1.前世の確認
森で震えているラウルのもとに、誰かの足音が近づいてくる。
彼は俯いたまま、顔を上げない。服が擦れる音が聞こえ、ラウルの肩を誰かが叩く。
それは驚きの表情を見せた彼は、やっと上を向いた。
「君、名前は?」
「誰?お兄さん……」
そこに居たのは、ローブを被っている男性が居た。穏やかそうな声で、ラウルに問いかけ、優しそうな笑顔でラウルに微笑む。
何故か安心できた。名前を問いかけられた為、素直に答える。
怪しい人物に対して、実名を教えるな、と誰かが言っていた気がしたラウルは、普段なら躊躇する。が、なぜか目の前にいる男性は信用できたのだった。
「………ラウル・ロージェル」
「ラウル……か。よろしく。ラウル。君はここでなにをしているんだ?」
問いかけられ、この状況に陥る前の出来事を事細かく、説明した。
その人はラウルの頭に手を置き、優しく撫でる。初めて人の温もりを感じたラウルは、涙で腫れていた目元から、また涙が溢れてしまった。
その人に縋り付くかのように、行き、その人は優しくラウルを抱きしめる。
父性の強い人だなぁ〜とラウルは思っていたが、この人が自分の父親だったら、もっと違う生活があったんじゃ無いか?と言う思いも芽生えた。
「自己紹介が遅れたね。私は、アルス・オラール。よろしく」
ローブを被った青年の名前は、アルス・オラールという名前らしい。兄よりも年上そうな、大人な雰囲気を醸し出し、ついつい「お兄さん」と呼んでしまい、アルスから苦笑を貰う。
「す、すみません……」
「いや、構わないよ。さ、ラウル。帰る場所がないなら、私の家に来ないかい?」
そう優しそうな声で、ラウルに手を差し出すアルスに、ラウルは素直に手を握った。
親や兄から貰うことが出来なかった、この温もり。それをアルスから感じ取れた。
ラウルがいた森から出た先は、帝国が存在した。ラウルは家からあまり出たことがなく、出たとしてもあの森に遊ぶだけ。その為、家周辺の場所しか知らなかった為、帝国のデカさに度肝を抜かれていた。
「ここは?」
「ここはルージア帝国。私の住んでいる家がある場所さ」
「………ルージア帝国……」
ラウルにはその名前を聞いた時、既視感を覚える。見たことないはずなのに、聞いたことないはずなのに、どこか懐かしい気持ちが現る。
ルージア帝国———正式名称としてはルージア魔導帝国と言う名前だ。
ラウルはアルスと一緒にルージア帝国に足を踏み入れる。
そしてその日の夜。ラウルはアルスの家でお世話になっていた。
ラウルはアルスの寝室で気持ちよさそうに、寝ており、その前にご飯をたらふく食べて、暖かいお湯に浸かり、全身が暖まった状態で布団の温もりにも温まる。
アルスは出会ったばかりなはずのラウルに、そこまでするのにはある理由が隠されていた。
アルスは賢者である。魔導に秀でており、アルスを賢者へと成り上がらせた人物を、強く尊敬していた。
孤児であったアルスを賢者の師匠に拾われ、賢者へと力を付けさせてもらったこと。それまでに沢山の出来事を楽しんだこと。
その名は———『ルーラ』
と言う少女だった。
(ルーラさんにものすごく………似ているんだよな。目元とか。しかも瞳の色。あれは、希少とまで言われるぐらいの色のはず。それをなぜあの少年がそのような色をしているのか………)
アルスはラウルが寝ている寝室にて、入る。ラウルが寝ている横で、アルスは魔法をかける。
『鑑定魔法』の一種であるが、少しだけ違う。アルスがやろうとしているのは、彼の前世———。
それを調べるために、探し回っていた“ルーラ”という少女の来世の姿を。
ルーラの姿が、ラウルと一致したのは、その翌日のことであった———。