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勘違い系ショートコント

「おーし、ちゃんとやってるな! 明日もその調子で頑張るように。ご苦労さん」


 終了時刻の数分前に、汗を流した男性教師が戻ってきたことで、補修は終了となった。


 翔はあの後なんとか宿題を終わらせ、答え合わせと復習までたどり着いたが、結果は見るまでもなく惨敗であった。


 むしろ姫野以外は惨敗だったということで、最終的には彼女による英語講座へと様変わりしていた。


 悪魔と戦うための過酷な修行や拒否できない引っ越し、そして戦いそのものを繰り返している彼女が、どうしてこんなに勉強が出来るのかが翔には理解できなかったが、次回の試験の絶望感によってそんなことは頭からすっぽり抜け落ちていた。


「ふー、やっと終わったな。やっぱり英語はどうにも頭に入らないな」


 大悟がコキコキと首を鳴らして伸びをする。やりきった雰囲気を出しているが、宿題の正答率を考えると、来期も補修に参加しているのは間違いない。


「お前はどの授業でも、頭に入らずに耳から抜け落ちてくだろうが」


 そんな空気に我慢が出来ず、翔が突っ込みを入れる。


「はいはい、ブーメランが刺さってますよ~っと。昨日と違って補習延長にならなかったし、今日はどっか寄ってかない? 神崎さんも良ければどう?」


 凛花がこの機会に仲良くなっておきたいと思ったのだろう、姫野にも声をかける。


「ごめんなさい、この後予定があるので」


 しかし、この後姫野は翔と共に悪魔捜索のパトロールが控えている。


 仮に本当に行きたいと思っていても、遊びと世界を天秤にかけたら世界を取らざるを得ないに決まっている。


 きっと姫野はこういった場面で何度も世界を選んできたのだろう。せめて、今回の事件が落ち着いたら自分の方からも遊びに誘ってみてもいいかもしれないと思った。


「そっかー、それじゃあ残念だけどまた今度ってことで」


 そして、自分も今日は体調が優れないと言って二人と別れ、どうにか姫野と合流しなければと翔は考えていた。


「ええ、良ければまた誘ってください。それでは()()()()()()()行きましょう、天原君」


 その一言によって空気が凍った。


 姫野は突然目を見開いて動作停止した三人に気付き、自分が何かしてしまったかと三人の顔をキョロキョロ交互に見回す。


「あー、神崎さんは何も悪くないからちょーっと待っててね。......さーて、説明してもらおうかな天原君? まさか私との約束を破ってやってたことが、デートなんて言わないよねぇ......?」


 凛花が迫力のある笑顔で翔へと近づき、肩に手をポンと置いた。


「翔、大丈夫だ。せめて苦しまないように安らかに送ってやる」


 大悟が憐憫(れんびん)の籠った目を翔に向けて、もう片方の肩に手を置く。


「嫌だなぁ......落ち着けって二人とも。俺がまさか別の用事のために凛花との約束をすっぽかすわけないだろ? ......俺達の絆は鉄より硬いじゃないか! ......なんで少しずつ手に力を籠めるんだ二人とも? 凛花はともかく大悟の握力で掴まれたら、痛だだだだ! わかった、話すから! 話すからさっさと手から力を抜いてくれえぇぇ!」


__________________________________________________________


「つまり? 帰り道の途中で神崎さんがナンパにあってる所を見かけて? 助けて家まで送る途中で神崎さんが家と学校とスーパーを回るだけの生活をしているのを聞いて? この学校にいる間だけでも楽しい思い出を作ってほしいと思って、町の案内をすることになったってこと?」


