6.爆発音
ラウルはハーパーの義理の妹、シアと共に遊んでいた。
シア・アシュールは十二歳。ラウルより年上な為、年下の面倒が上手であり、聖書を見せてくれたりしている。
その間、アルスとハーパーは魔導書を開いていた。何故なら、“転生”と言うのがあるのかどうか———と言うものである。
ラウルはルーラの生まれ変わりで、“魔術の賢者”になるに相応しい人物であると言う事を、まだラウル自身が知らない。
ラウルはルーラであった時の、前世の記憶がないのだ。その為、何故自分に魔法が使えるのか……。疑問に思っている。
(『魔力なし』の烙印を押されているのに、なんで魔法が使えてるんだろ……)
と心中の中では、ずっとそんな事を考えていた。
親からも無能だと言われ続け約四年。魔力なしと言うのが分かるようになるのは、五歳からだ。それは一般的な子供だとしても、貴族の子供だとしてもそれは絶対的。何故なら、その時に魔力の有無を確認できるのが、最適だと言う理由。
魔力の有無を確認出来るのは、ラウルたちのいる教会のような場所で、水晶に手をかざすと、分かる。と言った仕組みである。
水晶には『鑑定魔法』の力が付与されており、その子供の魔力の有無を確認出来ると言った、帝国式である。
(———それにしても、この子、本当に不思議。会ったことないはずなのに、ものすごく落ち着く…。理由は分からないけど……)
シアはそう思いながら、隣に座っているラウルを見ていた。灰色の髪、赤と紫のオッドアイ。初対面なはずの少年に、そんな心を抱いていた。
(ハーパーさんなら、何か知ってるのかな……)
シアは血の繋がりがなくとも、実の姉だと思い込んでいるハーパーの方を見る。アルスと話し込んでいるハーパーは何か、知っている様子をシアは感じ取った。
(考えても仕方ないよね)
思っていたことは、後で家に帰った時にハーパーに聞けばいいや。と、シア自体思っていた為、今のところ保留と言った形で心の中に収めていた。
もうそろそろ日が暮れそうな時間にまでなる。教会の中は薄暗くなり、そろそろ帰る時間帯となった。ラウルはアルスの元へと行き、シアに手を振る。
それに応えるかのように、シアもラウルに手を振った。お互い楽しい時間を過ごしたのか、満面な笑みで。
アルスとラウルは昼に来た道中を戻り、夜になりかけそうな、薄暗くなった大地を歩く。
空にはポツポツと星が現れ始め、今夜は満月であった。
二人の背中を見送るかのように、アシュール教会から見守るハーパーとシア。
「さ、私たちも帰ろうか。シア」
「ねぇ、ハーパーさん…」
「ん?何?どうかした?」
「少し、話があるんだけど…」
今日の昼を過ぎたあたりに、シアが感じ取った思いをハーパーに打ち明けようとした時、教会が大きく揺れる。
「な、何!?」
「爆発!?」
どこかで爆発音も響き渡り、二人は教会の出口の方を見た。
帝国の方から爆発の煙などが上がっていなかったが、教会の裏側。その方へ向かうと、森が存在しており、そこから火が出ていた。
山火事だろうか。と、二人は思うが爆発音が何なのか。爆発系の魔法を放ったのか、誰かの仕業にしか見えないその様子。
森の中から動物たちが一斉に飛び出し、燃えている木は次々と倒れていく。
「……一体、何が…?」
何かあったとしたのなら、二人はその状況を見逃せなかった。
森の方へと急行し、原因を突き止める為に———。
その時と同時刻。アルス達もその音を聞き、急いでアシュール教会に戻った。が、二人の姿が見当たらず、あたりを見ていると、ラウルが答える。
「森の方が……燃えてる……!」
「何!?———本当だ……」
指摘された方をアルスが見た時、二人の居場所に心当たりが出来た。
アルスはよく知っている。ハーパーの性格とその後ろを見てきたシアの様子。
アルスにとってシアは妹のような子だ。ハーパーとは元々“一緒に暮らしてきた”という縁もあり、ハーパーも自身の師匠に憧れていた。
その背中をずっと見てきたそんな師匠に。
「ラウル、お前はそこに……」
言いかけようとした時、ラウルの様子が打って変わって変化した。
ラウルの姿をしている———ラウルとはまた別の誰かに。
そしてアルスは知っている。その威圧的な雰囲気。
普段はとても穏やかな人が、キレた時の様子。それはまさに———あの出来事に似ていた。
アルスにとって苦い思い出———。
師匠の最後の瞬間を———。