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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして

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遮り侵そうと芽吹く命 その十一

「いったいどうなってるのよ! 現世の魔法は衰退の一途じゃなかったの!?」


 凛花の中のベラドンナが見た景色は、想像していた現世の風景とはまるで異なっていた。


 転移に次ぐ転移。そこから地上に降り立つなり、翼を地面と並行に展開して魔力を一気に放出。周辺の砲口群を一気に吹き飛ばす。所詮は僅かな魔力と大地を材料にした量産品だ。すっかり綺麗に整地されたところで、数拍もしない内に発射準備は整うであろう。


 しかし、翔達からしてみれば、その数瞬こそが最も求めていた時間。砦へと辿り着き、目当てのモノに望んだ変化を起こすための時間である。目的の達成という意味の戦況では、悪魔殺し側が圧倒的優位を手にしつつあった。


 だが、悪魔殺し達は苦戦をしていた筈だ。立ち位置こそ優位にこそ立っていたが、妨害による大きな消耗によってタイムリミットを背負っていた筈だ。なのに今の彼らには、魔力の消耗を気にする様子がまるでない。凛花も言っていた様に、これはいったいどういうことなのか。


「ハハッ! 細かい事は気にすんなよ! 俺達は賭けて、そして勝った! 後はもう一度それを繰り返すだけだ!」


「このっ......! 私がどんな思いで目覚めの重ね掛けに挑戦したと思って......!」


「終わり良ければ全て良しだろ?」


「戦いは終わってないし、そもそも賭けの清算も済んでない! あんたは今、()()()()()()()()()()()。言うなれば、覚醒した意識をさらなる覚醒状態に無理矢理移行させた状態なのよ! そんな状態が長続きすると思う!? この場で身体が弾け飛んでないのが不思議なくらいなのよ!」


 悪魔殺し陣営の飛躍。それは凛花の魔法によって、二度目の目覚めを獲得した翔の活躍にあった。


 ベリトとの戦いが始まってから、翔は常に物量差による苦戦を強いられてきた。


 分け身、宝石人間、菌糸の支配、そして大地を埋め尽くす砲口。一つ一つの難事であれば、翔も魔力によるごり押しが出来た。けれども、それらが連なり終わりも見えないとなれば、どうしても魔力量を気にして動かなければならななかった。


 マルティナの始祖魔法による物量差は、魔力の最大出力で押し返す事が出来た。手加減していたとはいえ、あのラウラの攻勢すら、翔は魔力量で突破する事が出来た。つまり、出力を気にしない下地があれば、むしろ彼は物量に対して強いのである。


 魔力の回復力や純粋な貯蔵量など、鍛えたいと思って鍛えられる分野ではない。どちらかといえば才能の部類。持って生まれた資質がものを言う分野である。だが、この場にはそんな常識を覆せる存在が生まれた。凛花という新たな悪魔殺しが生まれたのだ。


 凛花の操る目覚めの魔法によって、一度目は転移魔法を手にする事が出来た。けれど、その力を以てしても、目的地にはあと一歩届かない。ならば、さらなる一歩を加えればいい。目覚めの重複という、術者すら半狂乱に陥る奇策を用いて。


「んなこと言ったって、今の俺はいつも以上に最高の調子だぞ?」


「そりゃ、与えられた力にも降って湧いた魔力にも酔っている状態だもの。あんたはそうでしょうね! だけど、背中で縮こまっている私の身にもなりなさい! 誰が好き好んで、爆弾と運命を共にしたいってのよ!」


 目覚めを根源とする凛花が言っている様に、本来の彼女の魔法は一対象に一度ずつが大前提だ。時が空けば、新たな目覚めを与える事もある。だが、次から次へと才能を叩き起こすなど、どう考えたって正気の沙汰ではない。


 凛花も言っていた様に、それは覚醒に覚醒を与える状態に近い。現世でもゾーンやドーピング、催眠など種類はあるだろうが、いずれにせよ無理をしている状態には変わらないのだ。


