなのだろう。
「それにアー坊なら良い領主になれるって確信をしている。昔から誰よりも他人を思いやれる努力家だったもんな。そうだよなぁ? ラティ?」
「そうね。でもパパだってアーク君のこと気に入ってるでしょ??」
「そりゃあその通りだけど、そういうのは本人のいないところで言うのが良い女の嗜みってやつだぜ?」
「え!? 私は元から良い女だけど!? だってパパの子だし!」
「はっはっは! ラティも言うようになったじゃないか!! やっぱりアー坊に付いていかせて良かった!! さすが俺だな!!」
王様は嬉しそうに笑っている。やっぱり娘の成長は嬉しいのだろうか? いつか僕も王様みたいに思える日が来ればといいなと少しだけ思った。そのためにはまずはジャポリのことをしっかりやろう。
「まぁ。そういうことだから、よろしく頼むぜ?」
「は、はい……! ご期待に応えられるように頑張ります!」
僕を真っ直ぐに見つめる王様はどこかニヤニヤしている。なにか面白そうなことを見つけている。
「あぁ、期待と言えば、ウチのラティもよろしくな? ラティは昔からアー坊と結婚するって言いまくってたからな。ラティもそっちの方が幸せだし……アー坊なら安泰か」
「え? あ、はい……頑張ります?」
「もう……パパったら。じゃあ早速、婚姻届けを書かないと」
ラティは頬に両手を当て照れるような仕草をしつつ恐ろしいことを言う。今の状態で婚姻なんてできない。僕はまだ半人前なのだ。
「はっはっは! 我が娘よ。もう少しに大人にならないと出せないぞ! 俺は歓迎だけどな!」
「法改正してよぉ……」
僕は歓迎してくれている(?)から良いけれど。僕は王様に目の敵にされなくて本当に良かった。
「はーっはっはっはっ! 我が娘は積極的だな! だが我が娘だけ特別という訳にはいかない。あと数年は我慢しろってな!」
と笑っていると王の間の扉がドンドンと叩かれる。王様が瞬時に真顔になり「入れ」と一言ピシャリと放つ。
「失礼致します。ザマール家当主。ドネイクが参上仕りました。謁見奉られる栄光に感謝致します。一体、何用でございますでしょうか?」
そして何も知らない元父親ーードネイクが姿を現した。