表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異人  作者: 蒼蕣
22/59

給料

今日は社員にとって一ヶ月に一回訪れる、嬉しい出来事が起こる日。

それは給料日だ。

一般的には二十五日が多い給料日なのだが、なぜかこの会社はその前日の二十四日。

まあ、正直どちらでもいいと私は思っている。

もちろんここまで大きな会社だ。上司から茶封筒で現金を直接渡される方法ではなく、口座に振り込まれる。

その時間帯は午後三時だというので、給料日の朝はみんな普通に出社してくるのだが、定時を回ったところで一気に今まで秘めていた高揚感を爆発させる。

爆発させると言っても、彼らは大人だ。大声で叫んだり、喜んだりはしないが、すぐさま携帯から銀行口座のアプリを開き、振り込まれた金額を確認する。ある者は声には出さないが表情に満面の笑みを浮かべ、ある者はちょっとがっかりと言いたそうな顔をする。その光景はまるであの施設での進級や卒業試験の試験結果の時を彷彿とさせた。その時ばかりは薄情な収監者たちも否応にも感情を出さずにはいられない。

しかし私はその中でも極めて感情の起伏がない。卒業試験合格でさえ、表情にも出さなかった。社会に出て初めての給料日でもそれは同じだった。

人それぞれの働きに見合った金額が振り込まれる。新人社員の平均がどれぐらいかは知らないが、雑用しかこなしていないため、給料はそんなに高くないだろう。

この給料は言うなれば社員たちの存在価値、どれだけ彼らがこの会社の発展に貢献しているかを表す数値だ。

給料の値によって今後の社員たちの心構えも変わってくるだろう。

自分たちの給料、それはすなわち会社からの言葉なきメッセージだろう。そしてそれをどう捉えるかは人によって異なる。

予想より高くつけば人は喜び、このままこの調子を続けようと引き続き努力するか、自分の実力を過信し、怠ける。

予想より低くつけば人は悲しみ、自分の努力に見合った報酬がもらえていないと会社を恨み、会社での働きがより一層落ちこぼれるか、自分の心構えを見直し、もっと努力しようとする。

私は正直どちらでもない。私は別にこの会社に入りたくて入ったのではないし、自分の業績が認められなくてもあまり気にならない。

ただ自分の努力がこうも目に見えて報われたと証明されるのはなんとなく嬉しいことなのは知っている。

あの施設での進級試験や卒業試験での合格の文字、それと似た感情だろう。

それに加えて今回は初めての試み、初めて社会に出て、これまでやったことのないことをやって見せ、それが評価されたのだ。そう考えると喜ぶべきなのだろう。


このお金を何に使うか。

正直貯金が現実的ではないか。今私は自分の働いている会社と依頼主の両方から給料を得ている。

依頼主の方は給料と言っても現金は一週間分の自分の食事代と言ったところか。欲しいものがあれば値段を問わず基本なんでも用意してくれるので、このぐらいが妥当なのだろう。

なので自分が生きていく上で必要なものは全て依頼主の方でカバーできる。

なら会社の方の給料は依頼主の計画書を作り上げて、解放された時、社会に独り立ちする時に使おうと思っていた。

しかしそんな時にあることが頭をよぎった。

依頼主の犯罪計画を作り上げるためにも今はひたすら会社で努力を積まなくてはならない。

その第一歩がパソコンを習得することだろう。

これまでいろんな人の作業を見てきて一通りのことは頭の中でシュミレートできた。

あとはそれを実際にこなせるかだったが、あいにく自分用のパソコンは会社にはない。

と、いうことで私はこの初めての給料でパソコンを買った。

今の世の中一人一台、早ければ小学校高学年から触り始めるパソコンを二十何才で初めて手にした。

その時の感覚は新鮮さそのもの、自分の人生に新たな目標ができたような感覚だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