表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/416

麗子の秘密

 その日、翔は朝一番にかかってきた麗子の電話で目を覚まし、日魔連事務所へと顔を出していた。


 普段であれば、すでに学校に登校している時間帯。しかし、学校に話は通しておいたからすぐに来て欲しいという麗子の言葉に従って、翔は事務所に足を運んでいたのだ。


「学校を休むのは二度目だし今更なんだけど、麗子さんの声、有無を言わさない迫力があった......なんかあったのか?」


 翔の知る麗子はどんな時でも冷静沈着、熱くなる時も誰かを叱責する時に限るといった性格だ。その麗子が無意識のうちにプレッシャーを振りまくとはどういった状況なのか。


 言葉こそ落ち着いていた翔だが、実態は麗子の態度につられ、はやる気持ちで事務所を訪れていた。


「来たわね。ごめんなさい、朝早くから呼び出してしまって」


「いえ、大丈夫です。悪魔関連の呼び出しで、悪魔殺しが応じないわけにはいかないですから。

 ......いや、やっぱり学校の成績は大丈夫じゃないかもしれません」


「ふふ、素直なのはいいことよ。最悪の場合はそっちの問題も解決できるかもしれないのだけど、まずは呼び出した理由を話さないとね」


 事務所の扉を開くと、すでに麗子が準備万端の様子で椅子に腰かけていた。今日は他のメンバーの姿は無い。


「まずは、この写真を見てもらえるかしら?」


「えっと......これって最近人気な、人が中に入って斜面を転がるボールの巨大バージョンとかではもちろんないんですよね?」


 手渡された写真、そこには周りの樹木をはるかに超えた大きさを誇る、赤色の半球が映し出されていた。


「もちろんよ。そんな冗談のために悪魔殺しを呼び出す奴がいたら、半殺しにされても文句は言えないわ」


「ですよね......ってことは」


「えぇ。これは悪魔の仕業。50位の血の悪魔、それもおそらく魔王の仕業よ」


「50位......それだけ強いってことですよね?」


 麗子から聞かされた数字、それは力の大半を失った状態での特別な顕現(けんげん)法だった28位、剣の悪魔を除いて、72、71、番外と、言ってみれば今まで幸運にも下位国家としか出会うことがなかった翔からしてみれば、未知の順位だった。


「そうね。71位の知識の国はいろんな意味で特別だけど、他の下位国家と比べたら比較にならないほどの実力を持った国と言えるわ」


「そいつがすでに顕現(けんげん)していて、もう被害が出始めている。そういう認識でいいんですよね?」


「話が早くて助かるわ。場所はルーマニア、翔君にはそこに向かってもらって、現地の悪魔殺し達と協力して、血の悪魔を討伐してほしいの」


「50位の魔王を討伐ですか......俺なんかが参加して、役に立てますかね?」


 麗子からの頼みに、翔は思わず腕を組み(うな)り声をあげる。


 翔もなにも、自分の命惜しさに悪魔討伐に向かう向かわないで悩んでいるわけではない。今、彼の脳裏をよぎるのは、まだ記憶に新しい、国外代表、選択のウィローとの戦闘だ。


 あの時、翔ははっきり言っていらない存在だった。マルティナの負傷によって結果的に討伐の補助をすることになったが、万全の彼女であれば、全てを自分一人でこなし、見事悪魔を討伐していたはずである。


 そして、無事悪魔を討伐した喜びの裏で、翔は猪武者(いのししむしゃ)の真似事しか出来ない自分の現状に歯噛みしていたのだ。


 果たして自分が血の悪魔の討伐で役に立てるのか。マルティナの時のように余計な確執(かくしつ)を作るだけで、討伐隊の足を引っ張ってしまうのではないか、そんなことを考えていたのだ。


