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異人  作者: 蒼蕣
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孤独

龍興が去って早一週間が過ぎた。

あいつの笑みが未だに頭の隅にこびりついている。

別にあいつがいなくなったところで自分の生活に何の影響もないと思っていたが、なぜかどこか寂しさを感じてしまう。哀愁漂う故郷を思い出すような感覚か。いや言ってみただけだ。故郷を思い出しても私は何も感じない。ただこの気持ちを何に例えたらいいか困ったので、使ってみただけだ。

いつものように一日の課題を自室で終わらせ、共同スペースで静かに過ごす。自室にじっと閉じこもっているのは性に合わない。別に息苦しいと感じるわけではないが、早々に退出しないといけないと心のどこかで思ってしまい、早く課題を片付けないと焦って身に入らないのだ。

いつもならあいつが私に話しかけてくる。カフェオレを飲んでいる。暇そうに見せるが、誰も気には止めてくれない。平和に感じるこの空間、頭上のスピーカーから流れてくる音楽が心を鎮めているからだろうか。しかし周りのやつの頭の中は常に犯罪計画のことでいっぱいなのだろう。

いつの間にかここ最近は自分の声を発することさえなくなっていた。

何もない一日を過ごす。こんなにも生きた心地がしない日々を過ごしたことはなかった。

DからBランクにいた時は生きるのに必死だった。

明日生きているかさえわからない日々を過ごしていた。

しかしAランクになった今何をせずとも明日明後日と生きてしまう。

自由で便利な生活というのは人間を怠けさせる。

もちろん自分の好きなことをやり、やりたくないことは機械や他の人に任せる生活というのは誰もが求めているだろう。

しかしそれもせいぜい一ヶ月と言ったところだろう。

一ヶ月もあれば、自分のやりたいことなど飽きるほどやれる。

しかしその後に待っているものは何だ。

外に行けないここではやりたいことも限られる。

一週間もあれば完遂できるだろう。

私は持て余した時間を龍興との何気ない対談で過ごして来た。

しかし本当にやることがなくなった今、生きることさえ心苦しく感じる。

生き物はやはり目的がなくては生きれない。か弱いな。


自分は成長しなかった。

三ヶ月後の卒業試験は不合格。それはいい。

だが、問題は点数は上がらなかったことだ。

やはり頼れるライバルという存在が少なからず影響したのだろう。

ライバルがいてこそあいつに負けまいと努力する。

しかし、誰とも切磋琢磨しない孤独の中では、いくら努力しても褒められることもなければ悔しがることもない。

一体なんのために勉強していたのだろう。卒業のためか。社会に戻るためか。普通の暮らしを得るためか。正直そんなことはどうでもよかった。卒業は仮の目標であった。社会に戻りたいかと言われると別にそうでもない。ただここにい続ければやがて処分される。それが嫌だから卒業を目指した。何より頼れるものが卒業を目指すのだから、自分もその後に続いた方が楽だ。そう思ったのだ。

心理カウンセラーが言った通りだ。

あいつが私には必要不可欠な存在だった。

それなのに、引き止めなかった。

今更悔やんでももう遅い。

あいつはもう本当の自由を求めて私のはるか先を歩み始めた。

あいつが踵を返して私をこの呪縛から出してくれることはないだろう。

しかしあいつは言っていた。待っていると。

なら私はあいつが手を差し伸べてくれるところまで、足を進める。自分の力で。

先人が敷いたレールに乗り、そのレールを走る龍興という機関車にただ引っ張られるだけではもういけない。自分も動力を得なければ、このレールの果てにはたどり着けない。

それしか今はやることがない。

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