第14話 魔法石の取引
「おお!! お久しぶりですアーク様!」
応接間の扉の先にいたのは、僕達ジャポリの街に届けくれた馬乗りの人であった。
「え!? あなたは!? 馬乗りの人!?」
まさか定期的に訪れる商人って、この人だったのか。
「そうです! このジャポリの地にアーク様をお送りさせて頂いた馬乗りのネクソンでございます! そういえば名乗っていませんでしたな! 以後、お見知りおきを!」
「あ、あの時はありがとうございます……!」
「いえ! お礼を言いたいのは私の方でございます! あの時、モンスターをバッサバッサと倒して頂いたどころか、馬車を良くして頂いたおかげで移動速度は三倍! 売上も三倍! なんなら利益も三倍! 馬車を素晴らしいものにして頂きありがとうございました!」
ネクソンさんは嬉しそうに言う。ここまで喜ばれると正直、僕も嬉しい。
結果として、
「不肖、ネクソン! この生涯をかけてアーク様についていきますよ!!」
ネクソンさんは僕の足に頬を擦る。そこまでされるのはさすがに予想の斜め上を超えていた。ついて来てくれるのは嬉しいんだけどね。それにしても前と感じが違うのは気のせいだろうか。
「いえ、嬉しいですが、そこまでしなくても……」
「そう言わずに!」
「し、失礼致します……こちらお茶をお持ちしま……ひぃっ!!」
そしてタイミング悪くメイド服姿のユリナが銀色の髪をブルブルと震わせていた。
「あ、ユリナさんありがとうございます」
「す、すいません……驚いてしまいました……」
ユリナはお茶のカップを机に置きながら涙目になっていた。偉い、偉いよユリナ……驚いてもカップを落とさないなんて。
「ユリナ様と仰るのですね!! いやー! アーク様のおそばにおられる方は皆美しい方だらけですな!!」
「え、えと……ありがとうございます……?」
ユリナは涙目のまま困惑をしていた。そろそろ助け船を出してあげよう。
「ネクソンさん……早速ですが魔法石をお渡ししても大丈夫ですか?」
「もちろんでございます!! それでは早速拝見させて頂くために移動致しますか!!」
「いえ、もう用意してますよ?」
僕は【ただの麻袋(SSS)】をネクソンさんに渡した。
「この中に少なくとも馬車1台分くらいの魔法石が入ってます」
「ご冗談ですよね……?」
「確認しますか?」
「はい……お取引する量を確認するのも商人の基本ですから……」
ネクソンさんは困惑をしつつ苦笑いを浮かべている。僕の言うことに疑っているのだ。でも今ここで事実である事を証明したら問題はないだろう。
「ではここで取り出して下さい。麻袋に手を入れて下に引っ張れば出てきますから」
「分かりました。こうですかね……? うわっ!」
ネクソンさんは麻袋から魔法石を取り出す。麻袋の面積の数倍の質量を持つ魔法石にネクソンさんは驚きを隠しきれていなかった。
「本当にそんなことが……しかも魔法石の質も良い……これは世界が変わりますよ……!
?」
「この麻袋はここだけの秘密にして下さい」
「承知致しました……しかしそんな貴重なものを私に渡していいのですか? 裏切るかもしれませんよ?」
「その時は僕の見る目が無かっただけです。少なくとも今のネクソンさんなら信頼できるかなって思っているんですけどね」
「これは……参りましたね」
ネクソンさんは困ったように笑い、両手を上げる。もしもネクソンさんが悪い人だったら、商談は上手くいってなかっただろう。
「決まりでいいですかね……?」
「もちろんでございます。それでは契約書を書きましょう。今回はエドワードさんに作成を依頼しているので、アーク様は安心してください」
「わ、分かりました」
「アーク様、ネクソン様。こちらが契約書でございます」
エドワードさんが渡してくれ契約書にサインをしていると、短いドアを叩く音がした後、扉が開かれた。そこにはラティがいた。
「あ、ごめんなさい! まだ商人の方っている??」
ネクソンさんは手を止め、ラティの方に跪く。
「あ、第四王女様。謁見できて恐悦至極に」
「そういう堅苦しいの苦手だから気にしないで! それよりも王都に行くんだよね?? そしたら王城に行ってくれる?? 魔法石と一緒にこの手紙も渡してくれたらスムーズに行くから」
ラティは呆気に取られているネクソンさんに一枚の手紙を渡す。そこには獅子のマークが象られた印が付けられていた。
「え? 王城でございますか? 良いんですかね? 私みたいなものが行っても」
「大丈夫だって! 王城って私の家みたいなもんだから気にしないでいいから! それに貴方にとっても良いことだと思うよ?」
「は、はぁ……第四王女様の頼みなので断れませんが、承知致しました」
「じゃあ気をつけてね〜」
ラティは笑顔でネクソンさんに手を振るのだった。
「ラティは何の手紙を渡したの??」
「ん? アーク君にとって良い手紙だよ?」
ニコッとラティに僕はこれ以上聞けなかった。でも悪いことをしているような感じではないから、別に良いとさえ思う。
「多分、すぐ分かると思うよ」
*********
そうして一週間が経過した後、僕は王城の中で王様に謁見することになっていた。
僕は王の間でラティの父……もとい、王様の前でお辞儀をしていた。王様の横で座るラティは満足そうに腕を組んでいる。
「面を上げよ」
厳かな声とこの場を支配する圧倒的な存在感はこの国の王であると、嫌でも自覚する。
「はっ!」
「アーク。此度の働き実に見事であった。ジャポリ近辺のモンスターウェーブを止めただけでなく、貴重な資源である魔法石の大量採取の目処まで立たせるとは……この国の王として大変喜ばしい」
「と、とんでもございません……! 運が良かっただけで……」
僕としてはジャポリの民のために頑張っただけだ。魔法石は本当にたまたま見つかったにすぎない。
「謙遜も時には良くないぞ。結果が全てなのだ。その働きを称えて、褒美を与える。アークには子爵の地位、そして――」
王様は僕を見てニヤリと笑いながら言う。
「現ジャポリの領土を与える」
僕にとって、大きなチャンスになるような気がした。