完璧
「今日だろ、克」
「ああ」
「緊張してるか」
「いや、別に」
今日は私の卒業試験の結果発表の日である。
Aランクの試験は他のランクの試験より時間がかかり、なおかつAランクは五十人以上いるので、三日間に分かれて審査される。
今回の私の試験番号は三十二。一日に二十人程度採点されると換算して、私の結果が発表されるのは二日目だと予想できる。
「本当か? お前もう四年も卒業できてないんだろ」
共有スペースの二人がけソファ。目の前には椅子が二席並んである。
私は二人がけのソファの中央に座っていたのに、龍興が知りで私を強引に押し込んで空いたスペースに座り込んで来た。
「お前だって同じだろ。それにまだあと二十年以上ある」
「油断大敵って言葉を知らねえのか。そうやっていつか合格するだろうと軽んじて死んだ奴を何人も見て来ただろ」
私は手に持ったコーヒーを一口すすった。
「別に油断してない。ただ、人は失敗から学ぶ生き物だ。この前の失敗から何がダメだったかを分析して改善する。それが改善されていればいいだけだ。そしたらいつかは完璧に近い犯罪計画を作れる」
「だが、よく言うじゃねえか。改善したと思ったら新たな問題が浮上するって。その繰り返しだと」
「だから、言ったんだ。完璧に”近い”計画だと。完璧なんて存在しない。それは人の価値観が違うからだ」
「価値観ねえ」
「自分が完璧だと思っても、他人から見たら何かしらの不備を感じる」
私は龍興の方に視線を移した。
「自分が作るものには全て自信があってこそだ。その自信が逆に自分の視野を狭めて不備に気づかない」
「自信ねえ」
曖昧な相槌を打つ龍興。自分の言っていることに賛同できないのかもしれない。しかしそれもまた価値観の違いがあるからこそ。
「別に人に価値観の違いがあることが悪いって言っているわけじゃない。価値観の違いがあるからこそ、互いを助け合い、互いを愛することができる」
「でも、それと同時に負の感情も芽生える。それが人を傷つけ、命を奪う」
「だから言っただろ、この世に完璧なんて存在しない。ありもしない完璧を求めて人間は日々精進する。愚かに見えるか」
「いや、実際俺たちもそうだからな。何も言えねえだろ」
「そうだな。たとえ社会にいなくとも私たちは同じ人間。社会にいるやつらを蔑んでも、結果的にそれは私たち自身を蔑んでいるのと同じだ」
「なんか、深いな」
「こんなこと、議論しててもキリがない」
「番号三十二番」
共同スペースにいた私たちも耳に看守の声が響いた。
「ほれ、不合格だ」
吐き捨てるように言い放ち、私の前に紙を置いた。
「残念だったな」
龍興が私の肩を軽く叩いた。
「まあいいさ。この前より点数が上がっている」
そう、私たちは常に完璧を求めて生きている。逆に言えば完璧を作り上げた時、私たちは死ぬのだろうか。
きっとそうだ。私たちは目的を失ってしまうと生きることに絶望してしまう脆い生き物なのだ。