提案
「なるほどな」
一代で築き上げた会社か。それもここ十年で急激に売り上げが伸びたのか。
雇い主が提示してくれたライバル社の資料を読んだ。
十年前に何か進展があったといえば、生産において機械を導入したことか。
これによって生産スピードが倍近くになり、価格も三割ほど下げることになった。一級品の材料から作る依頼主の高級なものとは違い、ライバル社のものは非常にお手頃価格。万人の手に取りやすい価格だ。
「いちばん成果が出るのは、こっちも機械をもっと導入したり、客層を広げたりするのがいい」
だが、あいつらはもう争う気力を失いかけている。何回も争ったがその度に負けたと言っていた。無理にまたやらせても失敗するのがオチだ。それにあいつらは機械を買うお金を犯罪計画者である私につぎ込んだんだ。
「例えば他の会社と共闘するのはどうだろう」
いや、しかし他の会社も出来たばかりの新参者。そんな新人と一緒に働けば、店のプライドに傷がつくわと難癖を示してきそうだな。かといってその会社を参加に置くほどの威信はすでに失われている。
「そうなると前の計画者もやったと言っていた社長を貶める計画が一番か」
一代で築き上げた会社は社長に対する部下の信頼は非常に厚い。
だから、その社長さえ消してしまえば瞬く間に崩れ落ちるだろう。
もちろん後継者が既にいるかもしれないが、今の部下たちは社長に絶対の信頼を置いているはずだから、引き継いだ後は当分の間売り上げがストップするはずだ。
「手取り早いのは社長を殺すこと」
だが、依頼主は別に当事者を恨んでいるわけでもない。
私も人の子だから、無益な殺生はするべきではないことを知っている。
そうなると、社長に記憶を無くさせる薬を飲ませるとか。財源を奪うとかか。
いや、強盗や不法侵入は証拠を残しやすい。
「とりあえず、もう少し情報が必要だ。ライバル社にスパイを送り込むことを提案しよう」
「ならば、君が行ってるか?」
雇い主から意外な返答が来た。
「いや、私はその会社に働くための技能を持ちあわせていないが」
「大丈夫だ。そこは裏の力を使わせてもらう。君はちょうど新入社員の年齢だしな。履歴者はこちらで用意しておこう」
裏の力。
そんなことができるのであれば、ライバル社の売り上げをストップさせるぐらいできそうだが。
世界はどこまでもブラックだな。利益のためならどんな汚い手段も厭わない。これじゃあ元いた場所となんら変わりない。本で読んだ外の世界は幻想に過ぎなかったのか。それともここもまだ完全な外の世界ではないなのか。
そんな疑問を持ったが、こちらとしては断る理由は特に見つからなかった。