存在意義
ー都内某所
そこは幽霊の住む場所
じゃあ幽霊屋敷?
違う。そこは存在を認められない人々の住処。
戸籍を失ったものが徘徊する場所。
そこに入ったものは死ぬまで出られない。
死んだとしても墓には入れてもらえず、研究材料として肉片から骨まで使われる。
そのほとんどが犯罪者である。
いや、言うなれば犯罪者になり得そうな人物たち、社会の危険分子である。
巧妙かつ狡猾な計画を頭の中で描き、いつか世界をも滅ぼすかもしれない力を秘めているものたちである。
斎藤克もその一人であった。
彼らは毎日を平凡に過ごしていた。
彼らは施設内であれば何をしても許された。
しかし、施設内はトイレにまで監視カメラが取り付けられており、持ち物も自室を出入りするたびに調べられる。
犯罪が起こることはまずない。
何より、ここに収容されている人は自分しか見ない。いや見ていない。そのため他人に対する嫉妬や憎悪といった感情は一切湧かない。いわばナルシストである。
そのため他人を傷つける理由もないのである。
彼らは何をしても許されたが、多くのものは決まった行動をとる。
それは読書だ。
聖書か何かと思ったか。社会へ復帰するために。
否、彼らが愛読するのは犯罪に関する小説や論文。
彼らの存在価値はその頭脳。そして頭脳の中に蓄積された知識は随時更新していかなければならない。
しかし、彼らは外観から完全に隔離されているため、変化する社会情勢を知らない。人間は社会の変化に応じて自ら順応させていく生き物だ。しかし彼らにそれはできない。そうなれば彼らの頭脳はただのカビの生えた過去の産物。月日が経てば経つほど使い物にならなくなる。そこで彼らは最新の本を読み込むことで、外の流行を知る。そして自らの知能に磨きをかけていくのだ。
ではなぜそんなことをしなければいけないのか。
それは彼らに課せられたたった一つの任務のため。
それは…完全犯罪を作り上げること。