0. プロローグ
人生では、他人に見せない力を持っている時がある。
それは才能か。はたまた努力の結晶か。それは本人の力量を問われるときもある。例えば、生まれた時から頭が良かったり、運動が良かったり、なんて事は最初から分かるわけがない。
先天性のものなのか、後天性のものなのか———。
だが、それを知らず知らずとは言え、『出来損ない』だとか、『無能』だとか言われる筋合いは有るのだろうか?
いや、無いはずだ。
「だから、お前は我が家の無能なんだよ」
まだ十歳にも満たない少年に、その言葉を吐くのは少年の兄。五歳年上の兄が言う。
彼の兄と彼は持っている才能が違った。誰もが兄の方が優秀で、弟が無能だと。
だが、それは誰も彼の本当の実力を知らないからだ。まだ彼には本当の力が眠っている。
それを誰も知らない。その本人でさえも———。
「なら、僕はいらない子なの?」
「あぁ、そうさ。お父様が言っていた。お前は無能で我が家の恥だと」
その言葉を突きつけられた少年は、泣きじゃくる。兄は鬱陶しく思い、その少年の頬を叩いたのだ。
吹き飛ばされた少年は、頬を押さえながら、兄を見つめた。
涙がさらに溢れ、また泣く。騒ぎに駆けつけた二人の少年の父親と母親は、状況を見た。そして納得した。
「おい、ラウル。お前うるさいぞ」
“ラウル”……と言うのは、頬を押さえている少年の名前だ。
彼の名前はラウル・ロージェル。ロージェル家の次男坊である彼は、家族を見つめた。
“誰も味方がいない”
その現実に突きつけられた彼は、やっと自分の家の立場を理解した。それは———
———厄介者だと。
森に捨てられたラウルは、木陰に背中を寄せた。この時期は十二月。この辺りの地域は、必ずと言っていいほどマイナス気温もしくは、五度あたりまで気温が落ちる。
寒さに震えるラウルは、十歳満たないだろうと、“死”と言う言葉が、脳裏に浮かぶ。
「このまま……死んじゃうのかな……?」
そう考えただけで、孤独に苛まれた。ラウルは魔法一族に生まれたとしても、魔力ゼロだ。そんなラウルをロージェル家は捨てた。
胸元……鎖骨あたりに『魔力なし』『無能』『家畜』と言った言葉を表す、烙印が押されていると言うことを。
そして目を瞑った。このまま死んだ方が———楽だと。