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異人  作者: 蒼蕣
8/59

ランク

「今日が締め切りの日か」

「お前もうできたか」

私と龍興は共同スペースのすみに置かれているホワイトボードを眺めた。

私は無言のままだった。

今日はここに収監されている者たちにとってクリスマスや新年なんかよりも重要な日だ。

犯罪計画提出日と名付けられたその日は、いわば生徒たちにとっての期末試験と同等の価値があると言えるだろう。

その点数によって我々の今後の人生が大きく左右される。

ここに収監されている者たちは全員A〜Dまでランク付けされている。

最初は皆Dランクから始まり、三ヶ月に一度Cに昇格できるチャンスが与えられる。

やることは簡単でただ単純に自分がこの施設に来てから得た犯罪知識を文章にするだけだ。それこそ学生の試験のようなものだ。

多くのものはここをすんなり突破できる。

育成所から来たエリート組は飛び級して次のCランクから始める者もいる。

Cランクでは今度半年に一回これまで読んだ本の内容を覚えているかが試される。これに合格するとBランクに上がれる。

読解力のないものはここで足止めを食らう。

Aランク昇格は1年に一回の頻度で行われる。

ここでは収監者が被疑者役となり、あるシチェーション下で突発的に起こしてしまった犯罪をどう処理するかが試される。これまでの犯罪知識はもちろん、判断力や警察も想像つかないような奇抜なトリックも評価対象になる。ここで多くのものは五年近く浪費する。

私もCランクとBランク昇格試験は一発で合格したが、Aランク昇格までは三年を費やした。

私たちが学生でもないのにこれほどまでに試験に集中するのにはもちろん理由がある。

それぞれのランクに応じて生活環境が大きく異なるのである。

Dランクははっきり言って人間扱いをしていない。犬小屋のようなスペースを与えられ、食事は一日一回、味の薄いおかゆのようなものを直接鍋から口へ注ぎ込まれる。トイレは小屋の隣の穴に排泄する。

中には生活に耐えきれず、穴からの脱出を試みた者もいたが、穴には水が溜まっており、その穴の深さは十メートルを超えると言われ、一度落ちると一生抜けられないと言われる。

一週間に一回の頻度でホースから水を浴びせられ、その間に体にこびりついた汚れや服を洗わなければならない。

Cランクは牢屋のようなスペースを与えられる。トイレと薄っぺらい布団がついており、食事は一日二回、カピカピのパンや古い米などを与えられる。服は使い捨てとなり、一週間に一回衣服一式が与えられる。湯船には入れないが、シャワーが一日一回浴びれる。

Bランクになると牢屋ではあるが、広さが倍近く、畳が敷かれた日本式だ。机や座椅子があり発注すればある程度のものを揃えることができる。食事は小学校時代の給食レベルというべきだろうか。トイレは牢屋の外で共同便所となっている。湯船にも三日に一回入ることが許され、洋服もC、Dと比べると長持ちし、自分でいつでも洗濯できる。

そして私たちのいるAランクではユニットバス、実験室、寝室の三室を与えられ、共同スペースを使うことが許されている。食事も社員食堂のような形式と簡素ではあるが中学校や高校で見られる売店があり、食べ物がいつでも食べられる。

はて、私たちはすでにAランク、ならば昇格試験などもうないのではないのかと思う者もいるだろう。

確かにAランクより上の階級は存在しないので、昇格試験はない。

しかしそれではAランクは早くここから出せと暴走するかもしれない。

私たちAランクは犯罪に関しての知識は豊富にあり、場合によってはこの施設自体を破壊してしまう犯罪計画を立てられてしまうかもしれない。

それを防ぐために私たちには卒業試験が設けられている。

その名の通り、この施設から出るための試験だ。

それはここに収監されたすべての者の望みである。

嘘と思うかもしれないが、卒業試験に受かったものは二度とここに帰ってくることはなかった。

噂によると、ここの看守となったり、警察の特殊任務部隊に所属したり、犯罪心理学者になったりと、様々な分野で成功していると聞く。

試験は三ヶ月に一度、これまでの集大成とも呼べる犯罪計画を一から自分たちで捜索しなければならない。いつ、どこ、だれ、どうやってを事細かに記さなければならない。中にはかれこれ十年近くAランクにとどまっている者も多くいる。ちなみに私はこれまで四年目だ。

かれこれ十回以上行って来た卒業試験、もう不合格という文字は見飽きた。

もうやめたい、もうずっとAランクのままでいいや。

そう思いつつも、やはり外の世界で自由に生きたい。

自由という言葉は私たち人間の理想郷に必要不可欠である。

何にも縛られず、誰にも何も言われず、自分の思ったことはいつだってやれる。

しかし私は知っている。人間という生物は何か目的がないと生きる気力を失うということを。彼らは常に自分自身を成長させていく生物であると。

全てが自由であれば、自分自身の成長に必要なことを自分で決めなければいけない。何か不自由と感じるからこそ、それを解決するために人間は努力する。

つまり本当の自由下では人は生きることは難しい。

ならばと目的を私たちに与えてくれる、社会という必要最低限のサポートの中で自由に生きることが幸せだと感じるのだ。

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