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異人  作者: 蒼蕣
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養殖場

「番号B5023、入れ。ここが、お前の新しい部屋だ」

一人の看守が青年を隣の部屋に連れてきた。

もうそんな時期か。

危険な思想を持つ人々が収監されているこの施設には三つの建物がある。

一つはここ、完全犯罪計画所。

私たちを収監し、完全犯罪の計画を練らせる場所。

二つ目はこの施設の職員たちが働いている場所と聞く。

何をやっているかは詳しくは知らないが、どうやら日本中の監視カメラにハッキングして、社会に埋もれた危険分子を探し出していると言われている。

そしてもう一つが完全犯罪計画者育成所である。

ここではまだ幼い子供を完全犯罪計画者にまで育成する場所だ。

この子供たちは別に危険な思想を持つわけではない。

収監された女性の危険分子に無理やり種付し、産ませた子達だ。

こんな環境下で無事生まれてくるのも稀な中、生まれた途端に看守たちは親から子供を引き離し、犯罪系の本を読み聞かせする。

その結果、人工的な危険思想家を生み出すことができるのである。

つまり、完全犯罪計画者育成所とは要するに危険思想家の養殖場と言える。

三ヶ月に一回二、三人がここに来ることを加味すると、その規模が伺える。

彼もまたそこからの産物であろう。

聞くところによると、満十二歳まで育成所で、犯罪の基礎を叩き込まれ、ここでその基礎を自分で発展させていく。

彼はその背丈からまだ八歳程度にしか見えないが、彼の瞳はすでに光を失っていた。

それは命の尊さをなんとも思っていないシリアルキラーのような目だった。

顔つきもまた無表情で、どこか人間味を感じられない。

彼らは外の世界を知らない、故に看守たちが親だと思っているのか、彼らの言うことは素直に聞き入れる。

養殖場があるにも関わらず、奴らは未だに社会から危険分子たちをさらってくる。

なぜだろう。

それは、思想が単調にならないためである。

同じ施設で生まれ、同じ本を読めば、そこから生まれてくる経験や知識は皆同じものとなり、結果として同じような思想しか生めなくなる。

「番号B5023、ほら忘れもんだぞ」

そう言って看守から手渡されたのは本の束だった。

本を読むことは彼らにとって生きがいとなっていて、なおかつ幼い頃から本を読むことしかしてこなかった彼らには、読む量が私たちの三倍近くある。

大変そうだ。しかし、やめろとは言えない。

本を読むことは彼らにとって生きていくことと同じだから。

私は蔑んだ目で、彼を見た。

そう言えば、私にも番号が与えられていたな。MO3…なんだったかな。

まあ、どうでもいいか。私には名前があるのだから。

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