「確かに厳しい戦いになると思うわ。けれど、これは翔君にしか頼めないことなの」


「俺にしか頼めない?」


「えぇ。翔君は、吸血鬼伝説を知っているかしら?」


「そりゃ......血を吸った相手を吸血鬼に変えてしまうとか、やたら弱点が多いとかの最低限の知識でよければ......」


「それで大丈夫よ。私が聞きたかった所はまさにそこ。血を吸った相手を同族に変化させるってところだから」


「えっ?」


「翔君、少し考えてみて。さっきの話を魔法に置き換えたら、どうなるかを」


「血を吸った相手を同族に変える......契約魔法?いや、全く別の物に変えるんだから変化魔法か?」


「もしくは、吸い切った後の死体を使うだけなら召喚魔法ね。でもほとんど正解よ」


「あっ、その可能性もあるのか......参考になりました。けど、この話しがどうして俺にしか頼めないって話に繋がるんですか?」


 翔としても、相手になるかもしれない血の悪魔の能力の一端を知ることには何の疑問もなかった。


 しかし、その能力を知った上で、どうして自分が血の悪魔との戦いに適任なのか、納得がいかなかったのだ。


 むしろ、血を吸って力を得るような相手に、接近戦主体の自分は不利な戦いを強いられる(はず)だとも思っていた。


「単純な話しよ。魔法で、望まない相手を服従させるにはどうすればいいと思う?もちろん相手も魔法使い。魔法で防御してくる前提よ」


「えっと......防御をすり抜ける特別な魔法とかが無いなら、相手の魔力の防御を貫くほどの魔力で、無理やり突破するしかないんじゃないですか?」


「その通り。そして、この攻撃側と防御側の立場を入れ替えて、防御側を翔君と想定したらどうかしら?」


「そうか!俺って、魔力だけは無駄にたくさんあるから、操られる心配が少ないのか!」


 麗子の説明のおかげで、ようやく翔も合点がいった。自分の戦法は、どうやっても相手に血を吸わせてしまうことになる。


 けれど、その後の洗脳に抗えるほどの魔力がある翔なら、血の悪魔にとってはこれ以上ないほど、鬱陶(うっとう)しい前衛になるだろう。


「気付いたみたいね。今回、翔君に頼みたいのは陽動(ようどう)役なの。血の悪魔や眷属(けんぞく)相手に接近戦を行える戦闘力。そして、その際に相手の魔法を貰っても、(あらが)うことができる魔力が、協力者に求められた能力なのよ」


「やっとわかりました。それなら自分でも力になれると思います」


「それは何よりよ。それじゃあ、今日中に飛行機でフランスに向かってもらうけれどいいかしら?」


「フランスですか?ルーマニアじゃなくて?」


 乗り継ぎなどはよく分からないが、それにしたって麗子が向かう場所は、最終目的地のルーマニアと言うはずだ。


「えぇ。そこに今回の協力者がいるの。まずはその協力者と合流してもらうことになるわ。情報は以上よ」


「あっ、そりゃそうか。了解です......勝ってきます」


「ありがとう。任せたわね」


 全ての情報を聞き終えた翔は、胸を張って麗子に対して勝利宣言をした。


 何の根拠もないその宣言は、けれど彼の成功させてみせるという強い信念の元で、とても頼もしいものへと変化し、少なからず麗子の心を打った。


「これで、血の悪魔についての話しは終わりだけど、弾丸旅行の準備の前に、もう一つだけお話しを聞いてもらってもいいかしら?」


 本来は、もう少しだけ人魔大戦が進行してから話すつもりだった一つの話。


 もしかすれば、この後の強敵との戦いに支障をきたしてしまうかもしれないお話。


 けれど翔の力強い勝利宣言と、あの日、ダンタリアによって、漏れてしまった麗子の秘密。後で話すと自分で言ったからには、いつまでも先延ばしにしてしまうことこそ、最大の不義理(ふぎり)であると麗子は感じていた。


「いいですよ。何ですか?」


 もちろん翔は疑問を感じることなく、ノータイムで頷いてくれた。


「翔君、私がマルティナちゃんとの決闘の前にした話、覚えているかしら?」


「えっ......えっ、えーっと。あっ、あの魔力の件ですか!」


「そう、その件よ」


 麗子は翔が覚えていたことを喜び、にっこりとほほ笑んだ。


 マルティナとの決闘前、翔はあの時、マルティナの数を操る始祖魔法への対抗策として、魔力を目で認識できる身体になっていた。それによって、彼はダンタリアを通して、悪魔の特徴を目で確認していたのだ。


 人間は魔法を使用すると、魂から魔力が漏れて、それが魔力として確認できる。


 ならなぜ、魔法を使用していなければ魔力を認識できないのか。それは、肉体を魔力で構築する必要が無いためである。


 話を悪魔に戻そう。悪魔は顕現のために魔力で仮の肉体を形成する。するとどうなるか。肉体を維持するために、常に魔力が微量に漏れ出すことになるのだ。


 ダンタリアは煙のような薄い魔力を常に身体から放っていた。それと非常に似通った魔力が、あの時麗子からも放出されていたのだ。


「単刀直入に言うわね。実は私、悪魔なの」


「えっ......ええぇぇぇ!!!?」


 そう宣言する麗子の顔は、変わらずにこやかな笑顔だった。

次回更新は2/13の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