3.目的場所の道中
アルスに拾われたから、一年が流れる。そんなある日、ラウルとアルスは用事で帝国の外に出ていた。アルスの借りている家の付近には、森が生い茂っている。帝国内では珍しい構図なため、そこの敷地を丸々買い取ったというわけだ。
用事があるという場所は、アルスの古き知人の場所。帝国より少し離れた場所にその知人がいるのだという。
アルスと同じ白いローブを被り、白いワイシャツに黒色のズボン、そして茶色のブーツを着用するラウルと、それに似たような色合いを着るアルス。傍目から見たら、仲のいい兄弟に見えるぐらいだそうだ。
その日は晴天で用事で出かけるには、いい天気である。
あれから、魔導書に書かれている魔法を一通り覚えることが出来たラウルは、十歳になったばかりとは言え、そこら中の学院生にも負けないほどの力をつけた。
だが、鎖骨あたりにある烙印のせいで、まぁまぁ壮絶な日々を過ごしている。
『魔力無し』———呪いの目
『無能』———愚者
『家畜』———十字架
と言ったマークがつけられているため、周りから非難されている。
気にしないように……とは思いつつも、やはり気になって仕方がないラウルは、魔法の練習に関しては、アルスの敷地内で行っていた。
「あの、どこへ行くんですか?」
帝国の外の草原を歩きながら、ラウルはアルスに問いかける。少し顔をしかめたが、観念したのか、淡々と話し始めた。
「行く場所はな、教会だ」
「教会?」
「あぁ、私は“時の賢者”と言われている。遥か大昔に誕生した賢者が、再び今のご時世の中になった人物……最初の人物をそういうんだ。それが俺。“時の賢者”だ」
“賢者”という言葉がやけに懐かしく感じる、ラウル。
彼自身この懐かしさがどこから来ているのか、検討などつかなかった。
道中でアルスから色々と聞いたラウルは、一向に頭を唸らせた。
次々と入ってくる情報を、一気に整理することができないため、言われたことが右から左に受け流す。
「じゃあ、今から行く場所って……」
「あぁ、賢者の末裔…“治癒の賢者”の末裔がいる場所だ」
———“治癒の賢者”
聞き覚えがないはず。なのに、何故かひっかかってしまう。
ラウルの中はそんな黒に染められていた。頭の中ではモヤモヤっと隠されており、なにも見ることができない。だが、うっすらと見える。
その人物は———、
(———あれ?)
ラウルの頭の中に文字が浮かんだ。
『ハーパー・アシュール』
これが何を指すのか——。
ラウルは検討がつかない。
「ぐっ——」
小さな悲鳴をあげるラウルの様子に、アルスは気付く。一体どうしたのか——?とアルスが優しく尋ねるが、ラウルは返事がなかった。
そして微かに聞こえる、声。何かを言っているかのようだった。
「俺は……知っている?この人の……ことを……」
『ハーパー・アシュール』
これは何かを指す意味。名前だということに気づいたのだ。
この人が誰で———。
どんな人物なのか———。
辿り着けそうなはずなのに、頭には霧がかかる。そんな時には、頭を押さえていたラウルは、平気な顔となった。
さっきまで出していた冷や汗が無くなり、頭の痛みを無くなる。
何を表していたのか。この人の事を知っていたのか。だとしても、会ったことも無いはずの人に、聞き覚えがあるはずなどない。
ラウルの頭の中はそんな言葉で埋め尽くされる。
———誰だ
———誰だ!
———誰だ!!
っと。混沌してしまう。
アルスの支えがあり、ラウルは立ち上がることができた。
“大丈夫か?”と優しく尋ねるアルスに渋々と答える。
そして晴天のもと、草原の中を再び歩く。その教会に辿り着くまで、アルスは冷や冷やもんだ。
まだ——
(——まだ思い出さないで欲しい…!)
そう必死に祈った。何故彼が、そこまでラウルに思い出して欲しくないのか。
ラウルを心配してのことか、はたまた何か別の目的のためか———。
それを知るのは、アルス———彼のみだと。