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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第二章 永劫中立の継承者

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正義対するは、また正義 その八

 降り注ぐ衝撃の流星群が、ウィローに襲いかかる。


 一つを(かわ)し、一つを受け止める。されど元々が複製物、その行為によって飛来する衝撃の数が減じるわけではない。さらに防御するため足を止めたウィローの胴体に二度目の流星が飛来し、その無機物の身体を大きく(へこ)ませる。


「ぐおぉぉぉ! おのれぇぇ! 再選択(リセット)!」


 このままでは一方的に(なぶ)られ続けるだけ。ならばとウィローは、虎の子の根源魔法再選択(リセット)を発動してその場からの離脱を図る。


「こ、これでっ......!?」


 爆心地から一番離れていた選択へと転移を果たしたウィロー。しかし、置換された直後に大きくバランスを崩し、倒れ込んでしまう。何事かと自分の身体を見回すウィロー。


「ありえぬ!」


 そうして気付く。己の左半身が(へこ)みを通り越して、大きくひしゃげていた事に。


 万能に思える再選択(リセット)だが、一点のみ致命的な弱みが存在する。それは選択以前の苦痛を置き去りに出来る代わりに、新たな選択肢が()め込んでいた負債(ふさい)を背負わなければいけないという制約。


 そう、こちらの選択肢が辿った戦闘の軌跡は、以前の選択以上に壮絶で悲惨な道筋だったのだ。


「があぁぁぁぁ!? 神に尻尾を振る(いや)しき(めす)と、決闘相手と平気で手を取り合う(おす)! どうせどこかの戦いの(つゆ)と消える分際で、なぜ私の邪魔をする!? 貴様らの最後の仕事は、私の名誉の一助(いちじょ)となる事であろうが! それが、なぜここまで邪魔をするうぅぅ!」


「はっ! 簡単に飲み込める雑魚(ざこ)かと思っていたら、喉に小骨でも引っかけたか? (さば)かれる食材にだって、プライドはあるんだよ!」


「そんなに人を見下す事が好きなのなら、さぞかし下に見られるのは嫌なんでしょうね! 同じ悪魔祓い(エクソシスト)に二度も無様に負けた悪魔として、魔界の底の底に叩き返してやるわ!」


 翔が初動で使用した突撃は、言ってしまえば擬翼の出力のみに頼った単純な突撃だ。


 そしてそのおかげで、翔には奥義を使用するだけの魔力が残されている。並みの魔法使いでは無いからこそ、悪魔が相手だというのに、魔力量に幅を利かせたゴリ押しが選択出来る。ウィローは再選択(リセット)を使用した上での負傷状態。絶好の機会だった。


「マルティナ!」


「わかってるわ!」


 翔は再上昇する事無く、地面との水平飛行で追撃を選択。マルティナも掛け声に合わせて、超加速の複製体を数十体作り出す。


「ぐうぅぅぅ! このっ! 再選択(リセット)オォォォ!」


 先ほどマルティナとの激しい空中戦を繰り広げた翔からすれば、複製した衝撃の数を()()()と感じただろう。


 けれど、それは突撃に真正面からぶつかれる場合の話だ。無機物の硬質な身体を持っているとはいえ、ウィローは契約魔法特化タイプ。裏工作によって、戦闘以前に勝利を掴む暗躍型の悪魔だ。


 そんなウィローでは、たった一つの衝撃すら致命的。そして再選択(リセット)は望んだ地点に転移出来る魔法ではない。こんな無差別な破壊の嵐が巻き起こる場所では、どこに飛んでも破壊から逃れられない。


「くっ! ぬうぅっ!」


 目についた選択肢に半ば逃げ込むような形で転移したウィロー。しかし、こちらの選択肢も先ほどに負けず劣らず、すでに重傷を負っている選択肢だった。先ほどと異なり腕こそ無事であったが、脚部が上からの圧力によって完全に潰されていたのだ。


「ごぼおあぁぁぁ!?」


 そんな状態の身体で回避など出来る筈もなく、複製された衝撃の一発が頭部に直撃し、無様な声を上げながら後方に吹き飛ばされる。


「ごっ......がごっ......」


 何とか起き上がるウィロー。けれど目盛盤を模した頭部は後ろへ大きくねじ曲がり、潰れた脚部も相まってプレス機に押し潰されたスクラップのような姿になっていた。もはやウィローには外見同様、心にも余裕などありはしない。


「こんな、こんな開幕したばかりの人魔大戦で脱落など......そんなことが、許されるわけが......!」


 国家所属の悪魔でさえ、こんな序盤で脱落となったら無能のそしりを免れない。下手をすれば国からの追放、最悪の場合、粛清(しゅくせい)だってあり得なくはないのだ。


 そんな状況下で国外代表(アウターナンバー)のウィローが脱落しようものなら、魔界に戻った瞬間に周囲の悪魔やそれ以下に群がられ、()()()にされてしまう。


 その可能性が頭をよぎった瞬間、ウィローの心を死の恐怖が包み込んだ。


「アアアァァァァッ! 多重平行再選択(グランドリセット)ォォォ!」


 もはや幾分(いくぶん)猶予(ゆうよ)も無い。切り札の露呈(ろてい)と存在の消滅とを天秤(てんびん)にかけては、選択も何も無かった。


「......分裂した?」


 突撃から体勢を立て直した翔が目にしたのは、いきなり増殖を始めたウィローの姿だった。いずれのウィローもどこかしらに大なり小なり傷を負っていたが、そのどれもが同量の魔力を(まと)って今まで以上の殺意を向けていた。


