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再会からの急転直下

 ラウラが迫る脅威に頭を巡らせている頃、とある少年と少女が再開を喜び、話しを(はず)ませていた。


「そう。私のいない間にそんなことが起こっていたのね」


「神崎さんこそ新しく神様と契約できたんだろ。凄いじゃないか」


武速須佐(タケハヤスサ)之男命(ノオノミコト)様のおかげよ。私の功績じゃないわ」


「それでもさ。これで神崎さんはもっと強くなった」


「そうかしら?」


「そうだよ」


 一カ月の期間を空けて再開を果たした翔と姫野、二人はお互いにいなかった期間の事を話しながら、薄明りに照らされた本棚の森を歩いていた。


 場所は知識の魔王、継承のダンタリアが生み出した図書館。翔は快復の報告に、姫野は初めての挨拶に、それぞれの目的でダンタリアに会いに来たのだ。


 歩くこと数十秒、翔が初めてあった頃と変わらぬ様子で、湯気の立つティーカップを片手に優雅に本を読む魔王の姿がそこにはあった。


「よく来たね。少年は退院おめでとう。そして君が日魔連の秘蔵(ひぞ)っ子かな?」


パタリと本を閉じたダンタリアが、二人を見て話しかけた。


「お初にお目にかかります。知識の魔王、継承のダンタリア様。お会いできて光栄です」


「こちらこそ、(くび)り姫。君を眺められること、楽しみにしていたよ」


 悪魔殺しと悪魔の対面であるにもかかわらず、和やかな雰囲気が流れる空間、不穏な空気を出すのはダンタリアの姫野への呼び方が気に入らなかった翔だけだ。


「仕方ないだろう。悪魔がニンゲンを名前で呼ぶのは、自分の格を下げる行為だと嫌われるんだ。ラウラレベルのニンゲンならそんなことも無いんだけどね」


 ダンタリアも翔の態度と理由には気付いていたようで、苦笑しながら弁明した。


「だからって、もっと他の呼び方があるだろ?(くび)りなんて物騒な言葉を使わずに、ただ巫女さんって言うとかさ」


「それだと大多数と呼称が被ってしまうじゃないか。いくらニンゲン相手と言えどそのような行為は失礼にあたる」


「おい......なら俺の少年呼びだの、マルティナの悪魔祓い呼びだのは、失礼な行為に当たるんじゃねぇのか?」


「ふふっ、バレてしまった。失敬失敬」


「こんのっ!お前ってやつは!」


 結局ダンタリアがそう呼びたいから、そう呼んだだけなのだろう。知識面において人類に大きく貢献してくれる彼女であるが、所々で人を小馬鹿にするところはまさしく悪魔だった。


「天原君、私は別に気にしていないから大丈夫よ」


「神崎さん、でも!」


「呼び方なんて他人からの評価に過ぎないわ。どんな呼ばれ方をしようとも、私の本質は変わらないもの」


「ふふっ、達観しているね。後はもう少し欲望があれば、私の国に国民として迎え入れてあげるんだが」


「それは......ありがとうございます?」


「多くを求めることだ。良き道、悪き道の関係なく前に進み続けられるのがニンゲンの良さだからね。   

 現状維持と停滞を()とする、あのいけ好かない奴らにもこれくらいの姿勢が_」


「だぁー!神崎さんの呼び方についてはもういい!挨拶は終わったんだ。何も無いんならもう帰らせてもらうぞ!」


 何やら脱線を始めた会話を、翔は強引に終わらせた。こうでもしなければダンタリアの話しはずるずると続く。


 そのことが、この短い付き合いの間に身に染みて分かっていたからだった。


「ふむ、確かに私にこれ以上の用事は無いが、これだけだといささか味気ない。さて......」


「挨拶如きにスパイスを求めてんじゃねーよ。そんなに味気が欲しいなら、今度から塩でも舐めながら会話してろ」


 学生の身分である翔としては、明日の登校に備えてさっさと帰宅したかった。


 ただでさえ翔はマルティナとの決闘騒動によって、成績だけでなく出席日数すらも危うい状況なのだ。これまで以上に真面目に授業を受けなければ、いよいよ留年が現実味を帯びてくる。


 大悟と凛花に先輩面された日には憤死する。


「ふふっ、それはそれで面白い経験になりそうだが......

