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異人  作者: 蒼蕣
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暮らし

いつからだろう。こんなに本を読むのに夢中になったのは。

まるで初めて自分にあった趣味を見つけたような感覚だ。

本といえば漫画で、こういった小説、しかも犯罪や推理ものなど好んで読むことなどなかった。何より私は本よりゲームをするのが好きだった。

外に出るときと言ったら、登下校の時、それとたまに家族に連れ出されて買い物に行くときぐらいだろう。

それぐらい人との関わりを閉ざしていた。

学校でも誰かが話しかけてこない限り、口は開かなかった。

なのになぜだろう、自然と周りに人が集まっていた。

そんな光景に違和感を感じていた。でもやはり周りに人がいることは楽しいし、温かみを感じた。


家で一人でゲームをするのとはまた違った感覚だった。

そんな時私は突如として連れ去られた。

下校途中だったのを覚えている。

どういう理由で連れ去られたのかは知らないが、気づいたら一人だった。

周りにいたのは見知らぬ大人ばかり。

中学校に上がる直前だった私にとっては彼らがただそこに立っているだけで恐怖を覚えた。

知らないおじさんに目をつけられたら、逃げなさいとよく言われるが、ここに逃げ場はない。

ここには窓一つない真っ白な部屋が三つある。

一つは寝室兼書斎と言ったところか。普段はここで過ごす。

一つはユニットバスと洗濯機。ちゃんと換気扇が付いているが、いつも湿気でジメジメする。洗濯機には乾燥機もついている。

洋服はスウェットのようなものが五セットと白いワイシャツと黒のパンツ、黒に黄色い小さな斑点がついたネクタイに、黒い背広が支給される。

普段はスウェットを着ている。それを私は毎日自分で洗濯している。

身だしなみを機にするものは外に出るときにだけワイシャツとパンツに着替えるものもいるが、私は全く気にならない。

もう一つの部屋は実験室と私は呼んでいる。

ここでは私たちの唯一の任務である犯罪計画を作成するため、本当に現実味があるかを検証する場所である。

任務を遂行するために必要なものならなんでも発注できる。

本でしか読んだことないので本当かどうかわからないが、社会人なりたてでお金がろくにない人よりはいいところに住んでいると思う。

だが、幼き頃の私の心は満たせなかった。

ここ十年近く住んでようやく、何かが吹っ切れた気がした。

周りの奴らが次々とその頭脳で脱獄計画を企てたが、すべて失敗に終わったのを見た時。

そんな彼らがすべて無残に死んで行ったのを見た時。

左の鎖骨あたりにICチップが埋め込まれているのを知った時。

ここを抜け出す唯一の方法は任務を遂行させること。

逆にいえば、それさえできてしまえば、社会に戻れる。

ならば、抗うのはやめよう。

何年かかるかもわからないが、ここにいる限り生きることは保証される。

生きてさえいれば幸せだ。そう思い始めた。

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