 そして、その数は今も増大している。


「アレもなりふり構っていられなくなったって事よ。他に気になる事は?」


 少しでも魔力を節約したいマルティナが、翔の目を頼って周囲の状況説明を求める。


「あいつら、どれも魔力量が一緒だ。それに......魔力がすごい勢いで霧散(むさん)していってる!」


 ウィローはもはや目で数えるのは難しい数まで増殖していた。けれど、並行してどのウィローも急激に魔力を消耗していた。


「なら簡単じゃない。これを突破できれば私達の勝ちよ!」


 マルティナの言葉に反応したのか、それとも準備が整ったのか。地上のウィロー達が翔達に向けて、一斉に腕の発射口を向けた。


「「「死ねぇぇぇ!」」」


 重なった叫び声と共に、大量の長針が発射される。


「飛ばすぞ!」


 瞬時に擬翼(ぎよく)の出力を上げた翔が、高空へと飛び上がる。


 これだけの頭数がいながら、ウィローの攻撃は全て翔を素直に狙ったものだった。偏差射撃が無いのであれば、わざわざ仕掛けずウィローの自滅を待てばいい。


「っ!? 左に避けなさい!」


 そんな我慢比べの覚悟を決めていた翔だが、マルティナの警告によって異常に気付く。


「えっ、っ! なっ、なんだこれ!?」


 長針は全て翔を直接狙っていた筈だった。その事実に関らず、突如(とつじょ)として翔の真下に長針がいくつも現れたのだ。


 咄嗟(とっさ)に近場の一本を弾いて軌道を変更した翔。だが、その一本が始まりだったとでも言うように、長針が次から次へと目の前に出現する。どれだけ軌道を変えても、どれだけスピードを上げても長針が追いすがってくる。


「しっかりしなさい!」


 翔の足に突き刺さりそうだった長針の一本を、マルティナが払い飛ばす。


「悪ぃ、助かった! けど.......くそっ! 振り切れねぇ!」


 先ほどの寝ぼけた射撃が嘘であったかのように、今では長針の全てが至近(しきん)に出現する。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう、これこそがウィローの切り札。自身の運命を選び直すには飽き足らず、全ての選択肢をこの場に顕現させる。多重平行再選択(グランドリセット)とは、()()()()()()()()()()()()()であったのだ。


 この魔法を発動すれば、ウィローは別の選択肢によって生まれる筈だった自分を無限に呼び出す事が出来る。長針一本の射出をとっても、あらぬ方向に発射していた選択肢を呼び出し、軌道を変えた翔達をいつまでも狙い続けることが出来るのだ。


「原理は分かんねぇけど、このまま飛んでたら撃ち落されるって事はよく分かる!」


「そうね。今はまだ飛んでくる針の数が何とかなる量だけれど、地上のあの悪魔はまだまだ増え続けてる。このまま耐え続けられるって楽観視は出来ないわ」


 今はまだ、飛んでくる方向が下からだけというのもあって、翔とマルティナの二人で対応が出来ている。しかし、次の瞬間に上からも横からも長針が出現しないとは言い切れない。ゆえに対応できる余裕がある現状こそが、反攻できる最後のチャンスであると言えた。


「マルティナ、勝負に出る!」


「当り前よ!」


 元々が負けず嫌いで、全力を賭す事を(いと)わない二人だ。危機的状況で意見はすぐにまとまった。


 マルティナの同意と共に、翔の擬翼(ぎよく)は姿を変えていく。翼は前方へと移動し、視界すら(さえぎ)り、突撃だけを考えた破滅的な形状に変化する。


 けれど同時に、それぞれの(ふし)が合わさる事によって、内側の翔達を守る傘のような形となる。その姿はダンタリアによって名付けられた名前の通り、未来を目指して空へと飛び立つ鳳仙花(ホウセンカ)の種子のようだった。


擬翼一擲(ぎよくいってき) 鳳仙花(ホウセンカ)アァァァ!」


 噴出口から膨大な魔力が噴出され、ただでさえ長針を振り切るために加速していたスピードはさらなる高みを目指していく。


「マルティナ! 絶対に手を離すなよ!」


「余計な事を考えるな! ただひたすらに、あの悪魔を討伐する事だけに全力を注ぎなさい!」


「そうかよ! ならあの骨董品(こっとうひん)、この一撃でぶっ潰す!」


 気遣う翔と、彼の言葉を()退()けてまで悪魔の討伐に集中するマルティナ。どこまでも噛み合わない二人の意見だったが、認め合った間柄だからこその信頼が生まれていた。


 そうして降り注ぐ流星の種子は速度をさらに上げ、地上に陣取るウィロー達に向かって落ちていく。


__________________________________________________________


 もちろんウィローもその光景を眺めているだけではない。


 真正面からの射出はもちろんの事、側面への出現、背面を狙った自然落下の選択など、ありとあらゆる角度から翔達を串刺しにせんと攻撃を行っている。けれども、追いかける長針は弾速の違いによって置き去りとなり、直撃する長針も擬翼のシェルターに阻まれてしまう。


