第10話 モンスターウェーブ
「ご主人様?」
ユリナは僕のことを真っ直ぐ見つめていた。エメラルドのような緑がかった瞳はすごく綺麗だと思う。でも僕はご主人様と言われるほどのことは何もしていないし、そんな身分でもない。でも明らかにユリナは僕のことを見つめている。
「えっと……僕のこと?」
「え……? ち、違うんですか?」
「僕はご主人様じゃないよ?」
手続きの問題で屋敷には入れてもらっているけれど、僕は客人だ。まずはどこか泊まれるところを確保しなければならない。その後は住む場所を確保しなければならない。
「いや、間違っておりません。アーク様」
エドワードさんが口を挟む。
「本来は便宜上ではありますが、現領主が空席である今、ザマール家の嫡男たるアーク様が領主の立ち位置にいても何も問題はありません。本家の方々は想定してないと思われますが」
「そうですね。僕は剣聖のジョブではないから追放されたので」
「存じております。それは王国騎士のエリザ様から伺っております。しかしながら、先程ギルドでお話ししていた民を思う姿勢……まさに領主の器だと思っています」
「聞いていたんですか……?」
「申し訳ありません。私は少しばかり他人よりも耳が良く聞こえてしまうものでして」
「そ、そうですか」
エドワードさんは一体どこから聞こえていたのだろう。少し恐ろしくも思うが、エドワードさんはこれ以上、僕に追求するつもりはないらしい。エドワードさんが望むような結果にはならないかもしれないけれど期待には応えたい。それに僕には【レアリティ変更士】があるのだから。
「アーク様、単刀直入に申し上げます。このジャポリの領主になって頂けないでしょうか」
「僕でよければ……必ずジャポリの民を幸せにすると誓います」
「ありがとうございます……! アーク様さえいらっしゃればジャポリはかつての安息を取り戻すでしょう。新たな領主の誕生! お祝い申し上げます!」
エドワードさんは嬉しそうに笑顔を見せつつ、ほっとした顔をしていた。エドワードさんがいなければジャポリはもっと大変なことになっていたのだろう。だからエドワードさんは報われるべき存在なのだ。
「本当に良かったです。とはいえ断られてもラティ様とそのご友人がいらっしゃるのであれば、無礼を働くことはできませんが」
「ゆくゆくは夫婦だけどね」
ラティは腕を組みドヤ顔で頷く。
そう言って貰えると嬉しいけど、僕の力不足は否めない。仮にラティのお父さん……現国王陛下に伝わってしまったら、怒られるだけじゃ済まされないだろう。ラティに恥をかかせないように頑張ろう。
「それにしてもユリナさんの服、似合ってますね」
僕はモジモジして落ち着かないユリナに声をかける。
「え!? は、はい……ありがとうございますっ……! そ、それにこんなに綺麗で可愛い服を着させて頂けるなんて……これからご主人様のためにが、頑張りますっ……!」
ユリナは目尻に涙を浮かべていた。根が良い子なのだろう。領主になる以上、この子のために頑張りたい。そう思えるほどに。
「私もメイド服借りても良い??」
「え? どうして??」
「だってメイドが好きなんでしょ?」
「そんなこと言ってないよ!?」
「だって目つきが……言ってくれたら私がいくらでも着てあげるのに……」
ラティは口を膨らませている。明らかに不機嫌なのは分かる。ラティ……さすがに王女の地位にいる人にメイド服……一応は下女の服を着て欲しいなんて、僕は言えないよ……。
ラティはお願いしたら本当に着てくれそうだから、軽はずみなことは言えない。本音を言えば、ちょっと見たいけれど。
「と、とにかくこれから宜しくね! ユリナさん!」
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
ユリナは腰が折れそうなほど深くお辞儀する。これから頑張ろうと思った矢先、ドタドタと慌しい足音が聞こえる。
「エドワードさん!! 大変です! モンスターウェーブが発生しました!!」
部屋に入ってきた男の住人の報告にエドワードさんは深い溜息をつき、
「はぁ……またですか」
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モンスターウェーブとは。
年に数回ではあるが特定のモンスターが群集となり移動する現象である。
全世界で発生しているが、比較的開拓されている地域ではモンスターウェーブが起きてもモンスター自体が少ないから大した脅威ではない。ある程度の対策ができているからモンスターウェーブの頻度も少ない。
しかしこの極東の地であるジャポリは開拓なんてされていない。つまり
「今回もビックアントですか。今年で四回目ではありませんか」
エドワードさんが頭を抱えて呟く。
僕とラティ、そしてエドワードさんの三人は城壁の上にいた。城壁から見下ろすと巨大な蟻の大群が有象無象に蠢いている。
単体でみれば、ビックアントはCランクのモンスターだ。それが大量の数になるとその脅威は計り知れない。
「エドワード様。自警団団長スカーレット・シスコが参上奉りました」
スカーレットは長い赤髪をした騎士のような格好をしている女性だった。
凛々しい顔立ちをしているが、対照的に魔法銃と呼ばれる大きい銃を担いでいるのが異色に感じた。
「あ、あの初めまして。アークと申します。宜しくお願い致します!」
「あぁ……あなたが新しい領主の……」
スカーレットさんは僕を冷ややかな目で見ている。きっと領主という言葉に良い感情を抱いていないのだろう。
「失礼ですが、我々自警団は最近結成されたため領地とは独立した団体です。なので好き勝手言わせて頂きますが……ここは子供が来ては良い場所ではありません。こちらは私に任せて、安全なところにお逃げ下さい」
「スカーレット。もう取り繕わなくて大丈夫です。アーク様があの憎きライザを討伐しましたから」
「はぁ…… 今は冗談を言っている場合ではありませんよ。それにライザを倒すのは我々自警団です」
スカーレットさんはエドワードさんの言葉を信じていないせいか深い溜息を吐いた。
「お言葉を慎みなさいスカーレット。申し訳ありませんアーク様……まだこの者は理解してないのです」
「大丈夫です。気にしていませんし……僕はこの街に来たばかりですから」
エドワードさんは申し訳なさそうに頭を下げる。それにしても数が多い。何匹いるんだろ?
「アーク君。あそこにいるビックアント、五百匹くらいいるよ」
「あ、そうなんだ。ありがとラティ」
ラティは僕にこっそりと耳打ちをする。おそらく【慧眼】のスキルを使ったのだろう。
きっとこの数なら遠距離の魔法が有効だと思うけれど。【レアリティ変更士】の恩恵を受けた魔力で魔法を放ったらどうなるんだろうか?
「あのエドワードさん。少しだけ試してみたいことがあるんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですが? なにをなさるおつもりで?」
「ちょっと魔法を使ってみようかなと」
「魔法ですか?」
「ちょっと見ていてください。では【ファイアーボール】」
僕はビックアントの群れに初級魔法スキルである【ファイアーボール】を唱える。すると僕の目の前に青いウインドウが表示された。
【ファイアーボール(N)】→【ファイアーボール(SSS)】
僕の指先に巨大な炎の塊が球状に生成される。これをビックアントの群れに叩きつけた。
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