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異人  作者: 蒼蕣
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偽りの敵対心

それから私は努力した。

あいつがいない今勝手に他の奴をライバルに担ぎ上げた。

あいつもなかなかやる。

Aランクに昇格して二年目だった気がするが、五年目の私の成績のすぐ後ろを距離を開けることなくついて来た。私が突き放そうと思えば、勇猛果敢に食らいついてくる。あいつの吸収力は凄まじいと思う。

あと二、三回受ければ私に追いつくか最悪追い抜かされるだろう。

彼自身は私のことなど眼中にないのだろうが、それまでに勝負を決めなければと私は焦っていた。

焦りは禁物とよくいうが、私の場合焦れば焦るほど集中力が高まっていると勝手に思っている。いや絶対そうだと自分に言い聞かせている。

龍興が去ってから三回卒業試験を受けた。

努力することを忘れてしまった私を追い抜いてどんどんと合格を叩き出したものは哀れるような瞳も私に向けずに去っていった。せめて私を蔑んでくれれば、私はその惨めな思いを、劣等感を糧にしてさらなる努力をしたことだったろう。

龍興がいなくなった時点で私が卒業に一番近い存在であった。それなのに私よりも遅くAランクに上がって来た新参者が私を追い越して、卒業していく。せめて私を踏み台にしてくれればと自分を嫌った。私はどれだけ注目されていないのだろうか。敵意の目を向けるものは誰もいなかった。彼らは自分のことしか頭にないはずなのに、誰もほかのものを蹴落として這い上がろうとはしなかった。人間らしくない。

合格者の人数は毎回異なる。

龍興が去った時は龍興だけが合格者だったが、ついこの間は六人も合格したと聞く。

それなのに私は選ばれなかった。

いい意味でも悪い意味でも注目されない。孤独というのがこんなにも苦しいことであると初めて痛感した。

今までは孤独と言いながらも勝手に人が集まっていた。

しかし今は本当に一人だ。

ナルシストばっかのこの施設では私の悩みを聞いてくれるものや、私の苦しみを察してくれるものもいない。

全て私一人でこなさなければならない。それが何よりも辛かった。他者とせめぎ合うことで自然と自分の腕にも磨きがかかる。一人で成し得ることは限られているのだ。

私は考えた。龍興のように自ら相手に歩み寄るのは個人的に気にくわない。

ならば勝手に龍興の代役を作り上げてしまえばいいと。

それがあいつだ。

あいつとは話したこともないが、どこか龍興と似ている、と勝手に思っている。

そして、私たちは見事卒業した。

人は単純だ。行動は感情に影響される。しかしその感情というのは自分の意思で簡単に操ることができる。

だから結果として行動も操ることができる。

他人を操るのは簡単だ。相手の感情を揺さ振れば、自分の手のひらで転がってくれる。

そして自分自身に特定の欲望を感じさせ、その欲望を満たすために自分の読み通りの働きを自分自身に与える。

こうすれば自ずと自分の望んだ未来は見えてくるのだ。

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