「そうだよ。ナンパをあしらったり、神崎さんの生活に驚いたりしてたせいで、凛花との約束がすっぽ抜けちまってた。それについては本当に悪かったよ」


「ふ~ん。裁判官どう思います?」


「まぁ、当事者の神崎さんが頷いてるし、信じてもいいんじゃないか? 元々が事故から始まった話みたいだしな」


 その後、針のむしろ状態になりながらも、二人から一応の納得を貰える言い訳を翔は話しきった。


 突発的な事態ゆえに信憑性が怪しい内容になってしまったが、場の空気がまずいということが姫野にも理解できたのだろう。


 翔の話す内容を全て肯定してくれたおかげで嘘を貫き通すことが出来た。


「じゃあ翔は、この後神崎さんに町を案内するんだよね」


「あぁ」


 どうにか、誤魔化せそうだ。翔が一息つこうとした瞬間だった。


「それって私達も一緒じゃ駄目なの?」


「はっ?」


 凛花がとんでもないことを口にしたのだ。


「案内って言ったって、翔だけじゃデパートとかおいしいお店は紹介できても、服とかアクセサリーショップとかわかんないでしょ? それなら私達も一緒になって回った方がいいじゃん」


「ぐぬっ」


 普段の凛花からは考えられないほどの論理的な意見だ。それゆえ、翔も下手な言葉を返せない。


 一体どうして、いきなり町巡りに積極性を出したのか。気になった翔が凛花の顔を見る。すると、彼女の顔は一目見て悪だくみをしていると分かるほどにやけていた。


(こいつ! 俺と神崎さんがこの後デートする気だと勘違いしてやがる!)


 凛花は約束をすっぽかされた仕返しをしているつもりなのだろうが、翔としては悪魔が絡むかもしれない場所に、二人を連れて行くわけにはいかない。


「い、いや......今回の案内はグルメ系中心にするつもりだからさ......だから今度は一緒に頼むよ」


「えー、そんなこと言わずに、私を連れて行った方がいいと思うけどなぁー? 翔が知らない女の子が楽しめる場所を、いっぱい案内してあげるのにぃ~」


(うぜぇ!)


 よほど昨日のことを根に持っているのか、今日の凛花のしつこさは筋金入りだった。


 翔自身、物騒な事件が頻発している中で音信不通まがいのことをしてしまった自分が悪いということは重々承知している。


 しかし、あんな怒涛のハプニングに襲われたら、誰だってそうなるだろと弱音を吐きたくもなる。


「えーと......結城さん。気持ちは嬉しいし、あなたとも仲良くしたいと思ってるわ。だけど今日は天原君と二人きりにしてもらえないかしら?」


「へぇー......昨日一日で随分と意気投合したんだねぇ?」


 姫野が助け舟を出したが、これまた言葉が悪い。凛花の勘違いが加速していく。


 もはや口裂け女かと思うほどのにやけ面になった彼女から、どんな言葉が飛び出すのかと悲壮感に包まれていた翔であったが、思わぬ場所から助け舟がもう一隻出港した。


「そんくらいにしとけ。翔のアホはともかく、神崎さんにも迷惑が掛かってるだろ」


 今まで事態を見守っていた大悟が口を挟み、凛花の(えり)を持ち上げ、無理矢理ストップをかけたのだ。


「きゅっ!? けほっ、けほっ、もう大悟! 確かに言い過ぎたかもだけど、JKにそれはあんまりでしょ!」


「すぐにでも神崎さんが遠方に引っ越しちまうわけでも無いんだ。今日くらい翔に譲ってやってもいいだろ?」


「はいはい、わかりましたよ。ごめんね神崎さん、からかいすぎちゃった」


「気にしてないわ。むしろこんな形で和気あいあいと話すことも少なかったから楽しかった」


「よかった。それじゃあこれからよろしくね」


「えぇ」


「それじゃあ、俺達は先に帰るわ」


「ああ、わかった」


「二人っきりにしてやったんだ。結果はしっかりと聞かせろよ」


 別れ際に大悟がこっそりと耳打ちし、にやりと笑うと凛花を引っ張って教室から出て行った。


「......いや、お前もデートと勘違いしてるじゃねぇか」


 誰に言うわけでも無く、翔はツッコミを入れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大戦の設定。神と悪魔と人間の歴史。これからどのような展開になっていくのか楽しみになってきます。 [一言] ここまで読みました。
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