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異人  作者: 蒼蕣
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成功への兆し

叱られ、謝り、同期に慰められる。

それが今の私の毎日だった。別に楽しくもなかったが、辞める気は無かった。

みっともない、とは感じなかった。自分が普通の人間の仕事をすんなりこなせるとはハナから思っていない。普通の人間と馴染めないことを代償に、自分には他の人間にはない力を持っていると自負している。そしてそれを磨き上げるのに努力を惜しまなかった。情熱を注ぐというような綺麗事な表現はしない。私はその力に愛着があるわけではない。それをやらなければ死ぬ。そんな過酷な状況下で必死に育んだ力なのだから。とは行ってもこの力は自分の誇りと言えるだろう。他人がそうやすやすと真似できる代物ではないことを私は知っている。

私の胸の内にあったのはこの会社の機密情報を手に入れること。

それを成し遂げるために私は耐えた。

辛抱強く我慢していると捉えたのか、自然と私の周りに人が集まっていた。私を労うためだった。散々怒鳴られてもめげないその精神力に感服したと行ったところか。別に私はこのぐらいなんてこともないのだが、普通の人間には耐え難い屈辱を私は味わっていると感じたのだろうか。

当初は懸命に励していたが、数ヶ月経っても全く上達が見られない様子に呆れられたりもした。しかし、それでも諦めない私に多くの者が手を差し伸べてくれた。

私のどこに成長の見込みがあったのだろうかと聞きたいほどに彼らは私の心に分け入って同情を画策していた。だが私のこの心がそう簡単にこじ開けられるはずもなかった。

同じ立場に立てないのならと彼らは私の保護者のような立ち位置を取った。

今ではまるで社会に迷い込んだ幼稚園児状態である。

手伝ってあげよう、これはこうするんだよと一から丁寧に教えてくれるのはありがたいが、たまに「自販機でコーヒー買って来てくれないか? あ、買い方わからねえか」と言ってくる奴もいる。

確かに自販機なんて施設になかったが、自販機の使い方ぐらい見ればわかると言い返しそうになった。

周りの社員がみんな味方してくれる。

きっと今は私はライバル社のスパイですと告げたら、冗談だと笑われるほどいい関係を築いていると私は勝手に思っている。

それは思い返せば、あの施設に入る前の学校生活と類似していた。

しかし、それでも私は居心地が悪かった。

その関係は信頼から来ているものではなかったからだ。

この会社での私の利用価値はほぼ無に等しい。

やはり、利用価値が求められることすなわち誰かに自分を認められることがない以上、私は素直に喜べなかった。

そんな時に転機が訪れた。自分の居場所が見つかったのだ。

それが新商品のアイデアを出し合う会議だ。

顧客が今何を求めているのか、顧客をどう満足させるかが目的であるこの会議では私の独学で学んで来た心理学が役に立つ。

犯罪において警察などの心理を逆手に取ることは重要である。

人は誰しも先入観で行動してしまう。しかしその先入観を逆手にとってしまえば、証拠を多数残してしまっていても、犯人逮捕まで難航することが多々ある。俯瞰することが時に重要だと施設で読んだ中に書いてあった。

顧客の心理を読んで、彼らが今何を欲しているのかや、顧客の目を引かせる方法などを私は会議で語った。今まではいやすみませんぐらいしか口に出さなかったのが、理屈を付けて説明している。

すると多くの人が驚いた顔を見せ、拍手喝采を私に送った。

初めて認められた。そして初めて少し心が揺らいだ。

私の考えは間違いではなかった。やはりどんな人でも役目がある。自分にしかない才能、それが活かせる時は必ず訪れるのである。

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