 あぁ、そうだ。少年、君は(くび)り姫と決闘をしたことはあるかい?」


「決闘?あるわけねーだろ。

 そもそも悪魔殺し同士の決闘なんて、まず起こることが無いだろ。マルティナが特別だっただけだ」


「そうね。天原君と戦ったことは無いわ」


「なら好都合だね。決闘は多くを学ぶことが出来る。相手の戦法、同系統の魔法使いと戦う時の立ち回り、共闘する時のベストな立ち位置が分かるようになる。

 せっかくだし、ここで戦ってみたらいいじゃないか」


「ちょちょ、ちょっと待て!俺と神崎さんじゃ、マルティナ以上に戦う理由が無いだろ!

 それにもし、こんなくだらない決闘で致命傷なんかを負ったらどうするんだよ!?身体の傷は治せても、消費する魔力は簡単には回復しないんだぞ!」


「そうね。もし二人共消耗した状態で、悪魔が出現したら取り返しのつかないことになる。さすがにその申し出には(うなづ)けません」


 ダンタリアの突然の思いつきに、二人は揃って否定意見を述べた。


 確かに多くの魔法を扱う契約魔法使いである姫野との戦いは翔を、高い機動性能を持つ近距離特化の翔との戦いは姫野をそれぞれ成長させてくれるかもしれないが、それに伴うリスクがいくら何でも大きすぎる。


「なるほど、それもそうだ」


 ダンタリアの言葉に、二人は胸を撫でおろす。


 けれど、この時翔は忘れていた。目の前の悪魔は、神魔の時代から生きる、老獪(ろうかい)さでは他の追随を許さない化け物であること。


 そして、決闘騒動を引き起こした諸悪の根源が誰であったかということを。


「なら魔力を消費せず、怪我をしない決闘ならば問題ないというわけだ」


「はっ?」


「えっ?」


 呆気にとられる二人を横目にダンタリアが杖を振る。すると、ポンッと手のひらサイズの禍々しい(わら)人形が、彼女の手元に出現した。


 そして、ダンタリアはプチッと自分の髪の毛を引っこ抜くと、一本ずつ(わら)人形に埋め込んだ。その瞬間、人形から紫の光が漏れ出す。


「名前は(やく)流し。持ち主の災厄(さいやく)、この場合は負傷だね。それを魔法をかけた相手に押し付ける契約魔法だ。

 これを一つずつ渡して決闘をしてもらい、破壊された方が負けとしようじゃないか。それなら文句は無いだろう?」


 ニコニコと決闘のルールを説明し始めるダンタリア。翔はようやくダンタリアに()められたことに気付いた。


「ぐっ、このっ、お前......最初からこの流れを狙ってやがったなぁ!」


「何のことだい?

 あぁ、そうそう、君達が消費する魔力も、私が受け持つから安心していいよ。

 私の髪の毛一本分の魔力が消費されるまでが決闘のリミットだ。さぁ、存分に学びたまえ」


 もはや逃げ道は存在しなかったが、それでも翔はどうにか決闘を回避しようと言い訳を探す。しかし、聡明な姫野が首を横に振ったことで、あきらめるしかないと悟った。


「天原君、私達が不用意だったのが悪かったわ。決闘を受けましょう」


「神崎さん......」


「それに継承様が言った通り、この決闘は学べる点が多くある。今後私達が一緒に戦っていくためには必要なことと割り切りましょう?」


「......そうだな。せっかくあの野郎がオゴリで魔力を使わせてくれるって言うんだ。神崎さんの新しく手に入れた魔法、見せてくれよ!」


「覚悟は決まったようだね」


 ダンタリアは二人に人形を投げ渡すと、パチンと指を弾いた。それに合わせて、本棚やテーブルが動き出し、決闘するにはもってこいの大きな空間が出来上がる。


 翔は木刀を生み出して、姫野は翔から距離をとった。


「さぁ、私の記憶に刻まれるような、華々しい決闘を見せてくれ!」


「散々それっぽいこと言っておいて、結局はてめぇの私欲じゃねぇかあぁぁ!」


ダンタリアの勝手に巻き込まれた怒りを膂力(りょりょく)へと変え、翔は姫野へと駆け出すのだった。


 ダンタリアの呼び方は、彼女の評価の差です。

 ラウラや大熊などの実力者は本名を。姫野などの評価に値する項目のある者は個人を指すあだ名を。翔やマルティナなどのもう一歩の者は広い意味のあだ名を。それ未満はニンゲン呼びになります。


次回更新は1/24の予定です。

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