 そして、現世における意識の覚醒すら、そんな認識なのである。目覚めに限定した魔法で再現などすれば、どんな副作用がどれほどの時間で訪れるか予想が付かないのだ。


 ベラドンナという悪魔は、向上心こそ高いが非常に卑屈な性格である。要するに、悪魔殺しの契約という大きなリターンが望める賭けでもなければ、基本的に未知へと飛び込むリスクは侵さない性格なのだ。


 根源魔法であるからには、同じ森羅の国民と言えど簡単に見せる訳にはいかない。そこらの魔獣で実験しようにも、下手な覚醒でしっぺ返しが来ないとも限らない。つまり、ベラドンナは自身の魔法を、自分への強化魔法としてしかまともに使用してこなかったのだ。


 そんな彼女だからこそ、今の翔の状態は恐ろしい。


 凛花が二度目の目覚めとして選んだのは、魔力回復の魔法。翔の戦闘スタイルであれば目覚めで失うには惜し過ぎる才能に思えたが、彼はこの場の勝利のために喜んで目覚めを選択した。


 一度目がそうであったように、凛花には翔が手にした魔法の細部は分からない。けれども、ぶっきらぼうながら安定していた精神が、あまりに明るく目に見えて不安定となっているのだ。何らかの副作用が生まれているのは、間違いないと言えた。


 そして、石橋を叩き続けてきた凛花には、副作用の終わりがどこまでか分からない。目覚めた才能の就寝か、それとも無理に才能を詰め込んだ器の暴発か。あるいは魔力か肉体の永劫なる眠りか。


 いずれにしても、翔が倒れれば凛花は戦場のど真ん中に取り残される事となる。ベリト側からしてみれば、ここまで引っ掻き回して少なくない消耗を与えた相手である。打つ手が無くなった後の末路は容易に想像が出来た。


 だから、凛花は必死に翔の手綱を握ろうとしていた。戦術的撤退よりかは、器に魔力が補充される討伐の方が何倍も嬉しい。そんな欲に駆られたせいで、撤退を選択出来る機会はとっくに過ぎ去っていたのだから。


「分かった分かった! 砦にさっさと移動して、事を済ませりゃいいんだろ! だったら、ホラ!」


「ひょえっ!?」


 瞬時に切り替わる景色。身に覚えのある光景。間違いない。あれほど消耗が激しいと出し渋りをしていた転移魔法を、翔はいとも簡単に連発したのである。


「転移魔法も回復魔法も、才能と長い努力があって目覚める希少な力。なのになんだってこいつは簡単そうに......! ええい、話は後よ!」


 どこか意識が宙に浮いている状態の翔だが、少なくとも意志の疎通とやるべき目的を見失ってはいない。それなら副作用が悪化しない内に、凛花はやるべき事をやるだけだ。


 崩れ落ちた植物群の内部に潜り込み、青臭い汁が身体を汚す事も厭わずに凛花は目的物を探す。時間はそれほどかからなかった。彼女の手には、急成長を遂げた植物の果実が。詳細に述べるなら植物の種子が手に入った。


「そもそも、これだってあいつの提案じゃない......!」


 翔が言い出しっぺだった事を思い出し、凛花は愚痴を零しながらも準備に邁進する。


 果実を砕き、中の種子を取り出し、翔経由でマルティナから渡されていた劇物をポケットから慎重に取り出す。


 それはとある悪魔殺しの血液が凝固した物。彼女以外の魔力に反応し、魔力を完全な静止状態へと移行させる恐ろしき物体であった。


「さぁ、菌糸に追われ、避難先でもまともな環境にありつけなかった憐れな子よ。あなたの目覚めを保証するわ。その力を以てして、本能が赴くままに菌糸を食い荒らしなさい!」


 種子を凝固した血液へと埋め込み、犬歯で自らの指に迷わず傷を付ける。


 凝固した血液が凛花の魔力に反応し、結晶化反応を引き起こしていく。内部の種子も、成すがままに結晶化の中に取り込まれていく。


 およそ植物が芽を出すには、最悪に近いと言い切れる状況。されど、その環境が良かった。抱えた苦難こそが望んでいたものだった。


 後は種子の目覚めを待つだけ。翔の活躍を信じるだけだった。

次回更新は11/17の予定です。

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