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4.幻影教会

ルージア魔導帝国から、徒歩で三十分かかる場所に教会がポツンと置かれている。

そこは遥か昔に存在していた、“治癒の賢者”が祈りを捧げていた場所とされており、今世での“治癒の賢者”の末裔が、場所を守っているところでもある。

『アシュール教会』

と名付けられている。

教会という教会の見た目をしているが、一箇所だけ違う。

“治癒の賢者”を示す象徴。“鳩”の描かれているスタンドガラスが。


そこへ赴くのは、“時の賢者”と呼ばれている、最初の賢者。その連れだ。


「もし仮に、アルスさんの言っていることが正しければ———あの人は生きている」


美しい見た目をしており、美しい雰囲気を纏う、女性。“可憐”という言葉が似合いそうなほど、容姿端麗な大人の女性である。


彼女は、“治癒の賢者”の末裔だが、賢者ではない。未だに“治癒の賢者”としての称号を得ていないのだ。そのため、まだ大魔導師の域。

だが、やはりと言っていいほど、“治癒の賢者”の末裔であるため、魔力量に恵まれていた。

生まれながらではないものの、才能を発揮し、大魔導師と称えられている。


彼女もまた、“賢者”に育てられた“少女”であった。






そのアシュール教会に後十五分で着く距離にまで、たどり着いたラウル達は、散歩がてらという認識をし、晴天下の元を歩く。

ラウルに関しては、先程の頭痛は無くなり、視界ははっきりとしている。

アルスはというと、ラウルと肩を並べながら歩き、魔導書を見ながら歩いていた。

彼を育てた師匠ルーラの教えに従っている。その教えというのが、


“強くなったとしても、初心を忘れるな”


だった。今や“時の賢者”として称えられている、アルスだが、魔法の勉強は欠かせない。


何故なら、常日頃として人間は力を会得する。

前まで戦って弱いと思った奴が、再び挑んだ時、自分では太刀打ちに出来ないほど、強くなる時がある。


と言うのを、師匠ルーラから耳にタコが出来るほど、言われた言葉の一つである。自然と覚えてしまったが、この教えを頼りに、常日頃として昇進しているのだ。


「ラウル、疲れてないか?」


「大丈夫です…!」


ラウルを拾ってから一年が経過しているため、あんなに寒かったはずの季節から、すっかり暑くなる季節に変わっている。

空には雲一つないため、太陽の紫外線がジンジンと肌に当たっている。

おまけにローブも着ているため、更に体温が上がってくるのだ。


「それにしても、今年は暑いなぁ…。早く行って早く帰ろうな」


「は、はい…!」


互いに汗まみれとなっているが、十分も変わらない場所まで移動した。そのため、目的地は目先にある。

“やっと着く〜!”とラウルの心中の中では悦びに満ちていた。

だが、アルスだけは不自然な顔をする。たしかに目的地はすぐそばにまである。それは彼自身も気づいていた。だが、何かがおかしい———。


そう考えていた。


(アシュール教会は、あんな見た目していたか…?)


不自然さに気づき、警戒心を出していたアルスに気づくラウル。

ラウルも何かを察知したのか。足を退ける。


(なんだろう、物凄く嫌な予感がする)


二人の予感は的中していた。アルスの体は宙に浮き、戦闘準備に移行しているのだ。

体が宙に浮いたと共鳴した、魔導書も自身でペラペラとページをめくっていた。

アルスの足元には大掛かりな魔法陣が浮かび上がり、そして手を前に出す。それを示すその先には、アシュール教会。


目を瞑ったまま、アルスは胸元に忍ばせていた懐中時計を取り出す。そして呪文を唱える。

自分自身アルスが得意とする時間魔法を———。


「『我の元へと来たりし、時間。遍く生命のやり直し。それは時間を変えること———』」


アルスの背中に魔方陣が展開され、そこから銃口が顔を出す。

懐中時計の中に仕組み込まれている、歯車が現れ、時は止まる。何もかもが止まる。


飛んでいた鳥、風に吹かれた地面に生えている草、この瞬間だけ、世界中の時間は止まっている。


「『進め』」


アルスがそう言った時、止まっていた時間が動き出す。後ろの方に展開されている魔法陣に、顔を出していた銃口からも、弾丸が飛び跳ねて、それは時が動き出したと同時に放たれた。


銃声が鳴り響き、薬莢が飛び出る。弾丸は真っ先に教会に置かれている、鐘に向かっていく。

当たった時、鐘から音が鳴る。それは自然のことだ。だが、一番違うという場所は——。


「空間が……歪んだ……だと?」


教会の建物だけが歪み、それは亜空間へと姿を消した。

それと入れ替わるかのように、鳩が描かれているスタンドガラスが鐘の付近に現れ、アルスとして見たことのあるアシュール教会と成り代わった。


「あの、アルスさん。今のは……」


「わからない。だけど、心配する必要はないさ。さ、目的地はすぐそばだ。行こう」


ラウルにとってアルスは兄という存在だ。父親というには若すぎる年齢。

しかめた顔から爽やかな笑みに変わるアルスに、ラウルは不自然さを抱いた。そして謎な劣等感。


(………俺もアルスさんみたく魔法、魔術の勉強をしなくちゃ……)


目は燃えていた。負けず嫌いな性格であるラウルは、アルスは“超えたい壁”と成り代わる。


そしていよいよともって、“治癒の賢者”の末裔にお目にかかることとなる。ラウルは心底嬉しそうだった。


アルスの後ろを追いかけ、アシュール教会の中へと入った。


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