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異人  作者: 蒼蕣
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存在抹消

「ま、待ってくれ!」

普段なら静寂に包まれたAランクの住居が密集しているこの場所で、悲鳴が轟いた。

このAランクはなぜだかわからないが、音がよく響く。

それともいつも静かだから小さな物音にも機敏に反応してしまうのだろうか。

「お、俺はまだやれる!」

一人の男が部屋から無理やり連れ出された。

「規則だからな」

久しぶりに看守の声を聞いた気がする。

Aランクの者たちは皆この施設に慣れていて、いわば優等生であるため、叱られることはまずない。

逃げようとすれば、ペナルティが課せられ、ランクが落ちてしまう場合もあるため、逃げ出そうとする奴もいない。

掃除洗濯は自分たちで行い、飯も好きな時間に食べられるので、看守が私たちの部屋を訪れる必要もない。

なので看守も一日二回ほどしか見回りに来ない。

仕送りは一週間に一度、それも手渡しではなく、夜のうちに部屋の郵便受けのようなところに入れられるので、看守との直接的なやりとりはない。

Aランクの看守が一番楽だと看守たちの何気ない世間話を耳にすることもしばしばある。

そんな平和なAランクで泣き叫ぶ男。

正確にいうと命乞いをしているのだ。

前にも言ったように私たち収監者には犯罪計画を作成するという唯一の義務が与えられている。いかに完璧な犯罪計画を練られるかが、私たちの生活やその後の人生を左右する。

その目標のために私たちは日々努力し、ランクを上げる。

私たちの行なっている卒業試験は今まで努力して来たことの集大成である。

しかしその卒業試験にも受けられる回数が決まっている。

回数でいうと実に百二十回、年でいうと三十年間だ。

その間ずっと不合格だった場合、その者は処刑される。

社会に存在する大学は基本最長で八年間の在籍が認められるが、それでも卒業できなかった場合は除籍処分となる。

除籍ではその大学を卒業したことはおろか入学したことも認められず、履歴書にも大学の記載はない。

ここでは、三十年という四倍近くの猶予が与えられるが、その分処分も重い。この世から抹消されるのだ。

そのため、私たちは死ぬ気で努力するのである。

Aランクまで難なくこなして来た私でさえ、この卒業試験は苦戦を強いられている。

死は誰もが嫌う。ましてや卒業の一歩手前であるAランクまで上り詰めた者の中で人生を諦めるものはいないだろう。

ならばとBランクにずっととどまっていればいいのではないのか。

そう思ったこともあったが、BランクとAランクでは自由度に天と地ほどの差がある。

人間は誰しも自由が好きだ。

看守に見張られていない、自由に部屋から出入りできる。いつでも風呂や飯を堪能できる。

そんな生活は社会においては当たり前だ。

言うなればAランクになってようやく社会に生きる人間たちと同等に扱われている気分になるのだ。

そう思ったら、上を向いて歩き続ける他道はない。

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