或る雨の記憶【White】
この場所が最近のお気に入りなんです。
特に雨の日なんかは、用がなくても座りにきます。
見てください、この視界いっぱいに広がる窓。
ここから見渡す雨空は、酷ければ酷いほど迫力満点なんですよ。
いえ、別に雨が好きな訳じゃないです。
そりゃあ誰だって、ずぶ濡れになるのは嫌でしょう?
安全な場所にいるから、惨事も絵になるんです。
猛獣だって革命だって、自分に被害がないからこそ格好良いものだと思うんですよ、きっと。
そういえば貴方が出た学校も、こんな風に窓が壁になっていましたね。
ええ。資料で見たことがあります。
いえいえ、取り寄せただけで、受けようだなんて思ったことはないですよ。
受けたところで落とされるのは目に見えてるし、まだ実家を出る勇気もなかったし。
それに、この道を進もうと決意したのも高二の秋です。
ええ。かなり遅いみたいですね。皆に言われます。あまり周りのことは見てなかったので、普通がどうなのかは分からないですけど。
でも芸大に入れたのはラッキーですよ。
手応えなんてなかったし、そもそも手応えなんて信用しちゃいけないタイプの人間なんで、運任せみたいな受験でした。
不思議なんですが、手応えがあった時ほど酷評なんですよ。上出来だと思った時ほどスルーされて、変に諦めたり、病んでいる時ほど褒められる。
そんなものでしょう?
へぇ。それは貴方が天才だから。
謙遜するなんて意外ですね。
だってそんなキャラじゃないでしょう、貴方は。
インタビューでそんな風に言ってるの、見たことないですよ。
……ちょっと、拗ねないでくださいよ。
雑誌の中の貴方が、私にとっての全てなんです。仕方ないでしょう?ついこの前まで雲の上の人だったんですから。
そうですか。
じゃあきっと来年の今頃は、本物の貴方が私の中にいるんでしょうね。
楽しみです。