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創造魔法と少年の大失敗

 ダンタリアが杖を振り、四つの魔法大系の相関を記した紙が変化する。


 唯一何も記されていなかった中央のスペース、そこに大きく創造と書かれた文字が出現し、四隅(よすみ)に向かって双方向の矢印が出現したのだ。


「これが......創造魔法の立ち位置ってことか?」


 翔はこれまでの説明もあって、自らの魔法が奇妙な場所に位置していることに気が付いた。


「そうだよ。ふふっ、気付いたかい? 君の魔法の立ち位置が随分と特殊だということを」


 翔の困惑の表情が可笑しかったのだろう、ダンタリアがクスクスと笑う。同時に彼女の反応から、このために創造魔法の説明を最後に持ってきていたのだと気が付いた。


「特殊ってレベルの話じゃないだろ......なんで他の魔法と違って全部の魔法に矢印が向かってんだよ。それにこの矢印って、魔法の相性を表したものだろ? なんで両側に矢印が付いてるんだよ」


 翔は自分がダンタリアの思い通りになっていることにぶすっと不機嫌になりつつも、質問をする。


「ふふふっ、君は本当に思った通りの反応を返してくれるね。こっちも仕掛けがいがあるよ。あぁ、すまない。流石にからかいすぎた。説明に移るとしよう」


 結構な時間クスクスと笑い続けていたダンタリアだったが、最後に反省するように苦笑し、表面上は真面目な態度に戻った。


「端的に言うなら、創造魔法は望んだものをゼロから生み出す魔法だ」


「......それは分かってる。この力のおかげであの決闘馬鹿(タイマンバカ)の魔王をなんとか出来たんだからな」


 ダンタリアの説明を受けて、翔が右手に木刀を出現させた。


「けど、あんたから魔法の説明を受けて分かった。例えばこの木刀を出すこと一つをとってみても、契約魔法なら簡単だし、召喚魔法でも使い魔として出すことが出来るよな?」


 そして重ねるように翔が今日の説明を受けて、生まれた疑問を口に出した。


「そうだね。木刀を生み出すだけなら、その二つでも似たことが出来る」


「なら創造魔法の強みって何なんだ?」


 これまでの説明を受けて翔は思ったのだ。この魔法は他の魔法大系の劣化魔法ではないのかと。


 契約魔法であれば、手元に木刀を作り出す他に、一定の範囲に入ってきた相手に向けて飛び出す木刀なんかも作れるだろう。


 召喚魔法であれば、自分で木刀を振り回しながらも、他にも複数の木刀を迎撃(げいげき)用として浮かばせておくことで、両手に木刀を握るよりもずっと効果的な戦い方が出来るだろう。


 そして、始祖魔法の説明の時にダンタリアが言っていたはずだ。一つの魔法が最強であれば、他の魔法は使う必要が無いと。


 一方には強いが、一方には弱い。数は違えど三すくみのような関係。これであれば、四つの魔法大系が発展していったことが理解出来る。


 けれど、他の魔法の劣化とも言える創造魔法では、この関係に割り込む余地などないはずだ。翔は魔法大系の一つとして創造魔法が存在出来る理由が分からなかったのだ。


「なるほど。創造魔法という名の劣化品が、他の四つに比肩しうる力が無いのに、傲慢にも魔法大系を名乗っていることが理解出来ないといった所かな?」


「そこまでは言ってねぇだろ! というか今の言葉の通りなら、俺は魔法大系にも含まれない弱小魔法しか使えない落ちこぼれになるだろうが! ただでさえ落ちこぼれなのに、ツキもねぇならやってられるか!」


「ふふっ、それはかわいそうだ。ならさっさと答え合わせをしてしまおう。創造魔法の強みは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「......いや、それは分かってるんだよ」


 もったいぶったダンタリアの回答に、翔は思わず肩を落としてしまう。彼も自らの魔法が想像力を基に、望んだものを生み出せることは最初から理解していたからだ。


 だが、何でも生み出せる代償ゆえか、生み出したものは手を離した瞬間に消滅してしまう。おまけに生み出すための想像力が少しでも稚拙になると、魔力消費が格段に増えてしまうことも理解していた。


 これでは結局、劣化魔法の(そし)りを避けられているとはとても言えなかった。だからこそ翔は、悪い方向に自分の予測が当たってしまったことで落胆したのだ。


 しかし、そんな翔の表情を見ても、ダンタリアは楽しそうな表情を崩さない。


「......なんだよ。そんなに俺がガッカリするのが楽しかったのか?」


「いやいや。今までの君との掛け合いから考えて、おそらく君がまた早とちりをしているんだろうなぁと思ってね」


「早とちり?」


「少年、創造魔法は何でも生み出せるんだ。()()()()()()()、だよ? そんな魔法が弱いとまだ思うかい?」


「だから、それは分かってるっての。けど、手から離せば消えてしまうようなものを、いくら生み出したところで......」


「手から離せば消える? それは君がそうなるように生み出したからに決まってるじゃないか。例えば、初めて魔法を発動した場面で、君は無意識の内に相手に武器を取られ、利用されることを危惧したんじゃないかい?」


「えっ......? あっ......」


 翔が初めて魔法を発動した場所。それは忘れもしない言葉の眷属二言(にごん)と対面した学校だ。


 あの時自分は重傷を負っていた。そして朦朧とする意識の中でこう考えていたはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは言葉を変えれば自分は死ぬが、相手にも手傷を与えて死ぬということになる。


 その望みを実行するのであれば、自分の死後に姫野をさらなる脅威にさらすような武器を、二言の手に渡すわけにはいかない。


 そうなれば、自分が死ぬか戦闘不能になった時点で、無力化する武器が必要になる。そう、例えば死して手から離れた瞬間に、消滅するような武器などだ。


「ああぁっ! だからか! だから手から離した瞬間に武器が消えてたってことか!」


 自分のとんでもない勘違いと、それが自分自身の足をどれだけ引っ張っていたかに気付き、翔は恥ずかしさのあまり自身の頭をテーブルに打ち付けた。


 小気味いい音が静かな図書館内に響き渡る。さすがのダンタリアと言えど、翔の自白と自爆には少々呆れ気味になっていた。


 そして彼女にしては珍しく、少々歯切れの悪い解説が始まる。


「......まぁ、傷口に塩を塗るようで悪いけど、解説が契約だからね。創造魔法はイメージの固定が大切だ。同時に創造魔法使いが陥りやすい最初のスランプとして、一番初めに生み出した物のイメージに引っ張られるというものがある。例えば生み出したものが、手を離した瞬間に消えるような余計なルールを付けたら、その施行にもその後に生み出す物にも余計な魔力消費が......」


「やめろ......思ってるんなら死体を蹴飛ばすんじゃねぇよ......」


 ダンタリアの悪意無き正論に耐えられず、翔は彼女の言葉を遮った。


 そうしてテーブルから顔を上げてちらりと覗いた彼女の顔には、初めて見る(あわれ)みの感情がありありと表れていた。


「まぁ、その、ね。魔力を湯水のように投げ捨てながらも、剣の魔王を打倒したことは本当に称賛に値するよ」


「てめぇは死体を粉々にしねぇと気が済まねぇのか! クソおぉ!」


 ダンタリアに悪気はない。けれど、その解説という名の死体蹴りに、翔はもう一度テーブルに突っ伏した。


 もし心半ばで力尽きることがあれば、必ずダンタリアの枕元には立ってやる。羞恥で(ろく)に働かない思考の中で翔は固く誓った。

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