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異人  作者: 蒼蕣
11/59

卒業

「おい、見ろよ!」

突然私の部屋にノックなしに入って来た無礼者がいた。

「これ!」

読んでいたページにしおりを挟み、本を閉じた。

そして振り返ると同時に、紙を鼻につきそうなほどの距離に見せて来た。

「突然なんだ」

もちろんそんなことをする奴は龍興しかいない。

「見ろよ!」

いやにテンションが高かった。

「そんな近くで見えるわけないだろ」

「ああ、悪い」

ぼんやりとした紙に徐々に文字が見えてきた。

そこに赤い文字で合格と書かれていた。

「お前…」

「どうだすごいだろ」

龍興は満面の笑みを浮かべていた。

「よかったな」

一瞬目を見開いたが、すぐに通常の目に戻した。

「何だ。そんだけか? いや実は悔しいんだろ」

「別に」

「よっしゃあこれでようやく社会に出られる!」

龍興は両手に拳を作り、ガッツポーズをした。

「よかったな」

もう一度言った。

「ああ、これでようやく卒業だ。長かった」

「五年目だったか」

「ええ〜と、まあ五年目の三回目だな」

「よかったな」

「それしか言わねえのか。僻んでんのか? 頭が悪そうな俺に先を越されて。まあ、お前も俺がいなくなって悲しいんだろ。安心しろ、向こうで待ってる」

「…」

この気持ちは悲しいんだろうか。それとも嬉しいんだろうか。何とも言えない。

「番号BG4051、明後日の朝だ。いいな」

看守が後ろから呼びかけた。

「おう、て言っても準備するものなんてねえけどな」

大げさに笑っている龍興ははたから見れば羨ましい、いや恨めしい存在なのだろう。

「犯罪を計画したら卒業…」

「なんだ。やっぱり悔しいのか、俺に負けて」

いつもより上機嫌なせいか、肩を叩いてくる力がいつもより強く感じた。

「別に。私たちは思想が危険だからここに収監された。でもここでさらにその思想を深め、限界に達するとここから出られる」

「ん、何が言いたいんだ?」

「いや、別に。普通矯正するんじゃないのかと思って」

「ま、確かにな。このまま俺が社会へ出て犯罪を起こすかもわからない。まあ、でもここは完全犯罪計画所だ。その言葉通り、完全犯罪を計画したら用済みだってことだろ。そんじゃ」

龍興は久方ぶりに外に出る子犬のようにはしゃいでいた。

そのままはしゃぎすぎてどこかに頭ぶつければいいのに、と一瞬思ってしまってことは私も彼を妬んでいるのだろうか。

そしてご満悦な龍興を尻目に、私は彼の”用済み”という言葉が頭の中でこだました。

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