四つの特性、四つの相性
ダンタリアが手を叩くと、テーブルの中央に今までの魔法大系を記入していた白い紙が移動していた。
次に彼女がトントンとテーブルを叩くと白い紙が持ち上がり、記入されていた文字が光りだす。
記された文字は右上から時計回りに始祖、召喚、契約、変化。そしてその紙に向けて杖を一振り。
すると、始祖魔法から召喚魔法へと矢印が引かれ、続くように変化魔法から始祖魔法へと矢印が引かれた。
翔が紙を見つめていると、またしてもトントンとテーブルを叩く音がする。
彼が音の方へと目線を移すと、いつの間にかテーブルには手に平サイズの人形がいくつか出現していた。
手から炎を吹き出す魔術師の人形、胴着姿の武道家の人形、他の二体よりも小さい代わりに十体出現したアリ型人形の三種類だ。
「始祖魔法は操る対象さえあれば、それなりの威力の魔法を広範囲に放つことが出来るのが強みだ。ゆえに対物量戦を得意とし、召喚魔法使いとの相性は抜群。逆に個人が一騎当千の力を持つ変化魔法使いは苦手としているね」
ダンタリアの説明が終わると人形達は一人でに動き出し、それぞれの人形で争い始めた。
最初に動き出したのはアリ人形達。彼らは数を活かして魔術師人形を取り囲むところまでは成功したが、魔術師人形から放たれた炎弾によって一匹残らず焼き払われてしまった。
次に動き出したのは武道家人形だ。魔術師人形に向かって、真っすぐ愚直に突っ込んでいく。
そんな武道家人形に対して、魔術師人形も先ほどのような迎撃を行う。しかし、武道家人形は所々から煙を上げながらも炎を突っ切り、魔術師人形に拳を一発。そのたった一発で魔術師人形をバラバラにしてしまった。
その光景を見て翔は気付いた。ダンタリアは口頭の説明だけではなく、人形をそれぞれの魔法大系を操る魔法使いに見立てて、説明を行ってくれているのだと。
説明の通りであれば、今は始祖魔法の相性を実演してくれたのだろう。
そして一つの実演が終わったダンタリアは、先ほどと同じように杖を振る。
すると召喚魔法から契約魔法へと線が引かれ、同時に先ほど出現した十匹のアリ人形と、恐ろしい形相で魔法陣に祈りを捧げる人形が現れた。
「召喚魔法は数の力による物量戦と、増やした目と耳、口を用いた情報戦が強みだ。そしてそれは契約魔法の天敵を意味する。なんせ大規模契約魔法は情報網を用いて発動前に露見してしまう。罠型は使い魔を用いた肉の盾によって無理やり突破されてしまう。通常型も言わずもがなだ」
アリ人形達は先ほどと同じように狂信者人形を取り囲むと、じりじりとその包囲を狭め始めた。
もちろん狂信者人形も指を加えて見ているままではない。あらかじめ準備していたのだろう落とし穴へと三匹を落とし、頭上に出現したボウガンによって二体を撃破したが、そこまでだった。
残った五体のアリ人形に群がられ、彼らが離れた後にはデフォルメされた骸骨のみが残されていた。
寸劇が終わると三度ダンタリアは杖を振るう。すると残されていた契約魔法から変化魔法へも矢印が引かれ、狂信者人形と武道家人形が出現する。
「契約魔法は条件さえ揃えば魔力の踏み倒しやノーモーションで強力な魔法を放てたりなど、自分の土俵に持ち込んだ際に無類の強さを発揮する。そして魔法こそ強力だが、射程距離の短い変化魔法使いは、罠型を全て踏み抜き、強力な魔法を真正面から喰らってくれる一番のカモと言えるね」
武道家人形が狂信者人形に向かって真っすぐ走り出す。
しかし、近付くまでの間に武道家人形の身体にはボウガンの矢がいくつも刺さり、落とし穴にも落ちてしまった。
実際の戦いにおいて、そんな時間は致命的な隙だ。条件が整ったのだろう、狂信者人形の足元に魔法陣が出現し、怪しく輝きだす。
すると、落とし穴から抜け出そうともがく武道家人形の頭上に巨大な杭が出現し、落とし穴ごとそのまま押しつぶしてしまった。
「先に実演してしまったから、説明だけにさせてもらうよ。変化魔法は肉体を強化する内向きと相手に不可逆の変化を与える外向きの二種類を用いた接近戦が強みだ。そのため範囲は広くてもダメージは致命的じゃない始祖魔法と相性が良いけど、強化した肉体の内側からダメージを与えたり、そもそも肉体強化では耐えられない強力な魔法を放つことが出来る契約魔法は相性が悪い。こんなところかな?」
説明を終えて満足したようにダンタリアが紅茶を飲む。その目線が翔に向いていることからも、どうやら質疑応答の時間らしい。
「質問ってことでいいんだな? ならそれぞれの得意な魔法と苦手な魔法ってのは理解したんだが、始祖魔法と契約魔法、召喚魔法と変化魔法の組み合わせなんかの、矢印が引かれていない組み合わせは戦ったらどうなるんだ?」
「一般的には五分五分と言われているね。始祖魔法と契約魔法は、魔法大系の差というより術者の力量で勝敗が左右されることが多い。もう一つの変化魔法と召喚魔法は、もちろん近付きさえすれば変化魔法の圧勝だ。けれど召喚魔法が変化魔法の射程に入ることは絶対にない。お互いに勝負に出れないという意味の五分五分だよ」
「......なるほどな。そうやって苦手な魔法に対抗するためだったり、得意な魔法を確実に叩き潰せるように魔法は発達していったってわけか。それで? 終了の雰囲気を出してるけど、肝心の創造魔法については教えてくれるのか?」
まとめに入ったように見えるダンタリアに、翔は創造魔法の説明をすっぽかされないようツッコミを入れる。
「もちろんさ。五大魔法大系最後の魔法の説明に移るとしよう」
翔の一言を承知したとばかりに、ダンタリアは杖を一振りした。
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