8.いっときの出戻り
「もう終わり?呆気なくない?」
冷徹そのもので発言するのは、先程までオドオドしていたラウルの姿から、別人のように変わっていた。
光の玉ではっきりとわかる、犯人の輪郭、髪の色、瞳色、体格、性別。
だが、彼———いや、彼女の中ではそんなのどうだって良い。
「調子に乗るのも、大概にしなさい」
(あの口調って……)
ハーパーは知っていた。その口調をする人物のことを。そして、敵にガチギレした時の、あの表情。
よく知る人物———ルーラ・ヘルスト。彼女の本名。
ラウル・ロージェルの前世の名前。
そして、始祖の“魔術の賢者”の末裔者。それが彼女であった。だが、彼女が戦死してから十年後、賢者として成り上がったのは、アルス一人である。
「だ、誰だ!お前は!!」
「私のことなんて、どうでも良い。覚悟してるんでしょ?誰の“家族”に手を出したか……。分かってる?」
そう冷たい眼差しで言う“彼”の姿をした“彼女”の威圧感。
彼女は“魔術の賢者”だ。その為、魔法、魔術全般を得意としている異種。“魔術の賢者”として成り上がったルーラには、やはりそれほどの肝が座っていた。
「ハァ…ハァ…ッ…早いって…」
「運動不足なんじゃないの?」
後ろから途中でやってきたアルスの魔導書を取るような、手の動きをし、魔導書が飛んでやってくる。
アルスが身につけているのは、殆どがルーラの私物だ。
魔導書だって、白いローブだって。全部、ルーラの身につけていたもの。それをアルスが引き継いでいるのみだった。
「『我の元へと来たれし、それは遍く度々の力。我が友を、我が家族を、我が恋人を。それを守る為に、我はここに存在する』
———消えなさい。私の目の前から。あなたは魔法や魔術を使う資格はないわ。『電撃』」
魔導書が勝手に開かれ、彼の足元は地面から少し浮いていた。そして魔法陣が展開され、彼が手を振り下ろした時、そこから放たれる電撃の雨。それを一心で浴びた犯人は、ビリビリとなり、倒れる。
「魔法や魔術はそう言うものに使わないのよ。よく覚えておいて」
最後のトドメかのように、言い放つが相手は伸びたまま倒れている為、聞こえていない。
「大丈夫?」
そうハーパーやシアに聞こうとしたところ、ハーパーは目を見開かせていた。
分かっていたはずだった。彼は彼女の生まれ変わりであると言うこと。だけど、亡き者が例え別の形だとしても話していると言うことに。
頭の整理が徐々に落ち着いてから、ハーパーは彼の体に抱きついてくる。
「……夢じゃないよね…」
多少驚いた彼女であるが、彼女も会えたことが嬉しく思い、ハーパーの艶のある金髪の髪を優しく撫でる。
「えぇ、夢じゃないわ。だけど、私は……この身体はラウルのもの。だから、私はすぐに消えるわ。だけど、安心なさい?あなた達と私の思い出は消えたりしないわ。約束」
そう指を出し、指切りげんまんをした。ハーパーの目尻には涙が浮かんでいる。だが、満面な笑みで見つめていた。
最後にルーラからも満面な笑みを返した時、ラウルの身体は倒れてそうになった。
「え!?」
咄嗟にハーパーが抑え、ラウルは目を覚ます。
「………今のは」
「……………ふふっ、ラウル」
「はい?」
「ありがとね」
お礼を言われた後、ラウルは何のことだかさっぱりだったが、周りの状況を確認した。すると、全身真っ暗な格好をしている人物が倒れており、体格がしっかりとしている男性がいた。
アルスがその男性を運び、洞窟を抜ける。焼け切った森の中に捨てた。死んだ訳じゃない為、起き上がった後は何とかなるだろうと思い、ラウルはアルスと共に、シアはハーパーと共に、自分たちの家に戻る。
(………そういえば、さっきの出来事…。俺とは別の人物が話していたような……)
そうあやふやな状態で、ラウルはアルスの背中を見ながら、帝国方面へと帰っていく。
そしてその日の真夜中。ラウルはなぜかこの日だけ妙に寝付けなかった。
(なんか今日は、寝付けないな)
そう思い、気晴らしついでに外に出る。
真夜中の三時であり、満月が顔を出していた。満月から放たれる光は、地上を照らし、光となる。
(………今日のあの感覚……。色んな意味で知っていたな…)
その時、ラウルは地面に膝をついた。頭を押さえながら、小さく呻き声をあげる。
「ぐっ…ッ!な、なんだこれ…!また…かよ!」
頭の痛みは激しく増し、視界がグラングランとなる。フラッシュバックするかのように、ラウルの脳裏に映像のような形で現れ出したのだ———。
見知った光景と、その映像に現れた“自身”の姿を。