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異人  作者: 蒼蕣
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ストレス

「よお、克。ちゃんと生きてるか」

自分自身にしか興味ないはずの私たちの中で、異色の存在感を放つのが、飯山龍興(いいやまたつおき)

「ああ、あんたも元気そうで何よりだ」

これが、私たちの普段の挨拶だ。

ここは我々収監者の共有スペース。カフェのような雰囲気がある場所だ。

皆、本を読んでばかりだが、もちろん話をしても良い。

人によって読む本の数は違う。一週間に一冊しか読まないものもいれば、この間来た新人のように十冊以上読む奴もいる。

私の一週間に読まなければいけない本の数は四冊。私は大体一日一冊のペースなので、残りの三日間は暇となる。

その三日間を私はこの共同スペースで過ごしている。

一週間に四冊はノルマであって、看守に頼んで、読む本を増やしてもらうこともできるが、私は本からの知識だけではなく、他の人の犯罪に対する価値観や考え方からも知識を得たいと思っているため、この共有スペースで過ごす時間を大事にしている。

それに社会にいた頃の名残なのか、やはりずっと部屋に一人でいるのはなんとなく寂しい気持ちになる。

龍興はそんな自分を癒してくれるいい相手だと自分では勝手に思っている。

かと言って、私は相手に話をさせるばかりで、自分はほとんど無口だ。

「お前の隣に新人が入って来たんだってな。どんな奴だった?」

「中学生」

「そんなのは知ってる。エリート組だろ」

養成所から上がってきた奴らを私たちはエリートと呼んでいる。

なぜならすでに犯罪の基礎、殺害方法、アリバイトリック、犯罪者の心理などが体に染み込んでいるため、我々の任務のである犯罪計画の一つや二つ、簡単に制作できるからである。

「んで、他には」

「華奢な体つき、顔に表情はない。あと両肘の内側に皮膚炎があった」

「ストレスの発散の仕方は自分をひっかくことか。ステレス性蕁麻疹ってとこか」

収監者の大多数はストレスを抱えている。それもそのはずだ。

本を読むことと、犯罪計画を考えること以外何もできることがない。

部屋には窓もなく、陽の光はほとんど届かない。

常に真っ白い床と壁と明るい蛍光灯で照らされた部屋では、一日の終わりと始まりさえわからない。

ここにはカレンダーや時計もない。

ご飯は共有スペースでいつでも頼めようになっているため、自分がいつ何時に食べているのかさえわからない。

皆、お腹が空いたら食べ、眠くなったら寝る。起きたくなったら起きる、その繰り返しだ。本能に忠実である。

ご飯がいつでも食べれると聞いて、肥満になるやつもいると思ったが、我々は食に興味のないものばかりで、皆痩せている。

中には、ストレスのせいかチューブで直接血管に流し込んでいるやつもいる。

自分はあまりストレスをためこまない主義だ。

一日の過ごし方を前日の寝る前、もしくは翌日の朝にすでに決めていて、それがルーティーン化してるせいだろうか。一日の過ごし方をルーティーン化しているのは家族といた時からの名残だ。

向こうではよく、母から今日買い物に行くから準備しときなさいなどと言われ、ルーティーンを崩され、ストレスが溜まったこともしばしばあったが、ここではない。

毎日を同じように過ごす。それをおそらくここ十年近く繰り返している。

退屈ではないのか。と思ったこともある。

雨の日も風の日も、雪の日も社会にいる人たちは自分たちのやるべきことや、やりたいことを全うする。

私たちも社会から隔離されたこの白く塗りつぶされたこの空間内で与えられた任務を遂行する。

どちらも人間じみている。

それは自分にも生きる価値があると誰かから認められたい承認欲求の現れではないのか。

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