 この場に必要なのは、突撃から逃げ切る機動力か防御を貫くほどの攻撃力。だがしかし、そのどちらもウィローは持ち合わせていなかった。


「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇ! かくなる上はっ!」


 直撃を()らうのは確実と判断したのだろう。突然全てのウィローが集まり始めると、それぞれがそれぞれを押しつぶし、踏み砕かれる事も承知でただただ密集していく。そうしてこれ以上の密集が不可能になると、今度はその方向を上へと伸ばしていく。


 元々が不均一の身体であり、その上負傷箇所も様々なウィローの軍団。その密集は普通であれば、弾かれ、組み合わず、引っかかり、ずれ込んでしまい、とても今の密集隊形を作る事は困難だっただろう。


 しかし、魔法の発動ごとに個体そのものが成り替わるウィローにとって、個の意識というのは希薄(きはく)なものだ。そんなウィローの軍団にとっての目標は、一体でもこの場を生き延びる事。逆に言えば、それ以外の個体を全て犠牲にしてでも構わないという事だ。


 そんな(いびつ)執念(しゅうねん)によって支えられた生への執着(しゅうちゃく)は、翔達の切り札が直撃する前に命を散らす個体がいても構わないという信念の元に組み合っていく。


 まるで鉄に別種の鉄を重ね合わせる事で強靭(きょうじん)さを増す日本刀の(ごと)く、強大で(みにく)い大砦を作り上げる事に成功していた。


「これこそが選択の秘奥(ひおう)! 全ての選択肢を吟味(ぎんみ)出来る者の特権! 私を護る()()の結束の証! 一度の選択で絶望し、戻る事すら叶わないニンゲン二匹(ごと)きの魔法で越えられるものかあぁぁぁぁぁぁ!」


 空から迫る流星に、ウィローの魂の叫びがぶつかった。

__________________________________________________________


 すでに落下体勢に入り、ただただ己の全力を叩き込む事だけを考えていた翔。そんな彼にもウィローの思惑と醜き魂の叫びが、情報として頭に入り込んできた。


 自分達の勝利を微塵(みじん)も疑っていなかった翔だが、それはそれとして最後まで人間を侮辱(ぶじょく)し続けるウィローの態度が(しゃく)(さわ)った。


 このまま言われっぱなしで終わるのは、気に食わなかった。だから翔はウィローの断末魔に負けず劣らずの大声で叫んでやった。


 そして、その気持ちはマルティナも一緒だったらしい。


「てめぇのそれは、()()()()()()って言うんだよ! 一つの選択を信じ続けた俺達の方が、強いに決まってんだろうがあぁぁ!」


「私達は自分の選択を信じて歩いて行ける! 自分の選択からすら逃げ出す悪魔(ごと)きが、人の選択に口を挟むなあぁぁぁ!」


 二人の魂の叫びと極大の流星が、複製される事で豪雨のように落下する。


「「「ぎゃああああぁぁぁぁ!」」」


 組み上げられた大砦が、なす術もなく断末魔の悲鳴を上げて飲み込まれていく。


 流石に一度目の直撃こそ耐えきった大砦だったが、三発、四発と連続して降り注いだ衝撃よって、ウィロー本体の姿を晒す大穴を作り出してしまう。


 もはや、この場に選択肢は残されていなかった。


「認めん......この私が、これほどの無様を(さら)すなど、認められるかあぁぁぁぁ! 再選(リセ)ッ_!」


 大砦すら耐えられなかった衝撃を、たった一体のウィローが耐えられる(はず)もない。他のウィロー達同様に断末魔の叫びを上げながら、残ったウィローも衝撃の流星群に飲み込まれていく。


 断末魔の奥に隠れた魔法の発動を、この場で耳にした者はいなかった。


 なぜなら国外代表(アウターナンバー) 選択のウィローの討伐に限界を振り絞った二人には、もはや気力など一欠片も残されていなかったからだ。


 次の瞬間には意識を失って、地面に叩きつけられてもおかしくはない。


 しかし、そんな悲劇は起こらなかった。この場には全ての光景、全ての展開を傍観していた者がいた。そう、知識の魔王の手によって、お互い別々の黒穴の中へと飲み込まれたからだ。


 決闘の決着がうやむやになったというのに、二人に手を貸したのは知識の魔王の気まぐれか。それとも代わりの物語を楽しめた事への報酬か。


 ダンタリアの胸の内は、誰にも分からなかった。

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