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7.黒い人物

森の中は炎に包まれている。燃え盛る炎は森を焼き切ってしまいそうな、勢いを増していた。

そんな所に影が二つ現る。茶色のローブを着ている人物が。


「———熱っ…。大丈夫?シア」


「うんっ…!だけど、ローブが焼けちゃう…!」


「ローブは仕方ないとして、胸元につけてあるものは無くしちゃダメよ!それは大魔導師や魔術師を意味するんだから!」


燃え盛る炎の中を走るのは、ハーパー・アシュールとシア・アシュール。

血の繋がりのない姉妹だ。

森の奥まで行く道中は、水魔法でなんとか来れているものの、魔力切れになってしまえば、一巻の終わりだ。


(なんでこんな事に———!………あの子だけは来てほしくないわ……)


そう願うのはハーパーだった。あの子…と言うのは、この二人から距離は離れているものの、森の中に入り、走って奥まで行こうとしている二人の人物の中の一人。


それは———少年ラウルだ。


(もし仮に彼が思い出してしまえば、良いんだろうけど、こんな思い出し方、きっと嫌でしょうね。アルス)


そう思いながら、炎の中を走り、最深部まで到達するアシュール姉妹。

奥へ奥へと入っていくと、洞窟らしき場所に辿り着いた。

その中には炎は入っておらず、そして見えるのは一つの影。その人物はゆっくりと後ろを振り向き———ニヤリと口角を上げた。

その人物の目はジッと二人を睨んでいた。その目は冷徹そのもの。氷のように冷たい笑みを、浮かべている。


二人は驚愕の顔に満ちた。それはドス黒い感情が心の中を支配する。


「な、なんで、あんたが…?」


「う、うそ……」


人物の格好は闇に紛れ込みそうな、黒色で仕上げられていた。

そして洞窟に灯りはない。あるのは、その人物の目が黄色く光っているだけ。

その姿はまるで、夜空に浮かぶ満月のような。そんなはっきりとした黄色の目が———。








その一方として、ラウル達の所では——。

——必死に二人を探していた。燃えるそんな森の中を。出口付近では焼け切った跡があり、木は倒れていた。そんな光景を有無ともせず、先へ先へと進んでいくラウルの様子を、アルスは心配していた。


「——なぁ、ラウル」


我慢ならずに声をかけ、ラウルは振り向きもせずに答える。


「なに?」


その声はとても冷たい声をしていた。この出来事をきっかけとし、前世の記憶を思い出せば———。


アルスはそれが嫌で嫌で仕方なかった。


(同じことを……繰り返したくない……)


そう唇を噛み締め、ラウルの後ろを走っているアルスは、なんともやるせない気持ちになる。

止めることのできなかった自分を——。


二人は森の最深部までたどり着くことができた。それは約一時間後のほどである。

そして中から聞こえる、誰かの悲痛な叫び。見えるのは洞窟の穴。何か見えない障壁で炎を入らせないような魔法で張り、その中へ誘うかのように。


(ここから…か)


意を決して中へ入るアルスだが、ラウルは堂々としていた。まだ十歳である少年が何故そんなに肝が座っているのか。先程とは全然違う、そんな様子をやはりアルスは不安に思う。


「入るぞ、アルス」


そんな様子のラウルに、ただ従うだけだった———。






「———ぐぅっ!」


洞窟の奥へと入っていくアシュール姉妹は、追いかけられていた。ハーパーは大魔導師の称号を。シアは魔術師の称号を得ている。

だが、二人が得意としているのは“治癒魔法”だ。そのため、戦闘系の魔法は普通か苦手。


そのため、敵に為されるがままとなっていた。


腹を蹴られ、踏んづけられる。

と言う仕打ちをされている。かなりの確率で森を焼いたのはこの人物で間違い無いだろう。


「ヒャーッハハハハ!ホラァ!もっとナケヨォ!」


洞窟は暗い。精一杯に出した光の玉も既に消えていた。そのため、どこにいるのか。気配で察知することとなるが———。


「———そっちじゃねぇよ」


と、腹に殴りが入る。嘲笑うかのような声を出し、ハーパーやシアは抵抗することができない。いや、抵抗する気力が失っているから。


ハーパーは相手に殴りを繰り返され、シアはそれを黙って見ているしかできなかった。魔力もほぼない状態。体内にある魔力は寝て回復するものだが、寝ていることなんてできない状態だ。


「ハーパーさん……!」


倒れているハーパーの手を掴もうと、必死に伸ばすが、相手の足で踏んづけられる。

相手の履いている靴はブーツだ。相手の体重がもろともかかり、激痛が走る。


「ぐぅっ…!!」


「シアぁ……!」


もう手立てがないと確信した犯人。痛ぶるのを楽しく振る舞い、洞窟の中には犯人の笑い声が響く。

嘲笑いが。洞窟内全体に。


———コツコツ。


足音が聞こえてきた。それに気づいた犯人は後ろを振り向く。人の気配は感じられず、気のせいかと思うが、また足音が鳴る。今度は“二人”だ。


(誰だ?誰かそこにいるのか?くそ、流石に派手にやりすぎたな)


そう心中で多少の後悔をするも、また痛ぶってやろうという優越が現れてくる。そのため、挑発した。


「誰かいるのか?隠れてないで、さっさと出てきたらどうだ?」


勝てる自信があり、満々な笑顔で言うが、その数分後。犯人は絶望の域に達する。

それは———、


「———なら、遠慮なく」


前から…くるかと思いきや、後ろに激痛が入った。犯人は後ろを振り向くと、光の玉を発している“少年”が一人。

後ろにいた。冷たい目でゴミを見るかのような、そんな目で。


「「……!?」」


二人の顔は驚愕の顔に変わっていた。そりゃあそうだろう。先程までの様子とは、全く違うのだから———。

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